IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

TVブレイク事件控訴審判決 知財高判平22.9.8

動画投稿サービスの運営者が著作権侵害の主体となるかという点が争点となった事件の控訴審判決。


第1審は,本サイトでも紹介したので,事案の概要,争点などはこちらを参照。

http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20100424/1327131654
(東京地判平21.11.18)


結論としては,控訴棄却なので,差止+損害賠償が認められた原審の判決が維持されている。原審の特徴は,カラオケ法理を適用しつつも,オリジナルのカラオケ法理(?)にはなかった「サービスの性質」を重視した判断がなされているところにある。つまり,著作権侵害の蓋然性が高いサービスだったという点が重視されている。


控訴審では,基本的に原審の判断に上塗りする形で,侵害主体は被告であることを固めている。例えば,被告が,原告に対し,不当な差別的取り扱いを受けた,との主張に対しては,

控訴人らは,控訴人Xしか担当者がいない控訴人会社の乏しい人的,物的資源においては,到底対応不可能な措置を被控訴人から求められたことに対する不満を主張しているようであるが,前記のとおり,著作権侵害の蓋然性の高いサービスを運営している以上,権利者から利用許諾契約締結の前提として,実効性のある著作権侵害防止措置を求められることはむしろ当然であって,控訴人会社が対応不可能であることをもって,権利者の要請が不当と断じることは明らかに相当ではない。

著作権侵害に対し,どのように対応するかは,各権利者の意思に委ねられているものであって,権利者の中に,権利侵害に気付きながら,権利行使しない者が一定割合存在することをもって,控訴人らが,被控訴人の権利行使を不当であると主張することは,明らかに相当ではない。

などと切り捨てている。この部分は,スピード違反で捕まった運転手が,「他にもスピード違反をしているヤツがいるのに!」と主張しているのに近いと思えるが,それだけ法的に侵害主体性を否定する論理が難しかったのかもしれない。


結局,侵害主体性の結論部分としては,

控訴人会社が,本件サービスを提供し,それにより経済的利益を得るために,その支配管理する本件サイトにおいて,ユーザの複製行為を誘引し,実際に本件サーバに本件管理著作物の複製権を侵害する動画が多数投稿されることを
認識しながら,侵害防止措置を講じることなくこれを容認し,蔵置する行為は,ユーザによる複製行為を利用して,自ら複製行為を行ったと評価することができる

としている。


やや気になるのは,侵害主体はYだとしつつ,ユーザ自身も「ユーザが当該動画を本件サーバに投稿する行為は,ユーザによる本件管理著作物の複製権侵害に該当することはいうまでもない」とされているから,ユーザもやはり侵害主体であるとしている。送信可能化行為は1個しかないのに,その主体が,ユーザとY双方だというのは,わかりにくい。