IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

違法な勧誘によるソフトウェアリース契約 大阪地判平23.9.9(平20ワ856号)

ソフトウェアリース契約を締結すれば,無償でホームページを制作すると申し向けて高額のソフトウェアのリース契約を締結させた行為が,不法行為を構成するとした事例。

事案の概要(簡略化してある)

ソフトウェア販売代理店のY1が,工務店を営むXに対し,宣伝用ホームページの制作を勧誘した。ただし,その制作には,ソフトウェアのリース契約を締結することが条件だとされた。そこで,Xは,リース会社Y2との間で,リース料総額約220万円のリース契約を締結した。


リースの目的物となっているソフトウェアは,デジタル画像加工などの機能を有していたが,類似のソフトウェアの価格はせいぜい20万円程度であり,Xが使用するニーズもなく,実際に使用もしなかった。


Xは,Y2に対し,Y1らがホームページを完成させないなどとして,リース契約を解除する意思表示をするとともに,リース料の支払いを中止した。


Y2は,Xに対し,リース契約に基づいてリース料の支払い残額約190万円を請求し,Xは,Y1,Y2に対し,違法な勧誘行為によって損害を被ったとして約230万円の損害賠償を請求した。

ここで取り上げる争点

争点(1)本件リース契約の取消,解除の可否

争点(2)違法な勧誘行為の有無

裁判所の判断

争点(1)について

Xは,本件リース契約について,詐欺取消,錯誤無効,公序良俗違反による無効(暴利行為),特商法9条1項に基づく取消,消費者契約法4条1項に基づく取消など,多くの法律構成を導入して,リース料支払いを拒んだが,これらはいずれもあっさりと退けられている。


また,ホームページが未完成であるから解除するという主張については,リース契約の内容として,ホームページの制作は含まれていないから,仮にホームページが未完成であっても,リース契約の債務不履行にはならず,主張自体失当であるとした(念のため,ホームページの完成は認定されている。)。


結局,リース会社Y2との関係においては,有効なリース契約があったとして,Xは残リース料及び遅延損害金の支払義務を負うとされた。


争点(2)について

Y1による勧誘行為は次のようなものであった。

Y1は,本件勧誘行為の際,Xらに対して,当初は,専らホームページの集客効果とそれによる売上増加の見通しを強調して,Xの宣伝用ホームページの作成を強く勧めながら,Xらがこれに強い関心を示すようになると,本件リース契約及び本件サービス契約を締結すれば上記ホームページを無償で作成するとして,本件リース契約等の締結を強く勧誘するようになり,Xらが本件リース物件がXの事業に不要であるとの意向を示したのに対しても,ホームページ単体での販売はせず,むしろ,本件リース契約等を締結することが無償でホームページを作成するための条件であると申し向け,ついには,本件リース契約を締結させるに至っている。

(略)

Xらが,購入の必要性を感じていなかった本件リース物件について,その内容や価値について十分な検討をすることもなく本件リース契約及び本件連帯保証契約を締結する意思決定をするに至ったのは,Y1の担当者が無償でホームページの作成をすると述べる以上,本件リース物件がリース料相当の価値を有することは当然の前提であると理解した上で,同社の担当者が説明するように集客に多大な効果を発揮するホームページを無償で作成してもらえるのであれば,本件リース契約を締結することにより,リース料に見合う以上の価値を有する物品と役務の提供を受けられることになって,契約内容がXらにとって極めて有利なものであると信じたからこそであると考えられる。

つまり,無償のサービスとしてのホームページ制作があるからこそ,リース料に見合う価値以上のサービスが得られるとしてリース契約締結に至ったことが認定されている。


そして,Y1による勧誘行為及び取引全体については,

本件勧誘行為には,その価値や有用性を一義的,客観的に評価することが極めて困難な物品又は役務を本来的又は付随的な給付の内容とする本件リース契約の締結を勧誘するものであったこと,本件リース契約がそれらの物品及び役務を一体のものとして給付することを内容とするものであったこと,ユーザーであるXらに対してはそれらの物品又は役務の一方だけでリース料に見合う価値や有用性があり,他方は無償で提供されると説明することによって,それらを合わせた価値がリース料を確実に超えるとの誤信を生じさせるものであったことという事情があるのであり,これらの事情は,Xらにおいて給付の内容である物品又は役務のそれぞれの価値や有用性について十分検討することを著しく困難にするものであるということができる。

そうすると,サプライヤーとしての立場でこのような本件勧誘行為を行うY1としては,Xらが本件リース契約による給付の内容を成す物品や役務の価値や有用性について十分検討することが可能となるように,リース契約の締結に先立ち,Xらに対し,Xらの負担するリース料と給付の内容を成す物品又は役務との対応関係のほか,それぞれの物品又は役務の内容,有用性,価値等を説明し,Xらがこれらを十分に検討した上で,契約締結の意思決定ができるように配慮すべき義務があったというべきであり,本件勧誘行為がそのような配慮を欠いたものであった場合には,本件勧誘行為は,社会的相当性を著しく欠き,Xらの意思決定の自由を侵害したものとして,不法行為法上違法の評価を免れないというべきである。


不適切,不十分な説明による勧誘行為は不法行為になり得るという規範を立てたうえで,リース物件の内容を説明することもなく高額リース契約を締結させたということで,違法性を有するとした。もっとも,リース会社Y2は,当該勧誘行為について責任を負わないとされている。


違法な勧誘行為によって蒙った損害の額は,Xがすでに支払った額の約25万円としつつも,Xらにも過失があったとして5割が減じられた。

若干のコメント

「無償でホームページを制作する」という勧誘文句のもとに,ユーザにとって不要な高額ソフトウェアをリースによって販売するという行為について,違法性があるということが認められたことは意義があるのですが,結局,当該ユーザは,リースの残債支払義務を負うこととされたため,リース取引を媒介にすることにより,不当・違法な取引から完全に救済することができないことになりました。