IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ウェブサイト制作請負契約の成否 東京地判平21.12.24(平21ワ19307号)

ウェブサイト制作請負契約に基づく報酬を請求した件において,請負契約の成立が争われた事例(原告本人訴訟)。

事案の概要

個人事業主Xは,不動産業Yに対し,ウェブサイトによる集客を提案し,デモサイトなどの体験をさせた。その後,XはYに対して制作報酬を請求したところ,Yは契約を締結した事実はないとして拒絶したことから,約300万円の支払いを求める訴えを提起した。

ここで取り上げる争点

XY間にウェブサイト制作請負契約は成立していたか

裁判所の判断

次のように述べて,契約の成立を否定した。

本件契約に関する契約書はもとより,X作成の見積書,Y作成の注文書等の本件契約の申込みの誘因ないし申込みの事実を示す客観的証拠は提出されていないところ,Xの主張するような内容の契約においては,ウェブサイトの完成時期や引渡時期,コンサルティングの内容や実施要領,支払金額の費用内訳,割賦払による場合の代金支払の回数や支払日,期限の利益を喪失した際の効果等に関して,後日の紛争を避けるために当事者間で文書を作成するなどして明確にしておくのが自然であると思料されるところ,契約書や,それに代わるような書面が存在しないというのはやや不自然である。

また,Xは,Y側が本件契約の成立を前提とするような言動(「いったんキャンセルさせてほしい」旨の発言等)をしていた旨主張するが,Yはこれを否認しており,本件記録上,被告側の上記のような言動について認めるに足りる証拠もない。

さらに,(略)によれば,Xは,平成21年1月16日,Yに対し,「ご案内」と題する書面,「地元ネット」と題する文書を交付している(略)こと,Y向けプログラムの今後の制作方法,費用明細としてY向けの特別価格296万円,着手金として98万円(略)とされ,振込先口座などが記載されていること,Xは,同月20日,Yに対して同日付け「ご案内」と題する書面を交付していることが認められるが,これらの事実及び上記第2の1認定の事実経過によっても,平成21年1月の時点において,XがYとの契約の締結を目指して営業用の広告物を配布したり,説明をするなどの営業活動を行っていたという事実までは認められても,それを超えて,XとY間で既に本件契約が締結され,その履行の一部が行われていたとまで認めるに至らない。

すなわち,営業活動を行った以上に,契約締結の事実は認められておらず,Xの請求は棄却された。

若干のコメント

契約の成否について争われるケースは多々ありますが,本件では,見積書すらなく,自社の営業資料の交付程度にとどまっていること,実際の開発作業が行われた形跡がないことから,契約の成立を否定した結論は妥当だと思われます。