IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

著作権譲渡対価と寄付金 知財高判平22.5.25

グループ会社間でのシステム譲渡によって支払われた金銭が寄付金にあたるとして法人税の更正処分が出されたのに対し,連結法人X(岡三証券グループ)が取り消しを求めた事案。

事案の概要

Xは,昭和55年から長期にわたって,Aに対し,証券業務に関するシステムの開発を委託し続けた。その後,平成15年になり,Aの開発したシステムの著作権をXに対して30億円で譲渡する旨の契約が締結され,Xが支払った。Xは,平成15年度の法人税について,連結所得金額を約49億円とした。処分行政庁は,XとAとの取引によって著作権が実際に譲渡されたものではなく,当該金銭は寄附金にあたるとして,損金算入できないとし,法人税の更正処分を行った。そこで,Xがこれらの処分の取り消しを求めて訴訟を提起した。


原審では,国による「寄付金」判断を認め,請求が棄却されたため,Xが控訴したのが本件判決である。


その後,Xは日本ユニシスに,当該システムの著作権を35億円で譲渡した。


国の主張は,システムの著作権は,原始的にはAに帰属するとしても,黙示的にその都度Xに移転されていたもので,平成15年に支払った金銭は,Aの債務超過状態を解消するために虚偽に作出されたもので,対価性がないというものである。


なお,事案は簡略化した。

ここで取り上げる争点

XがAに対してシステムの著作権として支払った金銭は寄付金(法人税法81条の6第2項,第6項,37条7項)にあたるか。
すなわち,システムの著作権が,AからXに譲渡され,その対価である30億円が正当なものといえるか。

裁判所の判断

裁判所は,以下の理由を挙げてXA間の契約以前に黙示的にシステムの著作権が譲渡されていたとはいえないとした(国の主張を退けた)。

  • ソフトウェアの著作権は開発費を負担した者で決まるのではなく,創作した者に帰属するから,原始的には開発会社に帰属すること
  • 一般に,データ処理を委託する場合において,情報処理委託料とは別に,システムの開発費を支払うことはありうること
  • 開発に際して著作権を移転させる場合には,その旨を契約書に記載するのが一般的であること(本件ではそのような明示の移転合意はない)

若干のコメント

租税法については詳しくないのでコメントは控えますが,本件では,20年以上にわたって,Xが開発費や,情報処理委託費を延々とAに支払い続けながらも,さらにシステムの著作権を別途30億円支払って取得したことが,寄附金として疑われたと考えられます。さらにAが債務超過であったことも,その疑義を生じさせる理由といえるでしょう。


しかし,判決文を読む限り,関係者の契約関係には,開発費を支払ったXに権利が移転するような合意はなく,国の主張は,そもそも著作権法の原則(お金を支払った者に権利が帰属するのではなく,創作者に帰属する)に反するものであって,かなり苦しいと考えられます。


一般には,ソフトウェアの委託開発において「費用を負担したのだから,著作権も当然もらう」と考えられることが多いですが,それを実現するには,契約上,明示的に合意されない限り認められません。また,ベンダからすると,一切の権利を譲渡してしまったのでは,今後の別件の仕事にも影響するため(再利用する部分が当然あるはず),譲渡するとしてもその範囲を明確にすることが必要でしょう。


なお,「成果物に関する著作権検収の完了とともに甲(発注者)に移転する。」などと書かれた契約書を見かけますが,著作権法61条2項に注意が必要です((この問題については,知財高判平18.3.31を参照。http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20100313/1327131579)