IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

システムの完成(みなし検収合格条項) 東京地判平24.2.29(平21ワ18610号)

ポイントシステムの完成,検収の合否が争われた事例。

事案の概要

Yは,Xに対し,平成20年3月頃,ポイントサービス事業向けのポイント管理システムの開発を約2400万円で委託し,同年6月と7月に合計で約300万円を支払った。


Xは,システムが完成して納品したと主張し,残代金の約2100万円を請求したのに対し,Yが,ポイント換金機能が実装されていないとして,完成を否定した。

ここで取り上げる争点

(1)ポイント換金機能は本件システムの仕様に含まれるか。

(2)本件システムの完成及び検収の有無。

裁判所の判断

争点(1)について


裁判所は,次のように述べてポイント換金機能を盛り込むことは契約内容になっていないとした。

契約書を含め,本件契約締結の前後に作成された本件システムの仕様に関連する書面には,本件システムに上記機能を盛り込むことを要するとする記載は見当たらない。ポイントバンクサービスに関する書面(略)の一部には,「キャッシュバック」や「換金」に関する記載があるものの,ポイントバンクサービスが口座振込手続をすることを予定していると理解することができ,それは,トリプルポイントサービスに関する書面(略)も同様である。
(略)どの時点でXの誰に対して換金機能を実装するよう確認したというのか明らかでなく,換金機能の実現に関する法規制上の障壁について当時検討していたかどうかも明らかでない。これらの点並びに証人Cの証言及びX代表者の供述に照らせば,証人Bの上記供述部分及び乙第10号証の記載部分は,的確な裏付けを欠くものとして,採用することができない。


争点(2)について


一部の他の機能について実装されていない,というYの主張についても,定型的な論理で排斥した。

一般にソフトウェア開発においては,プログラムに一定程度の確率でバグが生ずるのは不可避であって,納入後にデバッグすることを予定せざるを得ないものであるところ,仮に,Yら主張の上記画面が,本件システムの納品及び検収の際に残存していたとしても,Y会社がこれを指摘すればXにおいて遅滞なく補修を行い得ることは明らかであって,そのような場合をもって納品物に瑕疵があるとか,まして本件システムが未完成であるなどということはできない。


さらに検収の成否については,本件システムが完成して,Yの担当者に通知の上,サーバにアップロードして公開し,操作説明書が交付されたことを認めたうえで,みなし検収の規定を適用して検収の事実を認定した。

本件契約においては,Y会社は,本件システムの納品後,遅滞なく検査し,10日以内に検収を行って書面で通知すること,上記期日までに通知がされない場合は検収合格したものとされることが定められており,本件において検査に適合しない箇所の通知があったものとは認められないから,納品及び検収の事実を認定することができる。


結局,Xの請求額全額が認容された。

若干のコメント

判決文も短く,取り立ててコメントすることもない事案ですが,ユーザ側が書面等で明示されたもの以外に「仕様に含まれている」ということを主張することが難しいことを示す実例であったように思います。


もう一点,みなし検収について考えてみます。本件と同様に,多くのシステム開発契約では,民法633条の原則(報酬の支払いは目的物の引渡と同時履行)を修正し,検収合格+停止期限(検収合格翌月末日等)によって報酬請求権の発生・到来を定めています。さらに,検収期間内にユーザが合否の判定を通知しなかったときには,合格だとみなされる条項が付されていることが多いでしょう。


紛争になるケースでは,ユーザは,検収格通知など出してないケースがほとんどですから,ベンダは,

  • 請負契約の成立(+みなし検収合格条項)
  • 目的物の完成+引渡し(納品)
  • 検査期間の経過
  • 報酬支払期日の到来

を要件事実として主張することになるのに対し,ユーザは,目的物の完成を否定したり(否認),メール等で不合格を通知したからみなし合格にはならない(抗弁)という主張をすることになるでしょう。


仮に,みなし検収合格条項がなかった場合でも,民法130条(条件成就の妨害)を適用ないし類推適用して,ユーザが検査に非協力的であったことなどの事実を挙げて,条件成就(検収合格)をみなすという主張も考えられます。