IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

表題「請負」で実質はSES契約 東京地判平27.6.25(平25ワ11199)

月単位,人単位で業務に従事させた契約の解釈が問題となった事例

事案の概要

ベンダXとユーザYは,平成23年5月31日,請負業務に関する基本契約(本件基本契約)を締結し,本件基本契約に基づく個別契約として,3回にわたって(合計代金420万円)が締結された。作業内容は,美容サロン向けのPOSシステム(本件システム)の改修作業であった。


本件基本契約によれば,代金は,Yが本件システムを組み込んだ製品を販売した代金から配当することによって支払うこととされていた。


しかし,Yが,不具合がある等と主張し,これを支払わなかったことから,Xは代金420万円の支払いを求めた。

ここで取り上げる争点

Xは仕事を完成させたか

裁判所の判断

個別契約書には次のような記載があった。

1.本件委託内容は、本件製品の改修作業に関し、XY協議の上1人月相当と合意した作業を、Yの指示に従って行うものとし、改修後の本件製品のソースコードを含む開発環境一式、改修箇所および改修方法を示すドキュメントおよび動作保障された実行形式プログラム一式を納品物とする。
2.納品物に関する経過作成物はYの指示に従い随時、Y指定のFTPサーバに格納するとともに、平成23年7月末日までに納品するものとする。

(注:2つめ,3つめの個別契約は上記の「1人月」の部分が「2人月」となっていたこと,納品期日が「8月」となっていたこと以外は同じ内容である。)


これらの契約の記載を踏まえて,裁判所は次のように判示した。

本件個別契約書においては,いずれも,XとYが協議した上で,1人月又は2人月相当と合意した作業をYの指示に従って行うことが本件改修作業の内容とされている。(略)Xにおいては,東京における担当者の作業単価の設定を一般的に1人月80万円としているところ,(略)本件請負契約の報酬額は,C一人が本件改修作業に従事していた期間は月額80万円と,C及びDの二人が本件改修作業に従事した期間は月額160万円とそれぞれされていた(略)のであるから,上記の本件個別契約書における本件改修作業の内容に見合う金額の報酬が合意されていたものということができる。
これらの事情に加え,(略)本件基本契約書における本件改修作業の内容が「対象ソフトウェアの開発に係る業務、及びそのソフトウェアの運用保守に関する技術支援等を行うものである」と定められていることや,本件請負契約の終了後に生じた不具合についてYがXに対してその対応を求めることがなかったことをも併せて考えれば,本件改修作業の内容は,本件個別契約の各契約ごとに,それぞれ1か月間又は2か月間,担当者(略)を派遣し,Yとの間の協議を行いつつ,当該協議に基づく本件POSシステムの改修作業に当該担当者を従事させるというものであったと解するのが相当である。

要するに請負契約という表題であったものの,その実態は,いわゆるSES契約であると認めている。


Yは,この点について「動作保障された実行形式プログラム」を納品物として定めてあるなどを反論した。裁判所は,次のように述べて反論を退けた。

Yは,(略)本件改修作業の内容が本件POSシステムを正しく動作させることという結果を保証するものであったのであり,このことは,本件個別契約書の各第2条第1項の文言や,本件請負契約が共同事業方式を採っていたことから明らかである旨を主張している。
確かに,(略)同項には「動作保障された実行形式プログラム」が納品物である旨が定められており,また,(略)本件請負契約の報酬(略)の支払をYが本件POSシステムを第三者に販売した代金から配当する形で行う旨が定められ,さらに,ロイヤリティの支払合意もされていることを認めることができる。しかしながら,本件個別契約書の各第2条第1項を全体として見れば,その後半部分が規定する納品物に関する定めは,同項の前半部分が規定する本件改修作業の内容に関する定めを受けて,その納品時におけるプログラムが動作保障をされたものであることを規定したものにすぎず,納品後に不具合の生ずることが一切ないことを保証する趣旨のものであると解することはできない(なお,X代表者の本人尋問の結果によれば,そもそも,およそコンピューターソフトウェアの開発や改修においては,不具合が全く発生しないとすることが困難であることを認めることができる。)。
また,本件請負契約における報酬の支払方法に関する定めも,(略)原則として本件POSシステムの販売代金からの配当によって支払うとされている(略)ものの,これに従った支払ができない場合の例外的な取扱いも定められていること(略)からすれば,この原則的な支払方法の定めやロイヤリティの支払合意の存在から,直ちに,本件改修作業の内容として本件POSシステムを正しく動作させるという結果が保証されていたと解することも,困難である。したがって,Yの上記の主張は,採用することができない。

以上のとおり,結果を保証したものではないとした。そして,XのエンジニアCとDが,予定された期間,業務に従事させていたこと等から,仕事の完成を認め,Xの請求全額を認容した。

Xは,本件個別契約の各契約ごとに,それぞれ1か月間又は2か月間,担当者を派遣し,Yとの間の協議を行いつつ,当該協議に基づく本件POSシステムの改修作業に当該担当者を従事させたものということができるから,本件改修作業を完成させたものというべきである。

若干のコメント

「請負」「動作保障(ママ)」などとの記載はありつつも,月単位・エンジニア固定で発注され,単価もエンジニアの人月単価として通常のものであるということから,「担当者を派遣」「協議に基づく改修作業に従事」させることが契約の目的であると判断したことは実態に即したものだと考えられます。


こうした契約形態は,一般にSES契約と呼ばれ,典型契約にあてはめるならば準委任契約だと考えられますが(その形態によっては,労働者派遣と評価されることもあり得る),裁判所は,契約書表題にならって「請負契約」としての枠組みを維持し,「仕事の完成」があったかどうかを判断して結論を導いています(判決文に表れる当事者の主張からみても,準委任であるといった主張は表れていない。)。


業務の実態が,エンジニアを派遣して人月単位で支払うということになっていたものの,その報酬の支払方法は,成果を配当するという形式になっているなど,特異な定め方となっていたため,解釈が争われた一例だと言えます。