IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

アドベンチャーゲームと映画の著作権(猟奇の檻)知財高判平21.9.30(平21ネ10014号)

アダルト向けの恋愛アドベンチャーゲーム著作権侵害が争われた事例。

事案の概要

Xは,PC98向けにAが販売していた恋愛アドベンチャーゲーム「猟奇の檻」(本件ゲームソフト)は映画の著作物等に該当し,その著作権はXに帰属するとして,Yが販売していた「真説猟奇の檻」(Yゲームソフト)は,本件ゲームソフトのシナリオの翻案にあたるとして,損害賠償の支払いを求めた。


なお,本件ゲームソフトの概要は,判決文によれば,

「零式百貨店グループの本店」において15年間に18人が失踪する事件が発生し,事態を憂慮した零式百貨店の総帥である「零式真琴」が,内部調査をさせるためにある支店に勤務していた主人公「四宅邦治」を呼び寄せ,主人公が同本店を舞台として内部調査を行うという内容のアダルト向けの娯楽を目的とした,いわゆるコマンド選択式マップ移動型アドベンチャーゲームである


原審(東京地判平20.12.25(平19ワ18724号))では,本件ゲームソフトが映画の著作物に当たらない,仮に複合的著作物だとしてもその著作権はXに帰属しない,Yゲームソフトは本件ゲームソフトのシナリオを翻案したものではないとして,請求を棄却した。

ここで取り上げる争点

本件ゲームソフトは映画の著作物にあたるか/その著作権はXに帰属するか

裁判所の判断

ほとんどすべての事実認定,争点に対する判断は,原審判決を引用している。よって,下記引用箇所は原審のものも適宜利用している。


映画の著作物該当性について。

著作権法10条1項7号は,著作物の例示として「映画の著作物」を規定し,同法2条3項は,「この法律にいう「映画の著作物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとする。」と規定しているが,他方で,著作権法上,同法2条3項以外に「映画の著作物」の定義や範囲について定めた規定は存在せず,また,「映画」自体について定義した規定も存在しない。
これらによれば,著作権法にいう「映画の著作物」は,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」,「物に固定されていること」,「著作物であること」の要件をすべて満たすものであると解するのが相当である。

そして,「映画」とは,一般に,「長いフィルム上に連続して撮影した多数の静止画像を,映写機で急速に(1秒間15こま以上,普通は24こま)順次投影し,眼の残像現象を利用して動きのある画像として見せるもの。」(広辞苑第六版297頁)を意味することなどに照らすならば,「映画の効果に類似する視覚的効果」とは,多数の静止画像を眼の残像現象を利用して動きのある連続影像として見せる視覚的効果をいい,また,「映画の効果に類似する視聴覚的効果」とは,連続影像と音声,背景音楽,効果音等の音との組合せによる視聴覚的効果を意味するものと解される。

と,映画の著作物といえるための要件を挙げつつ,本件ゲームソフトについて多数の静止画像から構成され,画面ごとに音楽やセリフが加えられていること,セリフが終わってクリックすると場面が変わることなどを認定したうえで,

本件ゲームソフトの影像は,多数の静止画像の組合せによって表現されているにとどまり,動きのある連続影像として表現されている部分は認められないから,映画の著作物の要件のうち,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」の要件を充足しない。

と映画の著作物該当性を否定した。


そのほかに,Xは,本件ゲームソフトは,画像,音楽,プログラム,シナリオ等の著作物の単なる集合体ではなく,それらが有機的に結合し,不可分一体となって新たなゲームの世界を作り出した複合的著作物に該当すると主張していたが,本判決では,

本件ゲームソフトの影像は,原画,シナリオ,音楽等を適切に組み合わせることにより,ゲームとして楽しむことができるように創作されたものであって,これは,原画やシナリオ,音楽とは別個の新たな著作物に該当する

と,何らかの著作物に該当することは認めつつも,その権利がXに帰属することが認められていない。よって,著作権侵害に関する主張もすべて退けられた。

若干のコメント

著作物には様々な種類がありますが,「映画の著作物」については,頒布権(26条)や著作権の帰属(29条)に関する特別な規定があり,他の著作物とは違った保護を受けることがあります。もっとも,本件では,損害賠償請求だけなので,映画の著作物であろうとなかろうと,何らかの著作物であれば(例えば美術の著作物等),特に保護の範囲は変わらないものと考えられます。


ゲームソフトが映画の著作物に該当するか,という問題は,最判平14.4.25にロールプレイングゲームについて,「映画の著作物」に該当するとした事例があります(中古ゲームソフト事件)。しかし,一律に認めるわけではなく,三国志III事件では,本件同様に静止画像から構成されているとして,映画の著作物ではないとしています(東京高判平11.3.18)。


なお,映画の著作物ではないとされた場合であっても,ゲームソフトは映像,音楽,プログラムなどの複合的要素から構成されている作品であることから,これが何の著作物にもあたらない,という可能性は低いので,海賊版等によるデッドコピーの流通に対しては権利行使が問題なくできると思われます。