IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

取締役退任後の引継義務履行としてのパスワード開示請求 大阪高判平31.3.27(平30ネ1767)

在職中に業務に関するインスタグラムのアカウントを担当していた取締役に対し,パスワードの開示等を求めた事案。

事案の概要

f:id:redips:20200924231337p:plain

Yは,X社の代表取締役として,個人のgmailアドレスを用いてインスタグラムのアカウント(本件アカウント)を作成し,Xが販売していた商品の写真等を投稿していた。Yは他にも,元ラグビー日本代表選手であったことから,本件アカウントには仲間のラグビー選手の写真なども投稿されていた。なお,本件アカウント名の一部には,Xのブランド名が含まれていた。また,アカウントのホーム画面にはXのウェブサイトのリンクが設置されていた。

Yは平成29年5月1日にXの代表取締役を退任し,取締役も辞任した。その後,Xは,本件アカウントにログインできないことから,商品の写真を投稿することができず,利用者が減少して営業上の損害を被ったとして,Yに対し,取締役辞任に伴う引継義務(民法645条,会社法330条)の履行として,本件アカウントのパスワードの開示と,その不履行による損害賠償として300万円の支払いを求めた。

原審(大阪地判平30.7.20)では,本件アカウントの利用者たる地位がXに帰属していたものではないとして,Xの請求をすべて棄却した。

ここで取り上げる争点

争点(1)Yによるパスワード開示義務の存否
争点(2)Yの不履行による損害の額

裁判所の判断

争点(1)Yによるパスワード開示義務の存否

まず,本件アカウントの利用者の地位がYに帰属するという判断は原審と変わりなかった。

インスタグラム社に対する関係において,本件アカウントは,その利用者たる地位は,これを開設し,そのメールアドレスを提供したYに帰属するものといわざるを得ない。

他方で,裁判所は次のような事情を挙げて,本件アカウントについて,Yは,Xの業務(広報や販売促進の手段)の一環として開設し,管理運営してきたとして,委任契約の終了にあたってYが負う引継義務には,本件アカウントの移管が含まれるとした。

(ア) 本件アカウントのユーザー名は,X出願登録と全く同一の文字列により構成されており,本件アカウントのユーザー名が小文字でしか登録できないことを考慮すると,本件アカウントは,外形的にXの業務との関連を示すものとなっている。

(イ) 本件アカウントのユーザー名は,YがXの取締役であった際,そのフランチャイジーの管理者であったAらに対し,フランチャイジー店舗のSNSのアカウントのユーザーネームを,出願登録商標と同一文字列を含むもの,すなわち本件アカウントのユーザー名を含むものとなるよう指示していたから,フランチャイジー店舗のアカウント管理同様,本件アカウント管理もXの業務に含まれることを意識していたことを示唆するものというべきである。

(ウ) 本件アカウントの閲覧により最初に現れる画面に表示されるX公式ウェブサイトのトップページ(ホームページ)へのハイパーリンクが設定されており,このことも,本件アカウントがXの業務それ自体と関連することを示すものである。

(ほかにも,Yがもう一つ別のアカウントを有していたこと,当該アカウントでは「私事に関する写真が中心となって投稿」されていると認定されている。)

以上のように述べて,パスワード開示請求を認めた。

本件アカウントの利用者たる地位は,YがXに対しその管理を移転すべき義務を負うというべきであり,インスタグラム社に対する関係においても,YがXに対し,その地位の移転義務を負うのであって,その移転義務の履行として,本件アカウントのパスワード開示を求める請求は理由がある。

争点(2)Yの不履行による損害の額

裁判所は,Yがアカウントの引継ぎを行わなかったことによる損害として,民訴法248条を適用し,50万円と認定した。

ア 損害金額の算定については,本件アカウントを通じて受け得るのは,飽くまでもインスタグラム社に個人が投稿し,これを共有閲覧し得るというサービスであり,業として専門の広告を行うものではないし,取り分け,平成30年8月までの期間について主張される利益は,本件アカウントの広告媒体としての機能を失わせたり,積極的な毀損行為と評価し得る変更がされたことに基づくものではなく,更新できないという消極的なものにとどまっているのであり,実際にも,数字上フォロワー数は1割程度しか減少していない(略)。そうすると,これらの不利益は,社会通念上売上に何らかの影響を及ぼしていることは明らかであるが,これがいかなる金額となるかを算定することは困難である。
(略)

イ 翻って,上記(1)イのとおり,本件アカウントを更新できない不利益及び非公開とされた不利益は,いずれも財産的損害として観念できるところであり,損害の性質上その額を立証することが極めて困難といえるから,民事訴訟法248条に基づき,更新などの利用ができなかった期間は平成29年5月から平成30年8月の1年3か月であり,その後「非公開」設定とされ,他のインスタグラム利用者もこれを共有閲覧し得なくなったのは,当審の口頭弁論終結時(平成31年1月)までの5か月に及ぶこと,その間のフォロワー数の減少の程度をはじめとする諸事情を考慮した上,損害額を50万円と認定する。

若干のコメント

本件は,SNSのアカウントが誰のものか,という素朴な論点から,たとえ個人アカウントであっても広告目的で使われていた場合において退任・退職後にどのように扱うべきかという論点について興味深い判断がなされました。

登録に用いられたメールアドレスが個人アドレスであったことなどから,インスタグラムとの契約当事者は元取締役個人であったと認定しつつも,その投稿内容から,アカウント管理業務がXの取締役としての職務に含まれていたとして,退任時の引継業務としてパスワード開示義務があるとしました。

具体的には主文には,

被控訴人は,控訴人に対し,訴外インスタグラムエルエルシーから付与されたアカウント(別紙記載のユーザー名及び閲覧用URLが初期登録されたもの)のパスワードを開示せよ。

と書かれています。Xは,請求の根拠として,会社と取締役の関係が委任関係(会社法330条)であることを前提に,受任者による報告義務(民法645条)を挙げています。

第六百四十五条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

仮に,Yが取締役ではなく従業員であった場合,雇用契約上の義務として民法645条と同様の規定はないのですが, Yが従業員であったとしても,就業規則等の引継義務あるいは信義則上の義務として認められていた可能性はあると思われます。

この報告義務に関する規定は,幅広い適用場面があると思います。例えば,システムの保守を委託していたベンダとの関係が悪くなって,契約が終了したものの,管理していたサーバのrootのパスワードがわからなくなった,といったようなトラブルの際,保守契約(準委任契約)の終了に伴う報告義務として開示請求(あるいは移管作業の履行請求)をしたことがあります*1。しかし,実際に私が担当したケースでは訴訟にまで至っていませんし,実際に裁判上の請求としてこの種の請求が認められたのは珍しいのではないかと思います。ただし,難点は,本件のようなSNSアカウントやサーバのパスワードを請求する場合,訴訟手続を待ってられないというところにあります。

*1:契約書等に,契約終了時の義務として,資料の返還あたりまでは定めてあっても,アカウント情報の開示・消去まで定めていないことが多い。

ウェブサイト制作委託契約における権利帰属と権利濫用 大阪地判令元.10.3(平30ワ5427)

ウェブサイトの制作委託契約において,開発の経緯等に照らして制作物の著作権が発注者に移転したこと及び,制作者による権利行使が権利濫用にあたると認められた事例

事案の概要

やや複雑な経緯を辿っているので簡略化して紹介する。

Yは,Xに対し,ウェブサイトの制作を委託し,XはXウェブサイトを制作した後,公開した。しかし,Yがレンタルサーバの費用を支払わなかったため,平成29年12月12日にXウェブサイトは凍結されて閲覧できなくなった。
その後,平成30年1月ころ,Yは,Xウェブサイトのデータを取得してYウェブサイトを制作し,ドメインを変更して公開した。


Xは,YがXウェブサイトを無断で複製して新たにYウェブサイトを公開したことが著作権及び著作者人格権の侵害並びに不法行為に該当するとして,差止及び損害賠償等を請求した。

ここで取り上げる争点

著作権侵害(複製権・翻案権)の成否
(1)Xウェブサイトの制作による著作権の帰属
(2)権利の濫用

裁判所の判断

争点(1)Xウェブサイトの制作による著作権の帰属

XウェブサイトとYウェブサイトの外観はほぼ同じであったが,そもそもXウェブサイトにかかる著作権がXに帰属するかどうかという前提が最大の争点となった。
この点に関し,Xウェブサイトの開発経緯は以下のように認定された。

  • Yは,旧ウェブサイトをAに制作させ,そのサーバの移管と保守をXに委託した
  • 旧ウェブサイトはスマートフォンタブレットに対応していなかったため,Yは,Xに対し,全面リニューアルを求めた
  • よって,Xウェブサイトは,Xの発意によるものではなく,Yの企業活動のために使用することが予定されていた
  • Xウェブサイトは,旧ウェブサイトをリニューアルされたものであって,Xウェブサイトのデザイン,記載内容や色調の基礎となったのは,リニューアル前の旧ウェブサイトである
  • Xウェブサイトは,Yの企業活動を紹介するものであって,その内容は,基本的にYに由来するというべきであり,XがYから仕様や構成について指示及び要望を聞いて制作したものである

以上の経緯を踏まえて,Xウェブサイトにかかる権利はYに帰属すると認定した。

XとYは,以上の内容・性質を有するXウェブサイトの制作について,本件制作業務委託契約を締結し,例えばXウェブサイトの権利をXに留保して,XがYに使用を許諾し使用料を収受するといった形式ではなく,Xウェブサイトの制作に対し,対価324万円を支払う旨を約したのであるから,XがXウェブサイトを制作し,Yのウェブサイトとして公開された時点で,その引渡しがあったものとして,Xウェブサイトに係る権利は,Xが制作したり購入したりした部分を含め,全体としてYに帰属したと解するのが相当である。

上記解釈は,Xウェブサイト制作後も,XがYに保守業務委託料の支払を求めていることとも合致する。すなわち,XウェブサイトがXのものであれば,Yがその保守をXに委託することはあり得ず,XウェブサイトがYのものであるからこそ,代金を支払ってその保守をXに委託したと考えられるからである。

また,上述のとおり,Xウェブサイトは,Yの企業としての活動そのものを内容とするものであるから,Xがこれを自ら利用したり,第三者に使用を許諾したり,あるいは第三者に権利を移転したりすることはおよそ予定されていないというべきであるから,Xウェブサイトについての権利がXに帰属するとすべき合理的理由はない。さらに,Xウェブサイトについての権利がXに帰属するとすれば,Yは,Xの許諾のない限り,Xウェブサイトの保守委託先を変更したり,使用するサーバを変更するためにXウェブサイトのデータを移転したりすることはできないことになるが,そのような結果は不合理といわざるを得ない。

以上より,XがXウェブサイトを制作したことを理由に,Xウェブサイトの著作権がXに帰属すると考えることはできず,Xウェブサイトの著作権は,Yに帰属するものと解すべきである。

なお,Y名義で作成されたXウェブサイトの制作委託にかかる注文書の「仕様」欄には,「全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利は,制作者のXに帰属するものとする。」との記載があった。しかし,裁判所は,Yがそのような合意を成立させる趣旨で注文書に当該記載をしたとは認められないとして,注文書の記載どおりの合意があったとは認めなかった。

争点(2)権利の濫用

さらには,裁判所は,XがYウェブサイトに対する権利行使をすることは権利の濫用に当たると述べた(改行を適宜追加)。

ア 本件の事実関係を前提とすると,仮に,Xウェブサイトの一部に,Xの著作物と認めるべき部分が存在する場合であったとしても,以下に述べるとおり,Xが,その部分の著作権を理由に,Yウェブサイトに対する権利行使をすることは,権利の濫用に当たり許されないというべきである。

イ すなわち,前記認定したところによれば,
Xは,Xウェブサイト制作後,その保守管理を行っていたこと,
Yは,平成29年秋の時点で,Xに対する支払を遅滞し,本件サーバの更新料も支払っていなかったこと,
本件サーバを使用継続するには,同年11月30日に最低1万2960円(12か月分)を支払う必要があったが,Yはこれを徒過したこと,
同年12月12日,本件サーバは凍結され,Xウェブサイトの利用ができなくなったこと,
Yはその直後にXに13万8240円を振り込み,Xウェブサイトを復旧するようXに依頼したこと,
本件サーバの規約によれば,Xウェブサイトのようなドメインが失効した場合,利用期限日から30日以内であれば,更新費用を支払えば復旧可能であること,
Xは,同月13日,Yに対し,Xウェブサイトのデータは失われ,復旧するには再度制作する必要があり,その費用は434万円余であると伝えたこと,
Yは,Xの提案を断って,Zに,Xウェブサイトの復旧を依頼したこと,
Zは,Xウェブサイトのデータを利用してYウェブサイトを作成し,平成30年1月ころ公開したこと,
以上の事実が認められる。
(略)XがYに対し,本件サーバの更新費用を怠った場合のリスクについて,適切に警告し,期限を徒過しないよう十分注意したとは認められないし,Xウェブサイトの利用ができなくなった直後にYが金員を原告に振り込み,本件サーバの規約ではデータの使用が可能な期限内であるのに,Xが,データが失われ復旧もできないと説明したことが適切であったことを裏付ける事情や,復旧のために434万円余もの高額の費用が必要であると説明したことの合理的理由は見出し難い。かえって証人Zは,サーバが凍結された場合,サーバ会社に料金を支払えばすぐ復旧することができ,特に作業等をする必要はない旨を証言している。
(略)Xウェブサイトは,新たな顧客のために,Yの事業内容を紹介するのみならず,すでに顧客,会員となった者に対するサービスの提供も行っているのであるから,Xウェブサイトの停止は,Yの企業としての活動を停止することであり,その制作・保守・管理を行ったXは,当然にこれを了解していた。

ウ 前記イで述べたところによれば,Xウェブサイトが停止するまでのXの行為は,その保守・管理を受託した者として不十分であったというべきであるし,Xウェブサイトの停止後のXの行為は,Xウェブサイトの停止がYを窮地に追い込むことを知りながら,これを利用して,データは失われた,復旧できないと述べて,法外な代金を請求したものと解さざるを得ない。
 上述のとおり,Xウェブサイトの停止は企業としての活動の停止を意味し,既に検討したとおり,Xウェブサイトの著作権は全体としてYに帰属すると解されるのであるから,Yが,法外な代金を請求されたXとの信頼関係は失われたとして,Xの十分な了解を得ることなく,Xウェブサイトのデータを移転するようZに依頼したとしても,やむを得ないことであると評価せざるを得ない。

エ これらの事情を総合すると,仮に,Xウェブサイトの一部にXの著作権を認めるべき部分が存在していたとしても,本件の事情において,Xがその著作権を主張して,Yウェブサイトの利用等に対し権利行使することは,権利の濫用に当たり許されないというべきである。

以上のように述べて,その他の請求も含めてすべて棄却された。

若干のコメント

本件訴訟の第一のポイントは,明示的な著作権帰属・移転条項がない場合において,制作の経緯や,制作費の支払い,保守契約の締結の有無等の諸般の事情から,発注者に著作権が帰属すると認定した点です。

デフォルトルールは,報酬を支払ったら自動的に権利が発注者に帰属するなどということはなく,職務著作(著作権法15条)が成立する場合を除いては,原始的には制作者に権利が帰属し,移転させる旨の合意がない限りは制作者に留保されるのですが,本件では,注文書にわずかに制作者に帰属するといった記載があったものの,それを乗り越えて権利が移転したと認定しました。ただし,判決文では「帰属したと解する」という記載にとどまっており,原始的に帰属するとしたのか,移転する黙示の合意があったとするのかは明らかではありません。

実務上は,権利帰属・移転条項がなければ,制作者に留保されると考えられがちですが,周辺事情も考慮したうえでの判断が求められることになります。


第二のポイントは,仮に一部の権利がXに帰属するとしても,その権利を行使することが権利濫用になるとした点です。

権利濫用は簡単に認められるものではないですが,本件では,サーバ代金の支払いに遅れてウェブサイトが閉鎖されたのちに,代金を支払ったので,本来ならば簡単に復旧できるはずのところ,Xは,再制作の費用を請求したという事情がありました。

なぜXは裁判所に「法外な代金を請求」とまで言われることをしたのかは明らかではありませんが,一般論として,ユーザとベンダとの関係が悪化した際に,システムやデータを「人質」にとって好条件を勝ち取ろうとするベンダの態度に強い不満を持つユーザは少なくありません。積極的にデータを消去したりするような加害行為に及べばもちろん違法ですが,消極的な非協力的態度が場合によっては不法行為や権利濫用と認定されることを示唆しています。

データベースからのデータ抽出と不法行為 東京地判令元.12.19(平30ワ20123)

有償で提供しているDB中のデータが,提供先のサイトから無断で複製されていたという行為について不法行為に該当するか否かが問題となった事例。

事案の概要

ヤフーは,健康と医療に関する総合情報サービス(aサイト)を無料で公開していた。aサイトでは,病院・診療所検索機能があり,医療機関ごとに住所,電話番号,最寄駅,診療科目等の情報を検索,閲覧することができる。Xとヤフーとの間には,Xが作成・維持するDB(本件DB)に関する使用許諾契約が締結されており,当該使用許諾契約に基づいて,aサイトには医療機関の情報が掲載されていた。ただし,aサイトの情報はX以外にもNTTデータ等から提供された情報も含まれていた。

Yは,aサイトから情報を収集し,顧客の依頼に基づいて有償で提供するというサービスを提供しており,平成27年から29年の間に少なくとも27万円の売上があった。具体的には,顧客から依頼があると,Yは,aサイトのHTMLを解析し,必要な情報を抽出するプログラムを作成し,これを実行して収集した情報をエクセルシートに落とし込むという手法で提供していた。

Xは,Yに対し,Yの行為は本件DBの無断複製であって不法行為にあたるとして損害賠償を請求した。

ここで取り上げる争点

不法行為の成否
(Xは,本件DBが著作物であることを前提とする主張は行っていない。)

裁判所の判断

裁判所は,不法行為に該当する場合について次のように述べた。

Xが本件DBの作成及び維持(更新等)のために費用及び労力をかけており,本件DBに独立の経済的価値が存在すること及び本件DBが著作物として保護されるものではないことは,当事者間に争いがないところ,DBが著作物として保護されない場合には,当該DBに独立の経済的価値があるとしても,その情報を収集して他のDBに組み込む行為は,情報及びDBの内容及び性質,行為の態様及び目的,権利侵害の程度等に照らして,著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したと評価できる場合に限り,不法行為を構成すると解すべきである。

本件において,「著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したと評価できる場合」にあたるかどうかについて,まずは情報の性質,行為の態様について次のように述べた。

ア Yは,aサイトに掲載されている情報を収集して顧客に有償で提供しているところ,Yが顧客に提供した情報のうち,医療機関基本情報は,いずれもXがaサイトに有償で提供した本件DB上の情報(本件データ)であるから,Yが収集して顧客に提供した情報の大部分は,本件データと同一であると認められる。
また,Yは,収集した情報を顧客に有償で提供しており,営利目的を有する点で,Xと共通している。

イ 他方,本件データのうち,医療機関基本情報は,一般に公開される必要が高く,実際に公開されている情報であり,Yは,aサイトにおいて無料で公開されていた情報の中から,顧客が指定した条件に従って情報を収集したに止まり,労力及び時間をかければ顧客自身でも収集することが可能な情報について,その収集を代行していたにすぎないと評価することもできる。
また,Yが顧客に提供した情報の中には,当該医療機関のaサイトにおけるURL,郵便番号及び最寄出口からの所要時間に関する情報が含まれているが,これらの情報は,本件データに含まれておらず,本件DBとYが顧客に提供したエクセルデータとが全く同一であるというわけではない。
さらに,Yは,あくまでaサイトに無料で掲載されている情報の収集代行を業務としていたにすぎず,本件情報元記載の存在を考慮しても,Yに,Xの本件DBに対する権利を積極的に侵害しているとの認識があったと認めるに足りる証拠はない(上記のとおり,提供した情報の範囲も完全には一致しない。)。

続いて,権利侵害の程度について次のように述べた。

ア 前提事実のとおり,本件DBの主な市場は,検索サイトやコールセンター等への医療機関情報の提供,カーナビ向けの医療機関情報の提供及び診療圏(市場)調査である。そして,(略)Xは,顧客との間で,本件DBの更新を前提とする継続的な利用許諾契約を締結しており,(略)年間使用料は,提供する情報の範囲や更新頻度によって異なるが,数万円から数十万円程度である。

イ 一方,(略)Yの顧客は,企業,大学及び個人等であり,顧客の目的は市場調査や研究資料の収集等であることが認められるから,市場調査を目的とする場合等に,Xの顧客層と一部競合する。
しかし,本件Y業務の内容は,上記のとおり,特定の時点においてaサイトに無料で掲載されている情報の中から,顧客が指定する条件に従って情報を収集して顧客に提供するというものであり,顧客自身でも行おうと思えば行えるものである。情報の提供も1回限りであって,更新は予定されておらず,料金は,高いもので1件当たり5万円程度であり,証拠上認められる売上げは,合計27万1080円に止まる。そして,本件Y業務によって,Xが本件DBの販売機会を失ったと認めるに足りる証拠はない。

以上を踏まえ,裁判所は,

以上によれば,本件Y業務には,本件DBの無断複製と評価できる行為が含まれているものの,著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したとまではいい難く,不法行為には当たらないというべきである。

として,Xの請求をすべて退けた。

若干のコメント

本件は有償でデータを提供し,その提供先が運営するウェブサイトから当該データを無断で複製された場合において,元のデータ提供者が不法行為責任を追及したという事案です。医療機関の情報を網羅的に集めた情報の集積物は,著作権法12条の2第1項の「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。」の要件を満たさない(情報の選択に創作性があるとは言えないため。)ので,本件の原告も,著作権侵害という構成を取らなかったものと思われます。

裁判所は,不法行為が成立する場合は,「情報及びDBの内容及び性質,行為の態様及び目的,権利侵害の程度等に照らして,著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したと評価できる場合に」限るとしています。

事案の性質は異なりますが,我が国の著作権法のもとで保護されない著作物については,「同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではない」とした著名な裁判例があり(最判平23.12.8民集65-9-3275[北朝鮮映画事件]),著作権法で定める著作物には該当しないデータベースについて保護が認められるケースは限られます。当該最高裁判例の前の事案ですが,翼システム事件では,データベースの著作物該当性を否定しつつも,不法行為責任を認めた事例があります(東京地中間判平成13年5月25日判時1774号132頁)。

以上のような判断枠組みや裁判例を基準とすると,Yの行為は,丸ごと本件DBをコピーしたというものでもなく,簡単なスクリプトを書いて顧客のニーズに合わせてデータを一部取り出したというものであり,Xの本件DBに関するライセンス料が失われたという関係もないことから「著しく不公正な方法」とまではいえないとしています。

Xからすると,苦労して集めたデータを無断に利用されたのでは堪らない,ということなのかもしれませんが,Xはいったんヤフーに対してライセンスしたことで対価を得ているので,そこで本件DBに関するXの権利はいわば消尽したともいえるようにも思えます。

ちなみに,本件DBが平成30年不正競争防止法改正によって導入された限定提供データ(2条7項)に該当するかどうかも興味深いところです。限定提供データは,①業として特定の者に提供する情報であって(限定提供性),②電磁的方法に依り相当量蓄積され(相当蓄積性),③電磁的方法により管理され(電磁的管理性),④技術上または営業上の情報で,⑤秘密として管理されていないものをいいますが,本件DBが,③の要件をクリアできれば限定提供データにも該当するように思われます。しかし,同法19条1項8号ロでは,無償で公開されている情報と同一のデータを取得等する場合は適用除外とされているため,本件におけるYの行為も,aサイトで無償で公開されているものから抽出しているにすぎないとすると,不正競争には該当しないように思われます。

ユーザ都合による解約の場合の報酬・損害賠償請求の範囲 東京高判令元.12.19(平30ネ1254)

ユーザの都合によりプロジェクトを中止したというケースにおいて,ベンダが行った報酬・損害賠償の範囲が問題となった事例。特に,中途解約時における損害賠償請求について定めた条項と,民法641条の関係が問題となった。

事案の概要

紛争に至る経緯

平成23年1月25日,YがXに対し,システム開発を委託する旨の本件基本契約を締結した。
同年8月31日,システム要件定義及びプロジェクト計画策定の業務委託に関する個別契約(報酬額2000万円。本件個別契約1。請負契約。)を締結した。
平成24年2月10日,UI工程,SS工程,PG工程等の工程を含む個別契約(報酬額約1.9億円。本件個別契約2。請負契約。)を締結した。

同年3月30日に,XはYに対し,UI工程完了報告書を提出したが,UI工程の積み残し課題があることが認識されていた。

本件個別契約1に基づく報酬は支払済みで,本件個別契約2に基づく報酬は,UI計画書,SS設計書について5000万円相当分が支払われていた。

その後,さまざまな課題が解決せず,スケジュールの調整等が行われていたが,YはXに対し,同年6月11日,本件個別契約2に基づくSS工程の作業を中止するよう要請したが,Xは,本件プロジェクトを中止することを提案した。中止,解約にかかわる協議が続けられていたが,平成24年8月14日,YからXに対し,メールにて本件個別契約2を解約する旨を通知した。

請求の原因等

XのYに対する請求は,以下の訴訟物から構成される。ア,イ,ウは選択的併合で,エは,イとウの予備的併合,オは,イの予備的併合にあたる(請求額はいずれも約9400万円)。

  • (ア)Yの自己都合によりXの債務が履行不能となったとして,民法536条2項に基づく未払報酬の一部請求。
  • (イ)本件基本契約28条1項に基づく実施分の委託料及び同条2項に基づく解約によって生じた損害の賠償請求。
  • (ウ)Yによる解約は民法641条に基づく解除であるとして,同条に基づく損害賠償請求。
  • (エ)イまたはウが認められないとしても,XY間にはXに生じた損害を支払うことを含む解約合意が成立したとして,当該合意に基づく請求。
  • (オ)商法512条に基づく報酬請求。

本件でしばしば登場して解釈が争われることになる本件基本契約28条の一部を下記に抜粋する。

1項 本件基本契約27条2項による協議の結果,変更の内容が委託料,納期およびその他の契約条件に影響を及ぼすものである等の理由により,Yが本件基本契約または個別契約の続行を中止しようとするときは,Yは,Xに対し,本業務の終了部分についての委託料の支払をした上,本業務の未了部分について解約を申し出ることができる。
2項 Yは,前項により本業務の未了部分について解約する場合,解約によりXに発生する損害(人的資源,物的資源確保に要した費用を含む。)を未了部分に係る委託料相当額を限度として賠償しなければならない。

Yは,民法536条2項に基づく利益償還請求権あるいは損害賠償請求権を自働債権とする相殺の主張をしていた。

原審の判断

原審(東京地判平30.2.9(平25ワ26187号))は,上記アについて,履行不能となったのではないとして退け,イについては,検査に合格した部分はないが,損害賠償として,SS工程の委託料相当額約2000万円(工程別の見積工数の比率から算定)と,得べかりし利益約1300万円の合計額について請求を認容した(ウについても同様の結論。)。また,エとオの請求も退け,Yによる相殺の主張は,民法536条2項を前提とするものであるからこれも退けた。

ここで取り上げる争点

争点(1):請求アに関し,履行不能の成否
争点(2):請求イに関し,報酬請求可能な「終了部分」の範囲及び「委託料相当額」の損害の範囲
争点(3):請求ウに関し,約定に基づく請求を超える(641条に基づく)損害賠償請求の可否

裁判所の判断

請求ア(民法536条2項に基づく請求)について

裁判所は,8月14日付けでYからXに送られた本件プロジェクト中止にかかるメールが,Xの帰責事由について記載されたものではなく,民法543条(履行不能)に基づく解除の意思表示ではなく,本件基本契約28条1項に基づく「本業務の未了部分」についての解約申入れであると解釈し,Yの自己都合による解約であって,Xの債務が履行不能になったものではなく,536条2項の問題にならないとした。

Xは,Yが計画したM&Aの見通しが立たなくなったから断念したものであって,履行不能にあたると主張していたが,そのような説明があったとしても,それは「良好な関係を続けるため,方便としてM&Aの話を述べたものと解する」とした。

請求イ(本件基本契約28条に基づく解約にかかる請求)について

Yは,パッケージソフトのカスタマイズ量が増大し,数千万単位の追加予算が必要になるということが判明した結果,プロジェクトを続行すべきかを再検討するに至り,熟慮した結果,解約したものであるから,Xの債務不履行の有無については判断の必要はないとされた。

そのうえで,裁判所は,本件基本契約28条1項に基づく「終了部分についての委託料」の「終了部分」については,単に作業を途中まで実施していたということでは足りず,本件基本契約に従って検査に合格した部分を指すとした上で,完了確認を受けていないものについては「終了部分」には当たらないから,(すでに支払いを受けているUI工程分を除くと)存在しないとした。完了確認を得ていない作業まで「終了部分」に含めるとすれば,本件基本契約の検査・検収に関する規定は意味のないものになってしまう,とした。

その結果,28条1項に基づく「終了部分についての委託料」の請求を認めなかった。

他方,同条2項に基づく「解約によりXに発生する損害」については,「未了部分に係る委託料相当額を限度」とすることから,原審と同様に,委託料全体を,SS工程が占める見積工数の比で按分した額(全体の約7分の1)の約2000万円にとどまるとした。

また,控訴審になってから主張されたYの過失相殺の主張は,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるものではないが,解約に至る経緯がYの自己都合によるものであり,Xの過失を斟酌するするのは相当ではないとした。

請求ウ(民法641条に基づく損害賠償請求)について

原審では,641条に基づく損害賠償として,Yの自己都合による解約がなければ得られたはずの逸失利益が観念できるとし,委託料総額に対する残工程(PG工程等)の割合に利益率10%を乗じた約1300万円が請求できると認定していた。

これに対し,控訴審では,次のように述べて逸失利益の請求を否定した。

しかし,民法641条は,注文者が請負人に対して損害を賠償することを要件として任意に請負契約の解除をすることができると定めた規定であり,Yの自己都合による解約を定めた本件基本契約28条1項及び解約によって発生するXの損害についての賠償を定めた同条2項とその趣旨を同じくするものであるから,本件基本契約28条は民法641条のいわば特則として定められたものと解するのが相当である。

また,Xにとって,本件基本契約28条1項に基づく解約により本件個別契約2の続行が中止のやむなきに至った場合と,民法641条に基づく解約により本件個別契約2の続行が中止のやむなきに至った場合とで,生じる損害に有意な差があるとは認められない以上,本件基本契約28条2項に基づく損害賠償請求に加えて,民法641条に基づく損害賠償請求を認めることは,本件基本契約28条2項により損害額の上限を定めた当事者の合理的意思に反し,不合理な結果をもたらすものといわざるを得ない。

そして,(略)Yが,本件基本契約28条1項に基づき,本件個別契約2について解約の意思表示をしていることから,解約により生じた1審原告の損害について民法641条の適用の余地はなく,その余の点について判断するまでもなく,Xによる民法641条に基づく損害賠償請求については,これを認めることはできない。

なお,その余の請求(請求エ(解約合意に基づく損害賠償請求),請求オ(商法512条に基づく報酬請求))はいずれも原審,控訴審ともに退けられている。

その結果,裁判所は,原審の認容額を一部減額し,SS工程実施相当の損害額約2000万円のみを認めた。

若干のコメント

本件は,開発作業の途中で終了したという事案において,どこまでベンダからの請求が認められるかが争点となった事案でした。約1.9億円の契約のうち,5000万円が支払済みで,ベンダは残額の大部分を報酬ないしは損害賠償として請求しましたが,裁判所は,実施した工程相当分(約2000万円)のみを認容しました。


実際にベンダが負担した労力,コストは,これをはるかに超えるものだったため,ベンダからみれば,この結果は不十分だと思われますが,ユーザは,そもそも中途終了した原因はベンダの作業が不十分であったためなどと主張していたことから,下手をすれば既払いの報酬の返還さえも求められかねない状況だったことからすると(なお,ユーザは相殺の主張はしているが,反訴は提起していない。),ユーザの都合による解約であって,契約金額中の進捗割合に応じた額が確保できただけでも好結果だったのではないかと想像しています。


ベンダ・ユーザ間の基本契約で,ユーザ都合により中途終了した場合に,終了部分までの報酬と,「未了部分に係る委託料相当額を限度として賠償」することが約定されており,この解釈が問題となりました。裁判所は,「終了部分」とは,単に工程を実施しただけでなく,検査合格までを必要とし,「未了部分」というのを残る工程すべてではなく,実施したけど終了していない部分の工程だと捉えるなど,ユーザに好意的に解釈しているという印象を受けました。


原審では,本件基本契約28条2項に基づいて損害の賠償請求はできないが,民法641条による損害賠償請求ができるとしましたが,控訴審では,この契約条項は民法641条の特則を定めたものであるとして,別途の損害賠償請求を否定しました。契約の解釈としてはこちらの方が自然であるように思います。


いずれにせよ,本件では,中途終了した場合におけるベンダからの金銭請求に関し,5つの訴訟物を立てており,同種の事案において参考になるものと思われます。

基本設計途中で頓挫した事案におけるベンダ・ユーザの責任 東京高判令2.1.16(令元ネ2157)

基本設計が遅延したまま頓挫した事案において,頓挫した原因がいずれにあるのかが争われた事例。

事案の概要

本件は,ユーザXがベンダYに対して,新基幹システム(本件システム)の開発を委託したところ,納期を経過しても完成する見込みがなかったため,Xが履行遅滞を理由に請負契約を解除し,既払い金約7000万円の返還とともに,期限までに完成しなかったために生じた損害約21.5億円の損害賠償を求めた(本訴)に対し,Yが,期限までにシステムを完成させられなかったのは,Xが大量の契約範囲外の作業を行わせたり,不合理な方針変更をしたりするなどの協力義務を果たさなかったためであるとして,Xに対し,Xによる契約解除は民法641条に基づく解除であるとして,民法641条に基づく損害賠償又は民法536条2項に基づく報酬残代金請求として,約7億円を,契約範囲外の作業として商法512条に基づく報酬請求権等として,約5.2億円を請求した(反訴)という事案である。

f:id:redips:20200714175642p:plain


大まかな経過としては,

  • 平成20年9月1日 XY間で本件システムの開発に関する業務請負基本契約(本件基本契約)の締結
  • 平成21年2月27日 XY間で要件定義書,基本設計書作成業務を委託する個別契約の締結
  • 同年3月31日 要件定義書及び基本設計書の納品,その後,約7000万円の支払い
  • 同年6月30日から平成22年3月27日 4つの個別契約(本件システムの詳細設計・開発,機器一式の売買,追加開発x2)の締結(合計約6.8億円)
  • 同年2月22日 Yから詳細設計につき納期遅延のお詫び文書差し入れ
  • 同年3月23日 詳細設計納期を1年延期して平成23年3月とすること等の覚書(本件変更覚書)締結
  • 平成23年1月ころ Yから(やり直し後の)基本設計の長期化により再度の延長が避けられない旨の申入れ(その後,契約変更,作業続行について紛糾)
  • 同年7月 XからYに対し,本件システム開発に係る契約の解除通知


原審(東京地判平31.3.26(平26ワ19891))は,本件システムの開発が遅延した理由について,①Xが大量に契約範囲外の作業を実施させたこと,②Xが開発方針を不合理に変更したこと,③Xがシステムの開発に必要な協力を果たさなかったこと,のいずれについても否定し,Xの協力義務違反を否定したうえで,本件システムの開発が頓挫したことについては,Yの債務不履行責任は否定できないが,引渡しを受けた要件定義書・基本設計書の出来高(7割)部分にまでは解除の効力が及ばないが,①既払い金の3分の1に当たる約2100万円の返還について認め,さらに,Yの債務不履行による損害として,②現行システムの維持関連費用の一部(約3000万円)と,③現行システムの追加工数費用の一部(約1.5億円)の合計額からXの過失割合4割を減じた約1.1億円と,弁護士費用相当額1000万円*1について認容した。

f:id:redips:20200714175744p:plain

これに対して,X,Yの双方が控訴した。

ここで取り上げる争点

争点(1)開発が遅延した原因
争点(1-1)Yが開発すべき範囲
争点(1-2)Yの帰責事由

争点(2)Xの損害賠償・報酬支払義務
争点(2-1)契約範囲内作業相当の損害賠償
争点(2-2)契約範囲外作業相当の報酬請求

裁判所の判断

争点(1-1)Yが開発すべき範囲

裁判所は,開発のスコープは,本件変更覚書に添付されたプロジェクト計画書に沿って作成された平成22年6月付けで提示された「新要件定義書1.0」に対応する基本設計,詳細設計,開発までであり,その後の要件追加・変更を加味して同年12月付けで改訂された「新要件定義書1.1」ではないとした。

争点(1-2)Yの帰責事由

少々長いが,適宜省略・改行等の編集をしながら引用する。

現行システムは,AとBという2つのシステムからなり,1つの企業グループに属する企業のものとはいえ,別々に形成,運用されてきたものであって,両者は,取り扱うサービスに差異があり,顧客管理,請求・入金管理,決済管理,店舗管理等の面で異なる処理方法が採られており,その画面数,バッチ数等も大きく異なっていたこと,
本件システム開発は,度重なる改修がされたことに伴う現行システムの複雑化等による弊害や,システムの分散による弊害が生じていたことを踏まえ,新たなシステムを導入することにより保守運用コストの低減等を図ることにあったこと,そのためには,AとBの両システムについて可能な限り共通化,集約化を図り,A又はBを用いて行うISPの業務そのものも変更・見直しを行う必要があったこと,
本件RFPにおいては,想定画面数,バッチ及びテーブル数を完全に同一にするとされており,AとBについて共通化したシステム開発をする方針であったこと,
しかし,そのことについてXのシステム情報部門とカスタマ部門とで合意形成をすることができず,Xは,共通化仕様について見直しを提案し,AとBとの間で,一部画面の個別化は必須であることが確認され,本件変更覚書において要件定義の再整理をすることとし,これに従って作成された新要件定義書1.0においては,コアシステムを構築し,AとBの双方について部分的に個別化して対応をすることとされたこと,
Yが新要件定義書1.0に基づいて進めた開発の成果物については,Xのカスタマ部門からは種々の修正の要望が出され,受け入れられず,平成22年10月19日の時点においても,AとBとの間でコアシステムをどのようなものとし,AとBのうちどの部分をどのように個別化し,どのような画面構成とするかについて合意ができておらず,Yとしては,この点について,Xから更に具体的な仕様が示されなければ,基本設計工程を進めることができない状態にあったと認められる。

(略)Yが新要件定義書1.0に基づいて進めた開発の成果物について,Xのカスタマ部門から種々の指摘がされたのに対して,Xの情報システム部門はこれらの要求を特に整理することはなく,そのため,YはA及びBの現行システムをそのまま維持する形で基本設計を進めるほかなく,Xからは,コアシステムをどのようなものとし,AとBのうちどの部分をどのように個別化し,どのような画面構成とするかについて,具体的な仕様は示されなかったことが認められる。さらに,これ以外の点についても,新要件定義書1.0においては,Xの要求により新たにB債権管理機能が要件として記載されたこと,新要件定義書1.0の完成後,Xは統計・カスタマツールの機能を汎用管理台帳の形でシステムに組み込むよう要求し,そのため,Yは新要件定義書1.0で整理した業務フローを見直す作業をせざるを得なくなり,その結果,作成済みの基本設計書の全ての項目の見直しを行い,基本設計工程が大きく停滞したこと,
また,Xが示した上記業務フローについては内容が確定していないものがあったため,これを整理して取り込む新要件定義書1.1の作成作業を行ったこと,
さらに,Xは,コアシステムを第3のシステムとして構築することを求めたため,Yは一定の協力をせざるを得ず,作業が混乱したこと,
平成22年11月・12月の段階でキャリア提供ADSLサービスの精査作業を行ったところ,それまで提出を受けていた資料が古いものであったことが判明し,Yは作成済みの基本設計書についても項目面の見直しをせざるを得なくなったこと,
Yは,Xから,サービス項目精査の作業をすることを求められ,これに対応するため,画面設計が一旦中断したこと,
以上の事実が認められる。

以上の事情によれば,前記(ウ)において説示したXの要求ないし対応のため,Yは,本来行うべき作業が遅滞し,また,基本設計の作業を進めることができず,その結果として,本件システムに係る基本設計の作業を定められた納期に合わせて進めることができなかったというべきであり,本件Y業務の履行遅滞について,Yの責めに帰すべき事由によるものではなかったと認められる。

と,原審とはまったく逆の判断となった。この点に関するXからの反論についても,裁判所は,次のように退けた。

しかし,基本設計において,Yが提示した画面設計のドキュメントが,新要件定義書1.0に従っていないものであったことを裏付ける具体的な事情はうかがわれないし,
Xのカスタマ部門からの指摘や要請がそのまま反映されていないとしても,本件システム開発は,前示のとおり,2つの異なるシステムについて共通化したシステム開発をする作業であり,そのことをもって,直ちにYの作業のクオリティが低かったことを裏付けるとはいえない。
また,Yは,RFPを作成する業務をXから請け負い,実際に本件RFPを作成したこと,旧要件定義書等について,一定の留保はされたものの,Xの検収を経て納品がされていること,本件変更覚書の作成後も,新要件定義書1.0を作成して納品していることは,前記認定事実のとおりである。
さらに,YによるXの現行業務の理解が不十分であったとしても,前記認定事実によれば,それは,カスタマ部門内の業務ないし現行システムについて,XからYに正確な情報が提供されていなかったことによると認められ,専らYに責任があることとはいえない。
また,Yのプロジェクト管理体制等が不十分であることを認める趣旨の前記書面についても,これらの書面は,請負契約の注文者と受注者という関係の下で作成,提出されたものであって,前記認定事実に係る経緯の下では,そのような記載があることをもって,直ちにYのプロジェクト管理体制の不備があり,それが基本設計工程の遅延の原因であったことを裏付けるものとはいえない。

その結果,裁判所は一審の判断を覆し,納期までにYの業務が履行できなかったことは,Yの責に帰すべき事由によるものではないから,債務不履行により解除したとの主張に基づくXの一切の本訴請求を退けた。

争点(2-1)契約範囲内作業相当の損害賠償

本件基本契約には,民法641条の特則として,

Xは,Yと別途協議の上,書面による通知をもって,本件基本契約又は個別契約を任意に解除できるものとする。この場合,Xは,Yに対し,Xの責めに帰すべき事由があるとき,通常かつ直接の損害に限り,解除に伴うYの損害を賠償するものとする。

という規定があった(32条)。また,損害賠償の制限規定として,

X又はYは,相手方に損害を与えた場合,当該損害の直接の原因となった個別契約に定める契約金額の倍額を上限として通常の損害を賠償するものとする。
前項の損害には,X又はYが相手方に対し履行を求める一切の費用,訴訟等裁判手続に関する弁護士費用の相当額が含まれるものとする。

という規定があった(30条)。

これらを踏まえて,裁判所は,Yには,もともとの個別契約の範囲内の作業をしたことにより,約7億円の費用が発生したこと(各個別契約の代金相当額の合計),代理人の訴訟追行費用として約10%の6900万円の損害が認められ,この額は,個別契約の倍額の範囲内に含まれるとした。

争点(2-2)契約範囲外作業相当の報酬請求等

他方,Yが実施したと主張する契約範囲外の作業に関する商法512条に基づく報酬請求,目次の追加契約に基づく報酬請求権又は損害賠償請求に関しては,次のように述べた。

  • 新要件定義書1.0は,本件変更覚書に基づいて作成されたものであって,作成された要件定義書に各個別契約には含まれていない要件が記載されているとしても「他人のために行為をしたとき」に当たらない
  • 新要件定義書1.1についても,Xが要求したツール等の内容を具体化したもので,開発につながる部分については別途契約を締結することが想定されており,本来業務を円滑に遂行するための行為又は別途の契約締結のための準備行為としてされたとみるべきであるから「他人のために行為をしたとき」に当たらない
  • 基本設計における作業についても,範囲外の作業は別途の契約が必要であると申し入れていたにもかかわらず,契約を締結することなく行った作業については,それ自体が本来業務に含まれていないとしても,本来業務を円滑に遂行するための行為又は別途の契約締結のための準備行為としてされたとみるべきであるから「他人のために行為をしたとき」に当たらない
  • その他,Xにおいて追加的な契約締結に応じることを示す行動があったとも認められないから,黙示的な追加契約が成立したとは認められない

と述べて,契約範囲外の作業相当額についての反訴請求は棄却した。


その結果,一審判決とは逆に,Xの本訴請求はすべて退け,Yの反訴請求は一部(約7.7億円)を認容した。

f:id:redips:20200714175801p:plain

若干のコメント

本件は,仕様の確定がもつれて延期が繰り返された挙句にとん挫したという事案において,ユーザの協力義務違反が問題となった事案ですが,一審と控訴審とで判断がまったく逆になりました。判決文だけからでは,その判断のポイントというものが読み取りにくいのですが,結局のところ,ユーザが実現してほしいと思っていたスコープが,どこまで合意の範囲内であったのかというところが鍵となっているように思います。


ユーザは,契約締結前のやりとりであるRFPや提案書等を根拠に契約範囲内であると主張したのに対し,裁判所は,もともとの要件定義が不十分であったことを相互に認識してやり直してプロジェクトのスコープを再定義し,その結果が新要件定義書1.0に反映されたものであるといった経過に基づいて範囲を確定しました。


最終的に基本設計を終えることができないまま頓挫した原因についても,Xの2つの現行システムの統合の方針については,Xがやるべきことを適時に実施していなかったということなどが認定されました。


このように,要件・仕様が固まらなかったことがユーザの責任であるとした事例は過去にもありますが,本件の場合,繰り返しベンダから「納期遅延のお詫びと今後の取り組みについて(お願い)」のようにお詫びの文書が出され,その内容も,ベンダにおいて「プロジェクト管理体制が不十分であった」「基本設計書が未完のまま詳細設計を行ったため,品質,効率の低下を招いた」などとなっていたことが注目されます。最初の「詫び状」は,その後の仕切り直し(覚書の締結)によってリセットされたともいえるのですが,その後も,「お詫び」を表題に含む文書を提出しており,これを見ると,ベンダが自ら非を認めたのであるから,責任あり,という認定に繋がってもおかしくありません。


しかし,控訴審判決では,この詫び状等について,

これらの書面は,請負契約の注文者と受注者という関係の下で作成,提出されたものであって,前記認定事実に係る経緯の下では,そのような記載があることをもって,直ちにYのプロジェクト管理体制の不備があり,それが基本設計工程の遅延の原因であったことを裏付けるものとはいえない。

として,他の証拠による認定を優先させました。一般にこうした「詫び状」はベンダにとって致命傷になることが多いのですが,「詫び状」があってもなおベンダの責任を否定した事例もあるので(東京高判平30.3.28(当ブログ未搭載)),詫び状一本で勝てるというものではありません。


他に実務的に興味深い点としては,原審で,要件定義書等の成果物の再利用価値が一部認められた点や,控訴審で,弁護士費用を損害賠償の範囲に含めるとした契約条項がありつつも,現実に発生した弁護士費用ではなく,損害額の1割とした部分などが挙げられます。


完全に余談ですが,本件にて,ベンダ選定の過程の認定事実で,

本件RFPを提示して,本件システム開発の業者選定の入札を実施した結果,各ベンダーが提示した額は,Nが4億0800万円,Yが4億7000万円,Hが7億1100万円,Fが16億0200万円,Cが17億4900万円であった

という記載がありました。まったく本件の争点とは関係ありませんが,同じRFPを提示していても,いずれも名だたるベンダが見積をしていても,4倍以上も見積金額に開きが生じてしまうというのは,まったく珍しいことでもありません。この事実は,システム開発の見積時点におけるベンダの手探り状態がよくわかることを端的に示しており,結果的に,見積もり誤りによって計画どおりに進捗せず,トラブルに陥りやすいということがよくわかります。

*1:本件基本契約において,裁判手続における弁護士費用相当額が損害賠償請求できると定められていた。

サイト開発の遅延の責任の所在 東京地判平29.3.21(平26ワ16813)

短期突貫工事によるウェブサイト開発案件での遅延の責任が開発ベンダではなく発注者のディレクターにあるとされた事例。

事案の概要

Yは,ファーストフードチェーンのKからキャンペーンの企画運営の委託を受け,YはXに対し,キャンペーンサイトの開発を委託した(本件委託契約。納入日:平成25年11月18日,報酬額231万円,2.4人/月)。


本件キャンペーンサイトは,平成25年11月18日午前7時に公開する予定であったが,おおむね,次のような状況であった。

  • 9月中旬ごろ,YはXらに本件キャンペーンサイトの開発を打診した。
  • 10月2日時点では,「どのようなことがやりたいかを記載された資料のみが存在している状況」で,何も確定していなかった。
  • 10月4日の打ち合わせでは,21日までに仕様が確定し,28日までに8割がた確定したHTMLがXに提供されることが想定されていた。
  • 10月16日,当初は予定されていなかった公開前の事前登録機能が実装されることとなったほか,ティザーサイトも別途用意されることとなった。
  • 10月26日,Xは,ティザーサイト用のHTMLを受領した。
  • 11月1日,ティザーサイトがオープンした。
  • 11月7日時点になっても8割がた確定したHTMLはXのもとに届いておらず,Xは当初リリース日の公開は延期しなければならないと伝えた。
  • 11月12日,Xは8割がた確定したHTMLを受領し,24時間体制で本件キャンペーンサイトの開発に取り掛かった。
  • 11月17日,リリース日の前日になって,クーポン情報の形式が確定した。
  • 11月18日,リリースの1時間前でもXは開発サーバで,本件キャンペーンサイトの開発を続けていた。
  • 同日,本件キャンペーンサイトを公開しようとしたところ,開発サーバと本番サーバとで環境が異なり,文字化けが発生するなどの障害が発生した。
  • 11月22日,本件キャンペーンサイトが再リリースされた。
  • その後も,レアクーポンの出現確率が誤っていたり,レポート出力機能が不十分であるといった問題が残っていた。


Xは,途中で,報酬額を493万5000円とする見積を提出し,これを支払うよう請求し(本訴),Yは,Xの債務は不完全履行だったとして,約2500万円の損害賠償を請求した(反訴)。

ここで取り上げる争点

(1)本件委託契約に係る仕事の完成の有無
(2)本件委託契約の報酬額変更合意の成否
(3)Xの債務不履行責任(不完全履行)の有無
(4)Xの債務不履行責任(履行遅滞)の有無

裁判所の判断

争点(1)(仕事の完成)

本件委託契約は請負契約の性質を有すると解されるところ,Yは,再リリース日においても本件キャンペーンサイトには不備があり,Xの仕事は完成していない旨主張する。
しかしながら,再リリース日において本件キャンペーンサイトは公開されている。Yの主張によっても,本件キャンペーンサイトに多少のバグがあることは想定されていたというのであり,本件リリース日の午前6時頃までには,多少のバグがあってもとりあえずガチャアプリを機能させてガチャを回せる限度で公開し,バグはその後修正していくことになったのであるから(認定事実(13)),本件キャンペーンサイトは再リリース日には一応完成したものと認められる

争点(2)(報酬変更合意の成否)

Yは,Xの上記増額の申出に対して拒否する旨の回答をしていないが,これをもって上記申出を承諾したということもできない。そして,Xは本件報酬額を人工を基準に見積もっているが,XとYとの間に,人工が増えればこれに合わせて報酬額を増額する旨の合意があったと認めることはできない
よって,Xの主張に係る報酬増額の合意が成立したと認めることができず,Xの本訴請求は,本件委託契約に係る当初の合意金額である231万円及びこれに対する遅延損害金の限度で認められるにとどまる。

争点(3)(Xの債務不履行

文字化けが発生したことについては,その実について認めたうえで裁判所は次のように述べた。

Xが開発したシステムのデータを変換しなかったのは,単純に当初リリース日に公開を間に合わせるため作業が多く,徹夜で作業をすることとなり,データの変換を失念したにすぎない。
そうすると,本件プロジェクトは元々日程が過密であり,さらにその後当初予定されていなかった事前登録機能が追加され,ティザーサイトが公開されることになり,Xが当初リリース日の午前7時まで徹夜で作業を続けたなど,Xがシステムデータの変換を失念したことについて同情に値する事情があることを考慮しても,データの変換を失念したことについては少し注意を払えば容易に防ぐことができたものといわざるを得ない。よって,Xは,当初リリース日に文字化けを生じさせたことについて債務不履行責任を負うものといわざるを得ない。
しかしながら,Xは,当初リリース日である平成25年11月18日の午後3時頃までには文字化けの不具合を修補し,遅くとも再リリース日である同月22日には本件キャンペーンサイトを公開している。そうすると,Xが文字化けについて債務不履行責任を負うか否かは,結局,後記5の履行遅滞責任の有無に帰着することになる。

そのほかに,レアクーポンの出現確率の設定を誤ったこと,レポートに不備があったことについて,Xに債務不履行責任があることを認めた。

争点(4)(Xの履行遅滞責任の有無)

本件キャンペーンサイトが当初リリース日に公開することができず,それが再リリース日にずれ込んだことについては,①元々日程が過密であったこと,②それにもかかわらず,当初予定されていなかった事前登録機能の追加及びティザーサイトの公開が追加されたこと(ディレクターであるYは,G又はKなどに対し,このような機能を追加すれば当初リリース日に公開が間に合わなくなるおそれがることを忠告することも可能であった。),③Zがデザインの入ったHTMLファイルをXに対して交付するのが遅れたこと,④ディレクターであるYが本件プロジェクトの進行管理を十分に行わなかったこと,⑤XとZとの間,XとDとの間など,本件プロジェクトについて役割分担をした者同士の間で十分な意思の疎通が図れておらず,このような意思の統一をすることはディレクターであるYの役割であったこと,⑥過密な日程がさらに押したものとなり,Xは当初リリース日の公開予定時刻の1時間前にもなお修正作業を続け,公開前のテストを行う時間もなかったこと,⑦Xはこのように時間に追われ,平成25年11月13日以降,24時間体制で開発作業を続けた結果,文字化けのような凡ミスが出ることとなった。

このように考えると,文字化け,レアクーポンの出現割合の設定ミス及びレポート出力の不備など個別の不具合についてはXが債務不履行責任を負うということができるとしても,本件キャンペーンサイトを当初リリース日に公開することができず再リリース日になってようやく公開にこぎ着けたという本件委託契約に係る履行遅滞について,Xの責めに帰することができない。

そして,上記の設定ミス,不具合による債務不履行と相当因果関係ある損害は認められないとした。


以上より,Xの請求は当初の契約記載の限度で認め,Yの反訴請求はすべて棄却された。

若干のコメント

冒頭の事案の概要で書いたとおり,2カ月後のキャンペーンに向けてサイトの開発を依頼されたにもかかわらず,仕様も固まらない上に,追加の要件が膨らむといった厳しい状況下で,無理やりスケジュールどおりリリースしたら不具合が出てしまったことについて開発ベンダの責任が問われたという事案でした。


裁判所は,ベンダXの遅延による損害賠償責任は認めなかったものの,突貫工事によって膨らんだ工数相当分の増額請求については認めませんでした。


Xは,仕様が決まっていなかった段階で231万円という契約金額を提示していましたが,この状況で請負型の契約を締結してしまったことが悔やまれます。


また,裁判所は,発注者であるYはディレクターとして,Xのほか,デザイン会社その他関係者間の調整をすべきであるのにこれを怠ったために遅延したのであって,Xは遅延の責を負わないとしました。規模は小さいながらもマルチベンダ型開発における発注者に責任に言及したものとして参考になります