IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

システムの完成その1 東京地判平17.4.14

システム開発代金請求において,完成が問題となった事例を紹介します。

事案の概要

これは典型的なベンダvsユーザの争いではなく,Y社が医療機関向けのシステム開発のために,一部の開発をX社に委託したというものです(ただ,Yも下請なので,Xは孫請ということになる)。合計で1.9億円ほどXに対して発注されましたが,1.4億ほど支払われ,残金は支払われていなかったため,XがYに約5000万円の支払を請求しました。


なお,この開発案件は,元請けと医療機関との間で中止となり,YからXに対して契約解除も行われています。

ここで取り上げる争点

システムが完成しているか否かが唯一,最大の争点となりました。

裁判所の判断

結論として,以下のように判断して,システムの完成を認めず,Xの請求を棄却しました。

(1)Yが本件システムの検証結果として,発注処理業務,入庫処理業務等につき問題があり,製品としては50ないし60パーセントの完成度にとどまるとしていたこと
(2)Xにおいても,本件システムの完成度として,平成14年12月2日の稼働に向けて60ないし70パーセント,同月末には80パーセントに持っていった上,平成15年1月末には不具合,バグがほとんどない完成状態にする予定であるとしていたこと,
(3)平成14年12月2日に本稼働に至らず,元請けBから本件システムのA病院への導入に係る発注を取り消されたこと
・・からすれば,本件システムは,結局A病院の要求に応じて稼動しうる状態になっていなかったものというほかなく,システムとして完成していたということはできない。


この点に関し,Xは,検収期間が過ぎたことによる「みなし検収」を理由に,XY間では少なくとも完成している,と主張していましたが,時系列でみると,

  • 平成14年11月25日 納入報告書提出(検査期限は12月25日)納品自体は行われていない
  • 12月2日 当初の稼働予定日
  • 同月9日 1回目の納品
  • 同月13日 YからXへの解除通知
  • 同月18日 2回目の納品

となっており,裁判所は,

(納品物が)本件システムとして完成してたものということができないことは前記説示のとおりである上,同月13日には本件システム開発等の中止が通知されているのであり,Xはこれらのことを知った上で上記納品をしているのであるから,本件において検収期間を問題とする余地はない。

と切り捨てています。

若干のコメント

システムの完成をどのような基準で判断するのかは難しいところです。以前に紹介した東京地判平14.5.22によれば,

請負人が仕事を完成させたか否かについては、仕事が当初の請負契約で予定していた最後の工程まで終えているか否かを基準として判断すべき

としていましたが,本判決では特にこのような基準を用いることはなく,XY間の通知・報告をベースに○%の完成度であれば,完成したとはいえない,とシンプルに判断しています。おそらく裁判所としてもそのほうが判断が楽でしょう。


となると,開発当事者からすると,こうした数値による報告は後に極めて重要な意味を持つことになりますから,注意が必要です。


また,みなし検収については,通常,「○日以内に合否の通知がない場合,検収に合格したものとみなす」的な規定が入っており,Xはこれを根拠に主張したと思われます。しかし,「契約解除」の通知は,検収不合格通知の内容を当然に包含していると考えられますので,この点は苦しかったでしょう。


ユーザとしては,みなし検収を主張されると,後に完成を争いにくくなりますので,問題があると判断したときは,検収期間の延長を(書面で)申し入れたり,検収不合格を通知するなどの対応が不可欠だということになります。