IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

プログラムの著作物性 知財高判平24.1.25(平21ネ10024号)

「混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置」に組み込まれたプログラムについて,プログラムの著作物性が争われた事件。

事案の概要

X社は,JFEスチール(Y)が使用している「混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置」(本件装置)に組み込まれた本件プログラムについて,当該プログラムの著作権を譲渡されて,著作権を取得したと主張して,Yに対して,本件プログラムの著作権帰属確認を求めるとともに,プログラム使用料を支払う合意があったとして,使用料相当額を請求した。


プログラムの開発は非常に古く,昭和60年代に開発され,その後改良が行われていた。


一審(大阪地裁平成17年ワ2641号)では,本件装置は特許を取得するほどの新規のものであるから,そこに使用されるプログラムは新規の内容であるとして,プログラムの著作権がXに帰属することを確認したが,使用料を支払う合意は認められないとして,金銭請求は棄却した。


そこで,XY双方が控訴した。

ここで取り上げる争点

Yは,前提となる本件プログラムの著作物性を争った。

裁判所の判断

プログラムの著作物性の判断基準として,

プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,コンピューターに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合わせ,どのような表現順序とするかなどについて,著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。
したがって,プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない。

つまり,創作性が必要であるという著作権法の基本を確認した。


続いて,本件プログラムのうち,DHL車側プログラムについては,200行前後あり,制御部分は50行程度であると認定したものの,

もっとも,Xは,本来,ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく,本件プログラムは著作物性を有するなどと主張して,当初,本件プログラムのソースコードを文書として提出せず,当審の平成22年5月10日の第4回弁論準備手続期日における受命裁判官の求釈明により,本件プログラム全体のソースコードを文書として提出するか否かについて検討し,DHL車側プログラムについては,ソースコードを提出したものの,本件プログラムのいかなる箇所にプログラム制作者の個性が発揮されているのかについて具体的に主張立証しない。
したがって,DHL車側プログラムに挿入された上記命令がどのような機能を有するものか,他に選択可能な挿入箇所や他に選択可能な命令が存在したか否かについてすら,不明であるというほかなく,当該命令部分の存在が,選択の幅がある中から,プログラム制作者が選択したものであり,かつ,それがありふれた表現ではなく,プログラム制作者の個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているものであることについて,これを認めるに足りる証拠はないというほかない。

と,一審提訴から6年以上も経っているのに「具体的に主張立証しない」として,創作性を否定した。


他の部分のTC車側プログラムに至っては,ソースコードが開示されていないこと,創作性について具体的に主張立証がないとして,同じく否定した。


Xは,しきりに,本件装置の優位性を主張し,容易に模倣できないとか,プログラムが複雑であるとか主張したが,

本件装置が新規性を有するからといって,当該装置を稼働させるためのプログラムが直ちに著作物性を有するということができないことは明らかである。
また,先に述べたとおり,プログラムに著作物性があるというためには,プログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するのであるから,新規のアイデアに基づきゼロから開発されたものであること,多くの命令数により記述されていることから,直ちに表現上の創作性を認めることはできない。本件プログラムが多数の機能を実現するための部分が有機的に組み合わされているとしても,当該プログラムに表現上の創作性があることについて具体的に主張立証されない以上,当該プログラムにより実現される機能が多岐にわたることを意味するにすぎない。

と,ダメ押しされた。


その結果,他の争点については判断するまでもなく,請求が棄却された。


とはいえ,親切にも,「事案に鑑み」と前置きして,提出された文書の実質的証拠力の有無について,興味深い判断をしている。本件では,提出された過去の議事録等が偽造であるなどとして,その証拠力が争われ,例えば,

Yは,昭和60年8月27日付けのX作成の議事録(甲50)における「り」の字体は,Xが昭和60年8月当時使用していたリコー製ワープロで打ち出すことはできず,昭和63年6月以降に発売された富士通ワープロでなければ作成できないことなどを,本件議事録が偽造・変造された根拠として主張する。

と,かなりディープな議論が展開されている。その結果,原本が提出されていない文書については,証拠として採用できない,とされている。

若干のコメント

著作権法10条1項9号には,著作物の例示として「プログラムの著作物」と掲げられており,同法2条1項10号の2には,プログラムの定義として,

電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう

とあります。判決中にも述べられていますが,著作物には創作性が要求されますから(2条1項1号),

#include
int main (){
printf("Hello world!\n");
return (0);
}

のようなプログラムは著作物とされません。とはいえ,一定の長さを有するプログラムについては,同じ機能を実現するとしても,誰がやっても同じになるわけではないので,プログラムについては,比較的著作物性が認められやすい類型だと思っていましたが*1,意外にも否定されました。


著作物性を立証するには,特にプログラムのような機能性がある表現物の場合,一定の機能を実現するのに,さまざまな選択があり得ることを示す必要があります。具体的には,ある処理を行うために,複数の記述方法がある,といった選択肢を示す必要があります。判決文からは,X側はその点の十分な主張がなされなかったことが伺われます。

*1:著作権関連の事件では,そもそも著作物ではない,として否定されるケースは珍しくない。