IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

釣りゲームの著作権侵害控訴審 知財高判平24.8.8(平24ネ第10027号)

グリーが携帯電話向け釣りゲームの著作権侵害等を理由にDeNAを訴えた事件の控訴審判決。

地裁判決の概要

問題となった魚の「引き寄せ画面」について,次のように判示して,被告「釣りゲータウン2」の引き寄せ画面は,原告「釣り★スタ」の引き寄せ画面の著作権を侵害すると判断した。

原告作品は,この魚の引き寄せ画面について,(略)特に,水中に三重の同心円を大きく描き,釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ,魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくすることによって表した点は,原告作品以前に配信された他の釣りゲームには全くみられなかったものであり(甲3),この点に原告作品の製作者の個性が強く表れているものと認められる。
(中略)
したがって,被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面との同一性を維持しながら,同心円の配色や,魚影が同心円上のどの位置にある時に魚を引き寄せやすくするかという点等に変更を加えて,新たに被告作品の製作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり,これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものと認められる。

作品の特徴は単なるアイデアではなく,選択の幅のある表現を採用したものであるとした。その結果,損害額にも争いはあったが,約2億3000万円の損害賠償と差止を認めた。


http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20120318/1332047196



(左:原告グリーの画面,右:被告DeNAの画面)

控訴審の判断

裁判所の判断のうち,原審判決文に表れていないこととして,原告,被告の2作品のみではなく,他社作品の特徴も挙げている。例えば,

  • 原告作品配信前に配信されていた「釣りバカ気分」は,釣り上げる前まで魚種がわからないように黒い魚影として描かれていたこと
  • 同じく原告作品配信前に配信されていた「海のぬし釣り」は,水中のみが真横から水平方向の視点で描かれていたこと
  • そのほかにも水中からみる視点で描かれたゲームが存在していたこと
  • 原告作品配信後に配信された「釣り★タウン」「釣りコレDX」は三重の同心円を有するという特徴があるなど,類似点が多かったが,原告からの配信停止の求めに応じて配信停止していたこと

など。さらに,対象物が一定の領域に入った場合に「当たり判定」するゲームには,釣りのほか,弓道,アーチェリー,射撃,ダーツ,ハエたたきゲームなど,多様なゲームがあったことも認定されている。


これらを踏まえて,裁判所は,原告・被告両作品について,

両作品の魚の引き寄せ画面は,水面より上の様子が画面から捨象され,水中のみが真横から水平方向に描かれている点,水中の画像には,画面のほぼ中央に,中心からほぼ等間隔である三重の同心円と,黒色の魚影及び釣り糸が描かれ,水中の画像の背景は,水の色を含め全体的に青色で,下方に岩陰が描かれている点,釣り針にかかった魚影は,水中全体を動き回るが,背景の画像は静止している点において,共通する。

と,原審同様に共通点を認めつつも,

しかしながら,そもそも,釣りゲームにおいて,まず,水中のみを描くことや,水中の画像に魚影,釣り糸及び岩陰を描くこと,水中の画像の配色が全体的に青色であることは,前記(2)ウのとおり,他の釣りゲームにも存在するものである上,実際の水中の影像と比較しても,ありふれた表現といわざるを得ない

次に,水中を真横から水平方向に描き,魚影が動き回る際にも背景の画像は静止していることは,原告作品の特徴の1つでもあるが,このような手法で水中の様子を描くこと自体は,アイデアというべきものである。

また,三重の同心円を採用することは,従前の釣りゲームにはみられなかったものであるが,弓道,射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用したものというべきものであって,釣りゲームに同心円を採用すること自体は,アイデアの範疇に属するものである。

と,アイデアが共通するにすぎないとしている。その結果,

原告作品の魚の引き寄せ画面との共通部分と相違部分の内容や創作性の有無又は程度に鑑みると,被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が,その全体から受ける印象を異にし,原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない。

と結論付けている。


その他,原告の主張については,次のように丁寧に一つずつ切り捨てている。

原告は,原告作品は,中心からほぼ等間隔である三重の同心円が描かれ,同心円の中心が画面のほぼ中央に位置し,最も外側の円の大きさは,水中の画像の約半分を占める点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
上記のうち,三重の同心円を描くことは,従前の釣りゲームにおいて見られない特徴であり(甲3),被告作品においても,三重の同心円を採用したことから,被告らは,この点につき原告作品からヒントを得たものであると推測される。しかしながら,釣りゲームに三重の同心円を採用することは,アイデアというべきものであり,同心円の具体的態様は,前記イのとおり,表現が異なる。よって,同心円を採用したことが共通することの一事をもって,表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。
(他の主張についても同様)

個々の特徴について,創作性がないと切り捨てられることへの危機感から,原告は次のような主張もしているが,裁判所からは受け入れられていない。

原告は,個々の要素がそれぞれバラバラでは表現上の創作性を有しない場合でも,複数の要素が全体として表現上の創作性を有することがあるから,一つのまとまりのある著作物を個々の構成部分に分解して,パーツに分けて創作性の有無や,アイデアか表現かを判断することは妥当ではないと主張する。
しかしながら,著作物の創作的表現は,様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから,原告作品と被告作品の共通部分が表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて,表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益であり,かつ必要なことであって,その上で,作品全体又は侵害が主張されている部分全体について,表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断することは,正当な判断手法ということができる。

そうすると,多数の共通点があるが,個々の共通点自体はありふれているという場合において,「全体として表現上の創作性を有する」という主張は受け入れられにくいということになる。


また,その他の争点であった,画面の遷移並びに素材の選択及び配列の著作権侵害の主張,不正競争防止法2条1項1号にかかる不正競争の成否の主張,一般不法行為の主張については,いずれも原審同様に退けられていて,結果として原告の主張はすべて退けられた。

若干のコメント

原審の判断(著作権侵害を認めた点)は意外だったのですが,結果として大方の予想(?)どおり,著作権侵害は否定されました。しかし,原審判決を維持する場合はともかくとして,完全に覆す場合にしては,審理期間はかなり短かったという印象です(原審判決は平成24年2月23日で,控訴審は8月8日。)。


原告グリーは,上告したということなので,まだ確定したわけではないですが,最高裁で結論が変わる可能性は低いでしょう。


誤解されがちなのは,「発表当時,類似の作品は存在しなかった」ということのみでは,著作物性,創作性が認められるわけではないということです。特許でいえば,新規性はあったとしても,進歩性がなければいけないのと同様に,表現上の創作性がなければ,いくら新しくても珍しくても,著作権の保護の対象とはなりません。


ただ,同種の表現が多数存在していたという事実が明らかになれば,「ありふれた平凡な表現にすぎない」ということの間接事実になるので,侵害を否定する立場からは,こうした事例を摘示することは有効でしょう(もっとも,それに創作性が認められれば「ほかの人も侵害している」ということを示したにすぎず,自らの侵害を否定することにはならないのですが)。


本件の場合,必ずしも類似の釣りゲームがあったということに限らず,「的当て」系のアイデアは以前から多数存在していたことから,そこから釣りゲームでも同種の方法を適用することは容易推考できるため,アイデアにすぎない,もしくはありふれた表現にすぎない,という判断に至ったものと思われます。


控訴審で,他のゲームについて言及があったとはいうものの,特段の新事実などが明らかになったわけではありません。にもかかわらず,結論が完全に変わったことから,この種の著作権侵害事案では予測可能性に乏しいということが露呈されたといえます。