IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

記事の転載と名誉毀損 東京高判平25.9.6(平25ネ3228)

インターネット上の記事の転載が,名誉毀損行為に該当するかどうかが争われた事例。

事案の概要

Yahoo掲示板に書き込まれた中傷記事等が,匿名で2ちゃんねるに転載されていた。そこで,名誉が毀損されたと主張するXが,インターネット接続サービス業Yに対し,プロバイダ責任法4条1項に基づく契約者の氏名等の発信者情報の開示を求めた。


原審(東京地判平25.4.22)では,

本件各情報はいずれも,既に公開されているインターネット上の掲示板に掲載された記事又は出版された書籍の内容を転載したものに過ぎず,これらの記事の掲載又は書籍の出版以上に原告の社会的評価を低下させるものであるということはできない。
それゆえ,本件各情報が掲載されたことにより,原告の名誉権が明らかに侵害されたと認めることはできない。

として,Xの請求を棄却したため,Xが控訴した。

裁判所の判断

既に公開されている情報を転載したとして新たな名誉権侵害が成立するかという点について,次のように述べた。

本件情報8,9,18は,先にインターネット上のfサイト掲示板に掲載されていた記事を転載したものであるか,又は雑誌「g」の12月号に掲載されていたものであることが認められる。しかし,本件情報8,9,18をウェブサイト「b」で見た者の多くがこれと前後してfサイト掲示板の転載元の記事や雑誌「g」の12月号の記事を読んだとは考えられず,ウェブサイト「b」に本件情報8,9,18を投稿した行為は,新たに,より広範に情報を社会に広め,控訴人の社会的評価をより低下させたものと認められる。

本件情報8,9,18は,真実ではないものと認められ,かつ,ウェブサイトに具体的な根拠も示さずに匿名で控訴人の社会的評価を低下させる内容の断片的な事実を一方的に掲載するというその行為態様からして,公益を図る目的がないことも明らかと認められる。

以上によれば,本件情報8,9,18が掲載されたことにより,控訴人の名誉権が明らかに侵害されたものと認められる。

原判決が変更され,発信者情報の開示請求が一部認められた。

若干のコメント

本件では,転載する行為が「より広範に情報を社会に広め,控訴人の社会的評価をより低下させたもの」であるとされたことから,オリジナル情報の発信者以外であっても,名誉棄損等の責任を負う可能性があることが示されました。


本件では,匿名掲示板への転載が問題となっています。ツイッターでのリツイート行為,フェイスブックでの「いいね!」など,直接に転載を伴わない行為についての判断がなされたものではないものの,同様の責任が生じる場合もあるでしょう。