ドロップシッピング利用契約を取り消したとして既払い代金の返還を求めた事例。
事案の概要
原告X1からX4は,いわゆるドロップシッピングの支援事業者であるYに対し,それぞれ約100万円から200万円を支払って,ドロップシッピング事業に加入した。その後,Xらは,加入契約が,特商法に定める業務提供誘引販売取引に該当するとして,クーリングオフするとともに,既払い金の返還を求めた。
Yのウェブサイトには,次のような説明が掲載されていた。
「とにかく簡単」
「ウェブサイト制作,仕入れ,在庫管理,商品の配送を被告がすべて代行するサービスを提供することで,オーナー様の手間を極限まで『ゼロ』に近づけました。」
「オーナー様にして頂く作業は,?サイトで販売する商品の選択,?販売価格の決定,?お客様とのメールのやり取り,?入金の確認,?被告へ売れた商品の発送依頼」
「たったこれだけでOK。ショップオープン後はメール対応のみで簡単運営」
争点
(1)加入契約が業務提供誘引販売取引に該当するか
特商法では「業務提供誘引販売取引」について,クーリングオフ(20日以内の書面による解除)が認められている。この「業務提供誘引販売取引」とは,「在宅でできる仕事を提供するから教材・商品を購入してくれ」というものである。法律上の定義は,
[1]物品の販売(そのあっせんも含む)又は有償で行う役務の提供(そのあっせんも含む)の事業であって,
[2]その販売の目的物たる商品又はその提供される役務を利用する業務(その商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんを行う者が自ら提供を行い,又はあっせんを行うものに限る。)に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を収受し得ることをもって相手方を誘引し,
[3]その者と特定負担を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんに係る取引をするもの
である。
(2)Xらが「事業所等によらないで行う個人」に該当するか
上記のクーリングオフが認められる相手方は,「事業所等によらないで行う個人」に限られる(特商法58条1項カッコ書き)。これはプロであれば要保護性は低いという考え方に基づく。
裁判所の判断
(1)について
裁判所は,「業務提供誘引販売取引」の要件のうち,上記[1][3]はあっさりと認めたうえで,[2]に関し,ネットショップの運営主体がXらであれば,Yがあっせんする取引とは認められないとして,ネットショップの運営主体について検討した。
まず,商品の売買については,加入者(Xら)が売主となると認めつつも,
Yが用意した仕入先から仕入れた商品を,Yが製作したウェブサイトを介して購入者に販売し,Yが直接購入者に対して商品を発送するという仕組みになっており,また,加入者がYから仕入れた商品を当該ネットショップ以外で販売することは禁止されているから,加入者は,商品をYから仕入れて購入者に販売する場合には,Yが構築した商品販売システムを通じた販売しか行えないとの基本的な構造を有している上,原告らを経営主体とみるには次のとおりの疑問がある。
として,ショップのオーナーであるはずの加入者がウェブサイトの修正を自ら行えないなどの事情を適示し,さらにはYが実質的には運営主体であるとした。その他の点も考慮して「業務提供誘引販売取引」にあたるとした。
(2)について
Xらはいずれも自宅PCでYから提供された業務を行っていたことから,こちらはあっさりと「事業所等によらないで行う個人」に該当するとした。
Yは,過失相殺の規定の類推適用(本件請求原因は不当利得返還なので,本来722条は適用されない)も求めたが,こちらも退けられ,請求の趣旨どおりの判決が出た。
若干のコメント
ドロップシッピングとは,
ネットショップのオーナーは在庫を持たず,顧客の注文に応じてドロップシッピングサービス提供業者から注文商品の供給を受け,これを同提供業者から顧客に直接発送する方式
とされています。判決文でも認定されているとおり,購入者との売買契約は,ネットショップのオーナーとの間で締結されるが,オーナーは実質的にはショップを「運営」することはなく,提携業者(本件のY)にほぼお任せであり,「手軽な副業」として,広く知られることとなりました。
しかし,実際にはそんなウマい話はなく,本件でもあるように,ショップのオーナーになるために,100万円以上もの高額な契約金を支払わせるというケースがあり,詐欺的な業者もあるようです。
「業務提供誘引販売取引」は,「業務提供誘引」すなわち,「仕事があるよ」と誘って,その仕事に必要な商品等を「販売取引」するものです。例えば,ホームページ制作の仕事があると誘って,それに必要なPC等を購入させたり,研修を受けさせるものです。ここで想定されているのは,あくまで事業者が仕事のあっせんを行うものであるため,ドロップシッピングのように,オーナーが売主として商品を販売する場合,そもそも事業者が仕事のあっせんをするのかどうかが問題となりました。
裁判所は,実態を見て,加入者が行っていた業務(ショップへの情報掲載,購入者からの質問対応等)は,事業者であるYが加入者であるXに対して提供していた業務だと判断しました。