IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

プロジェクト管理義務の不履行 東京地判平19.2.16(平17ワ25864号)

納期遅延によるユーザからの解除の有効性が争われた事例。

事案の概要

平成16年11月頃,宝石貴金属加工販売業のYは,ベンダXに対し,インターネット通販で使用するYの見積・販売システムの開発を1591万円で口頭にて発注した。XからYに交付された「作成請負注文請書」には,業務完了日は平成17年7月30日と書かれていた。XY間では,平成17年6月の本稼働開始を予定していた。しかし,Yからの追加の指示などにより,遅れが生じ始めた。結局,システムは完成しなかったため,YからXに対して解除の意思表示がなされた。


Xは,サブシステムの一つ「デザインシステム」に遅延が生じたのはYから想定外の追加・変更指示が出されたためであり,「リフォームシステム」の作業が進まなかったのは,Yから提示されるべき画面デザインのデータが全く提示されなかったためであるとして,出来高相当分の損害賠償700万円の支払いを求めた。

ここで取り上げる争点

開発遅延の原因は,Yによる変更指示等によるものか(Xに遅延の帰責性があるか)。

裁判所の判断

前提問題として,システムの納期に関する争いがあったが,裁判所は当初の本稼働開始時期を遅らせて,デザインシステムについては平成17年7月1日,リフォームシステムについては同年10月18日に運用できるよう納期が設定されたという合意の存在を認めた。


デザインシステムについては,納期遅延の原因は,Yによる変更指示によるものであることは一定程度認めたものの,遅延しないように十分に働きかけて管理する義務を履行していないなどと述べてXに帰責性はないとはしなかった。

 Yがデザインシステムについて,種々変更指示をし,それによって,ある程度完成が遅れたことは否定できない。特にYは,平成17年6月23日にも最終的な変更指示をしているので,その指示に基づく「脇石の明細項目についての自動計算」機能が完成していないことは,Xの責めに帰すことはできないと認められる。

 しかし,それ以外のYの指示変更は,同年4月上旬までになされており,上記1(4)認定のとおり,Xは,その後の同月25日に,同年5月末日までの完成予定をメールで送付しているのであり,同年7月1日の稼働が可能なように同年6月末までにデザインシステムを完成させる予定が変更されたと解すべき事情は認められない。

 Xが,平成17年6月末時点で,上記同月23日の変更指示による部分を除いて,デザインシステムを,実際の稼働運用が可能な程度に完成させていたとは認められず,画像が表示できないとか検索機能が動作していないなどのシステムの重要部分が未完成であったと認められる。

 X代表者Aは,平成17年5月30日の時点で,画像表示ができなかったのは,Yが画像を提供しなかったからであると述べているが,X作製のスケジュールによれば,画像撮影は平成17年1月以降に予定されており,Yが画像撮影をすることになっていたのであれば,Yに催促して画像の提供を申し入れるべきであったと思われるが,証拠上,Xがそのような申し入れをした形跡はなく,またX代表者は,画像が表示されない原因について,5月30日のデモ画面作動時には判らず,会社に戻ってから画像がないことが判ったというのであって,Xがシステム開発に伴う作業手順の管理を十分していなかったことが窺われる。

 以上によれば,Xが納期を遵守できなかった主な原因がYの指示にあるとは認められず,Xに責めに帰すべき事由がないとは認められない。


リフォームシステムについても,同様に,Xに帰責性なしとはしなかった。そして,解除の有効性を認め,Xからの請求をすべて棄却した。

 Xは,デザインシステムの開発については,Yの指示に基づいて作業を進め,比較的完成に近いところまで作業をしたと認められるが,実際に稼働運用できるような完成には至っていなかったと言わざるを得ない。

 リフォームシステムの開発については,X代表者の評価によっても10%程度の段階であり,完成には程遠い状況であった。

 本件デザインシステムとリフォームシステムは,別個独立に稼働させることができると認められるが,本件契約のメイン部分は,リフォームシステムであり,システム一式を一体として請負契約がなされているとみられることに照らすと,Yが両システムについて,Xの債務不履行履行遅滞及び履行不能)による解除をしたことには理由があると認められる。

若干のコメント

「プロジェクトマネジメント義務」という用語は用いられていませんが,

Yが画像撮影をすることになっていたのであれば,Yに催促して画像の提供を申し入れるべきであったと思われるが,証拠上,Xがそのような申し入れをした形跡はな(い)

X代表者は,画像が表示されない原因について,5月30日のデモ画面作動時には判らず,会社に戻ってから画像がないことが判ったというのであって,Xがシステム開発に伴う作業手順の管理を十分していなかった

などと,Xが,遅延が生じないように適切に管理するべき義務を果たしていなかったことを認めています。


本件では,Yに一切の問題がなかったとまでは言っていません。Yにも遅延の責任の一端があることを認めています。しかし,「どちらも悪い」という状況で,最終的にシステムの納品に至らなかった場合には,ベンダが報酬請求することは困難です(例外として,部分的にも独立して利用できるようなケースには割合的報酬請求権が生じます。)。