IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

サーバに負荷をかける行為が不法行為となった事例 東京地判平23.8.23(平23レ3号)

ペニーオークションサイトに多数のアクセスをして運営を困難にしたことの不法行為該当性が問題となった事例。

事案の概要

Xはいわゆるペニーオークション事業者*1であり,Yはそのサービスの利用者であった。


Xの規約では,会員がいわゆる入札ソフトを使用した入札することを禁止しており,合理的理由に基づいて入札ソフトが使用された入札行為であると判断した場合には,入札・落札を取り消すことがあるとされていた。


また,会員は,サーバ,ネットワークに対して不正にアクセスしたり,妨害・混乱させる行為をしてはならないとされていた。


Yは,ある商品のオークションについて平成22年3月29日21時39分26秒から44秒の間に,合計470回(1秒あたり約25回)に及ぶアクセス行為を行ったほか,他の商品についても同様に短時間で500回,600回の多数回のアクセス行為を繰り返し行った。


Xは,上記のような行為によって運営が妨害されたとして,Yに対して約46万円の損害賠償(アクセスを行った各商品の仕入価格から落札価格の差額である約16万円と弁護士費用30万円の合計)を求めた。


原審(東京簡判平22ハ22943号)では不法行為にあたらないとしてXの請求が棄却されたため,Xが控訴した。

個々で取り上げる争点

(1)Yの行為の不法行為該当性
(2)Yの損害額

裁判所の判断

争点(1)について

Yは単にリロード(F5キーの使用)をしていただけにすぎないと主張していたが,上記のような短時間における多数回のアクセス行為を認定した上で次のように述べた。

Yによる上記のアクセス行為は,その態様からして,本件規約において禁止されている行為とみるべきものであるとともに,本件サーバに過剰な負荷をかけてその正常な稼働を妨げ,本件各オークションにおける他の会員による入札の処理を困難にしたものと認められるから,本件各オークションに係るXの業務を妨害したものと評価すべきものであって,Yに対する不法行為を構成するものというべきである。


争点(2)について

ここはペニーオークションの仕組みを理解しないと,損害の算定は難しいところである。もともと,ペニーオークションは,落札価格は通常の商品販売価格より大幅に低くなるために,落札価格と仕入価格の差額を損害とみるわけにはいかない。なぜなら,ペニーオークション事業者は,多数の落札者以外のユーザから多額の入札料を受け取っており,商品単体の売買価格差だけで利益を評価するのは適切ではないからである。


裁判所は,このようなビジネスモデルにも配慮しつつ,同種の他の商品のオークションでの収益の実績を考慮して,X主張の額を下回るものではないとした。


弁護士費用は5万円とした。

若干のコメント

一瞬のブームで去ってしまったペニーオークション。商品を落札したい者からすると,多数の入札者が現れると,自分が落札できなくなる可能性が高まる上に,落札金額が上昇するということで,他のユーザの入札を排除したいという気持ちが生じます(一番得するのは,一人だけが1回入札するケースで,それであれば,数百円で数万円の商品をゲットできる可能性がある。)。


判決文ではその点の心理状態までも認定されたものではないですが,本件では,他のユーザの入札を排除したいというユーザが,サーバに負荷をかけて複数のユーザを安価に落札したものと推察されます。

*1:入札のたびに有料のコインを必要とするオークションサービス。商品購入に必要な費用は,そのコイン代+安価な商品購入代金だけであり,安価で高額商品を落札できる可能性があるということで,平成21年から23年ころに日本でも流行した。