IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

著作権侵害の主体(動画配信サービス) 東京地判平21.11.13

著作権侵害となる動画配信が行われていたサイト運営者が負うべき責任が問題となった事例。

事案の概要

Yは,ユーザが動画を投稿し,他のユーザがそれを視聴することができるというサービス「パンドラTV」を運営していた。ここで配信されていた動画の中には,権利者の許諾なくアップロードされていた音楽・映画・TV番組等が多数含まれており,著作権等管理事業者であるJASRACがYに対し,楽曲ファイルの複製及び公衆送信の差止を求めるとともに,損害賠償を求めた。

アップロードされていた動画ファイルのうち,「音楽」カテゴリには約90%にあたる7500件以上が,JASRACが管理する著作物の複製物であった。

ここで取り上げる争点

  • 【侵害の主体】実際に違法な動画をアップロードしていたのはユーザであるが,Yが著作権侵害の主体といえるか。
  • 【損害賠償】YはJASRACに対して損害賠償義務を負うか,また,負うとした場合,支払う損害賠償額はいくらか。

裁判所の判断


【侵害の主体】について。


事業者が「場」を提供し,その利用者の直接行為によって,著作権侵害がなされた場合において,当該事業者が著作権侵害を行ったと評価できるか,という問題は,いわゆる「著作権の間接侵害」と呼ばれる問題で,古くから多くの裁判例がある。


この問題については,「クラブキャッツアイ事件」という著名な最高裁判例(昭和63年3月15日)があり,「支配・管理性」と「利益の帰属」という二つの要素によって主体を判断するという,いわゆるカラオケ法理が確立されている。


本件も,以下のような規範を立てて侵害主体が判断された。

著作権法上の侵害主体を決するについては,当該侵害行為を物理的,外形的な観点のみから見るべきではなく,これらの観点を踏まえた上で,実態に即して,著作権を侵害する主体として責任を負わせるべき者と評価することができるか否かを法律的な観点から検討すべきである。そして,この検討に当たっては,問題とされる行為の内容・性質,侵害の過程における支配管理の程度,当該行為により生じた利益の帰属等の諸点を総合考慮し,侵害主体と目されるべき者が自らコントロール可能な行為により当該侵害結果を招来させてそこから利得を得た者として,侵害行為を直接に行う者と同視できるか否かとの点から判断すべきである。

そこで,サービスの内容・性質については,

  • 匿名での投稿が当然の前提とされていること
  • 用意されたカテゴリに「韓流スター」「タレント」など,放送物の複製を前提としたものがあること
  • 90分を超える動画が100件以上もあったこと
  • 著作権を侵害する映像の掲載を警告する表示が

から,著作権又は著作者隣接権を侵害する事態を生じさせる蓋然性の極めて高いサービスであり,そのことをYも認識していた,とした。


管理支配性については,

  • サーバを管理していること
  • 投稿にあたってはYが用意した専用ツールを使用する必要があったこと
  • Yは,アダルト動画を削除していたが,このことはYにおいて日々動画全般を監視していたといえること
  • Yの代表者自身も動画の投稿を行っていたこと

から,管理支配性も認めた。


利益の帰属については,動画ファイルの増加とともに広告収入が増加するとして,簡単に認めている。


さらには,権利者から違法動画を投稿した者の登録情報を開示するよう求められた際に,Yは,当該投稿者に対し,個人特定が困難となるフリーアドレスへの変更を推奨したような事実すら認定されている。


以上より,結論として,著作権侵害の蓋然性が高いサービスについて,Yが管理支配し,その事業運営によって利益をあげているとして,著作権侵害の主体であることを認めた。したがって,Yに対する差止請求が認められた。


【損害賠償】について。


ここはやや難しい点があるが,いわゆる「プロバイダ責任制限法」3条1項によって責任を負うべき「発信者」と,差止請求の相手方である「侵害主体」とは,法律が異なるため,同一の要件で判断するとは限らない,としながらも,結局は,Yが損害賠償責任を負うべき「発信者」であると認められた。


損害の額については,細かな争点がいくつもあったが,JASRACが1リクエスト単位での許諾料である1視聴回数あたり12円をベースに計算すべきと主張したのに対し,Yは,JASRACが他社と契約している包括的利用許諾契約の規定である「収入の1.875%」とするべき,と主張したが,裁判所はJASRACの主張を採用している。


また,視聴回数については完全に把握しきれない部分もあり,その点については著作権法114条の5の,

損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは,裁判所は・・相当な損害額を認定することができる

という規定を適用して総視聴回数の5%が侵害ファイルの視聴回数だと認定している。

若干のコメント

ネットサービスにおいて,ユーザの行為によって著作権侵害が行われるケースは珍しくない。極端な例では,ホスティングサービス事業者の提供したサービスにおいて,ユーザが違法な動画をアップロードするケースもあるし,電子掲示板にユーザが小説等の著作物をコピペすることもありうる。


このような場合,直接行為者でない事業者が責任を負うか,本裁判例の主たる争点であった。


カラオケ法理という判例法理は,基準として非常に「やわらかい」ため,事業者にとってリスクの予測可能性が高くないといえるが,多くの裁判例の蓄積により,「管理支配性」を低める事情,「侵害の蓋然性」を低くするための要素などが明らかになりつつある。ただ,こうしたリスク排除のため施策は,一方でサービスの魅力を低下させることになってしまうため,特にベンチャー企業にとっては,決断に悩むところである。