ASPサービスの運用を委託したものの,サーバダウンを繰り返したため,契約を解除し,損害賠償を求めた事件。
事案の概要
ISP事業者のXと,情報サービス業者Yとは,第三者が開発した懸賞サイトシステムをYがXに導入し,その保守を行うという契約(本件契約)を締結した。
本件契約は,運用管理を目的とし,免責・減責規定として,
第8条(責任範囲)
サポートサービスの履行に関連し,Yの責に帰する事由によるものを除き,Xが被った利益の損失,賠償責任及び派生的又は付随的損害及び第三者からXに対する損害賠償を含むいかなる損害についても,Yは,その責任を負わない。
Yの責に帰する事由によりXに与えた損害に関しては,Yは,Xが直近3か月に支払ったASP月額運用費用の額を限度として,Xに賠償する。ただし,損害賠償責任の対象となる損害は,現実に生じた積極損害に限ることとし,逸失利益等の消極損害は含まれない。
(略)
とされていた。月額報酬は31万5000円であった。
その後,当該サイトに不具合が発生し,再起動を繰り返したりしたことから,XからYに支払う報酬額は一部減額して支払われた。
Xは,サイトがたびたび不具合によって機能しないとして,本件契約を解除し,Yに対し,支払済の報酬や,会員獲得費用など,合計約780万円の損害賠償を請求した。
裁判所の判断
債務不履行の有無について,(Z社とは,本件サイトの開発会社)
本件システムは,Xに導入された平成20年8月1日以降,種々の不具合が発生し,このうち,他社のサイト情報が混入するなどしたこと及びリアルファンタジー単語が混入したことについては,Z社の確認ミスであったが,直ちに対応済みであり,ポイントの不正取得が発生したことについては,システム上の問題であったが,直ちに対応済みであり,会員データが正常にインポートできなかったこと,アバターが消失したこと,メールタイトルの文字化けが発生したこと及び会員用日記が正常に動作しなかったことは,XがZ社の想定していなかった方法で使用したことが原因であったが,直ちに対応済みであることが認められる。Y及びZ社は,本件システムの導入に当たって,システムの機能の限界や入力文字,メールの配信などの使用方法等について,どのような説明をしたのか定かではなく,導入支援は十分ではなかったと言わざるを得ないが,上記の不具合に対しては,すべて直ちに対応がされているから,この点については,被告の保守,サポート義務違反があるとはいえない。
とし,不具合については,いずれもすぐに対応しているから,債務不履行はないとしている。また,サーバがダウンしたことについては,
サーバーダウンについても,その直後にシステムが回復されたのであるから,被告に保守,サポート義務違反があったとはいえない。
とした。
さらに,細かなトラブル続きだったことについて,Yの導入支援が不十分であると認めつつも,
もっとも,前記のとおり,本件サイトは,一定数の会員数を獲得しており,サーバーダウンによって退会数が増加したような関係も窺われないから,Yの導入支援が十分ではないことによって具体的に損害が発生したものとは認めるには十分ではない。
として,具体的な損害もないとした。
そして,
結局,本件においては,Y及びその履行補助者としてのZ社による本件システム導入に関する支援は十分ではなかったが,X及びYは,ASP月額運用費用を減額して処理を図ろうとしたものと窺われ,それを超えて積極的損害が発生したものとは認められない(なお,逸失利益の賠償は本件取引基本契約上免責されている。)。
とされ,結局,すべてのXの請求は棄却された。
若干のコメント
本件の場合,トラブルの存在や,対応の不十分さは認められましたが,債務不履行とまではいえないとされ,さらには具体的に損害が生じたともいえないとされています。
仮に,債務不履行による損害が生じていたとしても,契約上の責任範囲には,逸失利益は含まれておらず,損害の上限も,3か月分の報酬とされていたため,もともとXの請求が認められる余地はほとんどなかったといえるでしょう。
免責,減責規定は,トラブルが生じたときに非常に大きく作用します。トラブルが発生してはじめて「え!これは責任範囲外なの?」ということを知ることになり,「こんな不合理な条項は無効だ!」という主張がよく現れます。
しかし,消費者契約の場合ならともかく*1,事業者同士の契約の場合には,免責規定を無効とすることは相当困難です。