IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

アダルトサイトを閲覧した小学生からの慰謝料請求 東京地判平24.2.16(平23ワ10366)

アダルトサイトを閲覧した小学生が,請求画面が消せなくなったことについて,慰謝料を請求した事例。

事案の概要

小学生Xが,PCでYの運営するアダルトサイトを閲覧中に,「入会手続が完了したので3日以内に料金50000円を支払ってください」旨の表示がなされたが,Xは,Xの父が帰宅して対処するまでの数時間,これを消すことができなかった(消しても,約5分間隔で表示された)。実際に,利用料等は支払っていない。


そこでXが,請求画面の表示により精神的苦痛を被ったとして,Yに対し,慰謝料200万円を請求した。

ここで取り上げる争点

不法行為の成否

裁判所の判断

Yのサイトの仕組みから,次のような事実が認定された。

本件サイトは,動画再生ボタンを選択することによって,本件請求画面を定期的に表示させるソフトウェアのダウンロードをさせる仕組みとなっていたことが認められるのであって,Xは,平成23年1月17日午後5時前ころ,本件サイトのトップページを閲覧し,

「Q1私は20歳以上であり,使用中のパソコンは会社・業務用のものではありません。」

「Q2利用規約・注意事項をよく読み,同意した上で動画を再生,ダウンロードします。」

との質問について,いずれも「はい」と回答した上,「はい動画を再生します」のボタンを選択し,これによって,X使用のパソコンに本件請求画面を定期的に表示させるソフトウェアのダウンロードが実行されたものと推認される。

Xは,利用規約を周知徹底していなかったことが違法であると主張しているが,

本件サイトのトップページには,利用規約の表示が質問事項の下部にあり,これを読むためには画面をスクロールする必要はあったかもしれないが利用規約は表示されていたと認められる。

(略)

利用者が動画再生ボタンを押すことによって,本件サイトのように定期的に本件請求画面を表示するソフトウェアをパソコンにインストールさせる方法は,仮に,動画配信の対価として,その料金の請求が正当なものであったとしても利用者を困惑させるものであって,利用代金の請求方法として社会通念上不適当というべきである。しかしながら,本件サイトは利用代金の支払をしなかった場合に害悪を加える旨の告知等はないし,利用意思を確認する質問等がないまま直ちに契約成立画面が表示されて利用代金が請求されたり,利用料金に見合う動画配信サービスが提供されないなどの証拠もないから,本件サイトの運営が専ら恐喝や詐欺行為に当たるとまでは認められない。

として,詐欺・恐喝にはあたらないとした。また,

Xは,本件サイトの有料サービスを利用する意思はなかったかもしれないが,動画再生ボタンを選択して,Yに対しては有料サービスを利用する旨の意思表示をしたこと,本件サイトの注意事項には,動画再生ボタンを選択すれば有料のアダルトサービスを利用する旨の契約が成立し,契約後にアダルト画像を含む登録通知画面がパソコンの画面上に約3分から7分間隔で表示されますと事前の告知がされていることが認められる。

有料アダルトサービスの契約が成立旨の告知があったことなどを認め,請求画面が数時間表示され続けたことが不法行為に当たるとは認められなかった。

<修正:当初「契約が成立した」ことを裁判所が認めたような記載をしていましたが,誤りがあったため訂正します。あくまで「契約が成立します」という告知があったことなどから,不法行為とまではいえないという認定です。>

若干のコメント

利用規約の同意に関する判例を調べていたところ,当判例がヒットしました。明らかに不当な料金請求方法であったとしても,裁判所が認定した事実の下では,利用規約を読んで,同意した,ということであれば,契約が成立したことが認められています。


個別の利用規約の条項の有効性までは争点となっていませんが,サービスの内容をニュートラルにとらえて,電子商取引準則の「利用規約の有効性」を適用すれば,裁判所のように契約が成立したと捉えることも自然であったように思います。