IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

作業の一部を発注者が肩代わりした場合の代金変更 東京地判平20.12.10(平19ワ第21160号)

合意によって作業の一部を発注者が肩代わりしたという場合における代金の変更の有無が争われた事例。

事案の概要

Yは,Aより気象システムの開発を受託し,平成18年4月頃,Xに対し,その業務の一部を630万円で下請に出した。途中で,Xの作業に遅れが出たことから,XY間の協議により,担当作業の一部の交換が行われた。YからはXに対して300万円が支払われた。


Xは,作業交換が行われたとしても,代金不変更の合意があったことに加え,追加作業発生の合意があったことなどを理由に,Yに対し,未払代金等380万円を請求した。

ここで取り上げる争点

(1)代金不変更の合意の有無
(2)作業量変更に伴う請負代金額の変更の有無

裁判所の判断

まず,争点(1)の代金不変更の合意については,以下のとおり矛盾する事実の存在を理由に否定した。

X代表者が作成したと認められるXY間における交換作業の一覧表には各作業の工数(人月)が記載されており,Xも本件作業交換によりX担当作業の作業量が減少することを意識していたものと認められること,
X代表者は,平成18年8月10日付けメールで見積書と請求書をY代表者宛て送付しているが,これは本件代金不変更の合意とは矛盾する行為であること,
前記交換作業の一覧表における合計工数(人月)の記載及び前記メールに「機能が減らしたのですが」との記載があることに照らし,本件作業交換によりX担当の作業量は減少したものと認められるが,X担当作業の遅れにより本件担当業務の変更が行われ,これによりX担当の作業量が減少したにもかかわらず,本件代金不変更の合意がなされたというのは不自然であること,
以上の各点に照らし,前記X代表者の供述は採用することはできず,他にXの主張を認めるに足る証拠はない。


争点(2)については,次のように述べて,Yが肩代わりした作業相当分は減額されるとした。

本件作業交換に伴う本件請負代金の変更に関し,当事者間において明確な合意がなされたと認めるに足る証拠はない。しかしながら,
(1)完成した仕事に対して代金を支払うという請負契約の性質に照らし,担当作業が変更されてXが行った仕事の内容が変更された以上,請負代金もXが行った仕事に相応するものに変更されてしかるべきこと,
(2)本件作業交換の原因はX担当作業の遅れにあるものと認められるから,本件作業交換によって請負代金額が減少するとしてもXに酷とはいえないこと,
(3)Xは,本件作業交換後,Yに対して新たな見積書を送付しているが,同事実からは,Xも本件作業交換によって請負代金が変更されることを前提としていたことが窺われること,
以上の各点に照らし,本件請負代金は,本件作業交換に伴い,Xの実際に担当した作業に相当する代金額に変更されるものと解するのが相当である。

そして,実際にXが担当した作業量を285万円相当と認定し,すでに300万円が支払われているから,未払い代金はないとした。

若干のコメント

システム開発に関する紛争において,契約締結当時の対象となっていた作業よりも拡大したとして,追加報酬を請求するケースは珍しくありませんが,本件は,作業範囲が減少したとして,それに相当する報酬額の減額幅が争われました。


本件では,明確な減額の合意が存在していなくとも,作業範囲の入れ替えによって下請(X)が再見積をしていたり,もともと作業遅延が生じていたために,Yが作業の肩代わりをする必要が生じていたという事情を汲んで,「Xの実際に担当した作業に相当する代金額に変更されるものと解するのが相当である」としました。


ユーザサイドからは,「本来,ベンダがやるべき作業(データ移行やテストの一部など)をユーザが肩代わりしたから減額してもらいたい」という要求が出ることがあります。本件は,そのような場合における減額可能性について参考になる事例といえるでしょう。