IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

私的録画補償金に関する協力義務 東京地判平22.12.27

私的録画補償金管理協会(SARVH)が,DVD録画機器を販売する東芝に対して,私的録画補償金を支払わなかったことを理由に損害賠償の支払いを求めた事件。

若干の解説

本判決を紹介する前提として,「私的録音録画補償金制度」について触れる必要があります。これは,本来,私的使用を目的とした個人または家庭内での複製については著作権法でも認められていたものの(著作権法30条1項),デジタル方式で録音・録画する場合には,一定の割合で補償金を徴収して著作権権利者への利益還元を図ろうとする制度です。この制度については,いろいろと問題点があり,まさにその問題点の一つが訴訟へと発展しました。


ただ,実際に権利者が,家庭内で複製する個人に対して,直接補償金を請求することは現実的ではありません。そこで,集中管理方式が採用され,私的録音補償金管理協会(SARAH)と,私的録画補償金管理協会(SARVH)が著作権法に基づく管理団体として,補償金を徴収し,権利者へ分配することになっています。さらに,これら管理団体も,個人から徴収するのではなく,機器・メディアのメーカーから徴収することにしています。我々消費者は,メーカーに対し,補償金が上乗せされた代金を支払い,そのメーカーが補償金をまとめて管理団体に払う,という流れになっています。

ここで取り上げる争点

二つの争点を取り上げます。


一つ目は,東芝は,「アナログチューナー非搭載のDVD録画機器は,政令で定める補償金支払対象機器(特定機器)に該当しない」ということを争った点です。


もう一つは,著作権法104条の5は,製造業者等は「私的録音録画補償金の支払の請求及び受領に関し協力しなければならない。」とあるが,この協力義務として,東芝は,実際に補償金を上乗せして徴収・納付する法律上の義務を負うか,という点です。これは,通常の法文では,支払義務を定める場合「支払わなければならない」などと書くところ,敢えて「協力しなければならない」としたのであるから,協力しなかったとしても,損害賠償義務を負うものではない,ということを争ったものです。

裁判所の判断


アナログチューナー非搭載のDVD録画機器の該当性について。


東芝は,(1)私的録音録画補償金の趣旨に照らし,著作権保護措置がついた機器については,大量複製ができないため,補償金を支払う必要がない,(2)政令の文言が,「アナログデジタル変換が行われた影像」とあるが,アナログチューナーを搭載していない機器は,内部でAD変換をしていないから,該当しない,などの理由を掲げて,補償金の支払対象機器ではない,と主張しました(そのほかの主張は割愛します。)。


しかし,裁判所は,特定機器の判断については,

法30条2項の委任に基づいて制定された「政令」で定める特定機器の解釈に当たっては、当該政令の文言に忠実な文理解釈によるのが相当である


として,文言解釈を重視するとして,まず(2)については,AD変換処理が行われる場所を機器内部で行うことを要件とする文言になっていないとして切り捨てました。さらに,(1)について,著作権法改正の経緯に照らしつつ,

(東芝の主張の)実質は,施行令1条2項3号が規定する特定機器の要件(上記技術的事項)に該当するものであっても,同号制定後の地上デジタル放送における著作権保護技術の運用の実態の下では,私的録画補償金の対象とすべき根拠を失うに至ったから,同号の特定機器からこれを除外するような法又は施行令の改正をすべきである旨の立法論を述べるものにすぎない


として,退けました。つまり,東芝の販売した問題となっているDVD録画機器は,補償金支払の対象となっている機器(特定機器)であるという判断がなされました。


そこで,東芝は,協力義務(著作権法104条の5)を負うことになるが,これに反した場合に,管理団体であるSARVHに損害賠償金を支払う義務があるのか,すなわち「協力義務」の内容が次の争点です。


そこで,裁判所は,まず「協力」について,

「協力」という用語は,一般に,「ある目的のために心を合わせて努力すること。」(広辞苑第六版)などを意味するものであり,抽象的で,広範な内容を包含し得る用語であって,当該用語自体から,特定の具体的な行為を想定することができるものとはいえない。
また,法104条の5においては,「協力」の文言について,「当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し」との限定が付されてはいるものの,「協力」という用語自体が抽象的であることから,上記の限定によっても,「当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し」てしなければならない「協力」の具体的な行為ないし内容が文言上特定されているものとはいえない。


として,協力義務の具体的内容が明らかではないとして,

同条の規定をもって,特定機器の製造業者等に対し,原告が主張するような具体的な行為(すなわち,特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し,利用者から当該補償金を徴収して,原告に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること(以下「上乗せ徴収・納付」という。))を行うべき法律上の義務を課したものと解することは困難というほかなく,法的強制力を伴わない抽象的な義務としての協力義務を課したものにすぎないと解する


として,SARVH側の,上乗せ徴収・納付を内容とする法律的な義務であるという主張を退けました。

その他

本判決は,法律,政令の文言を忠実に解釈したものであり,もともと想定されていた範囲の結論だったといえます。ただ,上訴された可能性もあり,現段階で確定したというわけではありませんので,今後の動向にも注目が必要です。ただ,もともと制度趣旨や,金銭の流れについて,問題の残る制度だっただけに,この判断が確定すると,他のメーカーまでも協力しないおそれもあり,影響が大きいかもしれません。