IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

住宅ローン金利一覧の著作物性 知財高判平23.4.19(平23ネ10005号)

住宅ローン金利を一覧化した表の著作物性(図形の著作物,編集著作物,データベースの著作物)が問題となった事例。

事案の概要

Xが開設したウェブサイトには,全国の金融機関の住宅ローン金利を整理した図表が掲載されていた。他方,Yのウェブサイトには,住宅ローン金利の情報が掲載されていた。Xは,Yの当該情報は,Xの著作物(図形,編集著作物又はデータベース)である図表を複製したものであるとして,Yに対してウェブサイトの閉鎖と損害賠償約700万円を請求した。


この図表は,縦軸に金融機関・商品が並び,横軸に変動金利,固定金利(1年固定,2年固定・・)が並び,各セルに「1.850」などの金利が表示されているものである。


一審(東京地判平22.12.21(平22ワ12322号)は,著作物性を否定し,Xの請求を棄却したことから,Xが控訴した。

ここで取り上げる争点

(1)図形の著作物該当性
(2)編集著作物該当性
(3)データベースの著作物該当性
(4)不法行為の成否

裁判所の判断

上記争点のうち,(4)のみが控訴審で追加されたものだったが,(1)から(3)は,いずれも原審の判断を引用して著作物性を否定しているので,原審判断を適宜引用する。


争点(1)図形の著作物性について

本件図表は,各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報について,全国又は各地域別の金融機関ごとに,その商品名,変動金利の数値,固定金利(1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の固定期間別)の数値を表示して金利を対比した表及びそれらの金利の低い順に昇降順に並べて対比した表であり,金利情報をこのような項目に分類して対比した図表及び金利の低い順に昇降順に並べて対比した表は,他に多く存在し(略),ありふれたものであって,思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。


争点(2)編集著作物性について

Xは,素材である全国金融機関の選択又は配列によって創作性を有する編集著作物にあたると主張していたが,やはり否定されている。

本件図表は,(略)全国の金融機関の全てを対象に,その提供する全ての住宅ローン商品の金利情報を素材として選択したものであり,そのような選択はありふれたものであるから,素材の選択によって創作性を認めることはできない。

また,本件図表における素材の配列は,別紙B記載のように,左から,「金融機関名(店舗情報へリンク)」,「キャンペーン商品名等(各金融機関の商品ページへリンク)」,「変動金利型年金利(%)」及び「固定金利型 固定期間別 年金利(%)」(1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の固定期間別)の順に配列したものであり,この種の住宅ローン金利の対比表に多くみられたありふれた配列であり,また,本件図表を構成する図表の中には,各地域ごとの各金融機関の住宅ローン商品を金利の低い順に昇降順に配列したものがあるが,このように金利の低い順に住宅ローン商品を配列することもありふれたものであるから,素材の配列によっても創作性を認めることはできない。


争点(3)データベースの著作物性について

Xは,全国の金融機関のローン金利という情報の集合物をコンピュータによって,選択抽出,検索して,並び替え等ができるから,データベースの著作物に当たると主張していたが,この点も否定された。

Xウェブサイトにおいては,本件図表を構成する各図表の「変動金利」及び「固定金利」の数値を金利の低い順に並べ替えて,表示することができることからすれば,本件図表を構成する各図表に表示される情報については,何らかのデータベースが存在することがうかがわれるが,そのデータ構造についての主張立証はない。もっとも,Xは,本件図表を構成する各図表の複製物を証拠として提出しているが,上記各図表の記載事項から本件図表に係るデータベースのデータ構造そのものを把握することはできない。そうすると,Xの主張の前提となる本件図表のデータベースがいかなるものであるのか不明であるから,情報の体系的な構成によって創作性を有するものと認めることはできない。

また,Xが主張する本件図表のデータベースにおいて選択された情報は,「全国の金融機関の住宅ローンの金利情報等に関する数値及び図形の情報」であって,全国の金融機関の全てを対象に,その提供する全ての住宅ローン商品の金利情報を素材として選択したものであり,そのような選択はありふれたものであるから,情報の選択によって創作性を有するものと認めることはできない。


争点(4)不法行為の成否

控訴審になって,Xは,仮に著作物にあたらないとしても,Yの行為は不法行為にあたるとの主張を追加したが,これも次のように述べて否定された。

Y図表は,Xも認めるように,本件図表それ自体を用いて作成されたもの(いわゆるデッドコピー)ではない。また,本件図表の特徴とされる,全国の金融機関の住宅ローン商品について,金融機関名,商品名,変動金利,固定金利の各固定期間の順に配列することや,これらの情報をデータベース化し,抽出し,並び替えるといった機能自体は,公表されたデータで,しかも全国の金融機関といっても数が限られたものを整理するにとどまるものであって,ありふれたものであるから,これらの配列や機能にY図表と共通する部分があるからといって,そのこと自体において,Y図表が本件図表の複製と同視し得るものとは認められず,Y図表を掲載したウェブサイトの運営が控訴人に対する不法行為に当たるとはいえない。

若干のコメント

公表されている情報を収集,整理した情報に有用性があることは疑う余地がありません。しかし,その図表なりデータベースが,著作権法による保護を受けられるかというと容易ではありません。類似の例として著名なのは,自動車データベース事件(東京地中間判平13.5.25)ですが,当該事件と比べると,データの件数,項目の量,収集の容易性など,いずれも本件図表のほうが劣るのではないかと思われますから,著作物性を否定した本件の判断は妥当でしょう(自動車データベース事件においても著作物性は否定。ただし,不法行為は認定。)。


この種の情報を独占的に利用するケースはかなり限定されているといえます。