IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ソフトウェアの不正使用法の発見 東京地判平13.9.28(平12ワ19765)

ソフトウェアのプロテクトを外して不正使用したことについて不法行為の成否が争われた事例。

事案の概要

X1は,コンピュータを使用した学習ソフトウェア(本件ソフトウェア)の製造者で,X2は,その販売者であった。Yは学習塾を運営しており,本件ソフトウェアを購入し,生徒たちに使用させていた。


本件ソフトウェアは,1度使用すると,当該ユーザの学習データが蓄積される仕様になっており,リセットして再利用することができないようになっていた。つまり,生徒1人について1つのソフトウェアが必要であった。


Yは,個人学習データを消去して繰り返し利用できる方法を発見し,X1の代表者に対し,「技術指導料、及び当技術を指導することにより将来当方が被る損害に対する補填の一部として、金500万円を支払うこと。」と記載した書面を交付するとともに「もしここに書いた要求が受け入れられなければ、ちようど関西方面の塾に雪祭りの招待状を出すので、その中にTLTのデータ消去法を同封します。100通から200通出しますよ。」などと申し向けた。


Yは恐喝未遂で逮捕され,起訴され懲役1年,執行猶予3年の判決を受けた。

ここで取り上げる争点

(1)プロテクトを外して使用するという行為及びその方法を他人に伝播する行為の違法性

(2)Xらの損害

裁判所の判断

争点(1)について

裁判所は,以下のとおりデータを消去して使用したり,その方法を他人に伝える行為は不法行為を構成するとした。

本件ソフトウェアの商品としての特性は、1度使用すると、その者の個人データが蓄積され、その後そのデータを消去して初期化し別の者がこれを使用することができないようになっており、生徒1人について1つのソフトが必要であることにあり、本件ソフトウェアを購入する者は、そのような使用方法を前提としていたこと、X1の中村が、Yに本件ソフトウェアの購入を勧めた際にも、その旨の説明をしたこと、本件ソフトウェアを初期化して別の者が使用できるようにすることは、ソフトウェアの複製そのものではないが、実質的に本件ソフトウェアの複製に近い側面があること、Yは、前記の本件ソフトウェアの特性から、本件ソフトウェアが初期化できることになると、再度ソフトウェアが利用されることによって新たにソフトウェアが購入されなくなり、本件ソフトウェアの販売者であるX2及びX1と販売等業務委託契約を締結しているX1の本件ソフトウェアを販売することによって得られるべき利益が侵害される可能性があることを十分認識していたことが認められる。
 そうすると、Yは、Yが本件ソフトウェアを初期化して利用したり、他人に本件ソフトウェアの初期化の方法を教えたりしたことが認められれば、そのような行為は、Xらに対する関係で社会的相当性を欠き、不法行為を構成するといわざるを得ない。

ただし,実際に不正使用したと認められるのは英単語の学習ソフトであるボキャキングで,購入分の3回分程度にとどまるとした。


争点(2)について

Y自身による不正行為による損害は,上記ボキャキング(単価3650円)16本が3回利用されたとして87,600円とした。


ただし,Yが恐喝中に述べた「5人に伝播した」という事実については認められず,伝播行為による損害賠償は退けられた。


また,Yによる恐喝行為による損害としては,Xの取締役や従業員の警察への出頭に伴う交通費,宿泊費と,告訴にかかる弁護士費用10万円の限度で認定し,不正行為を封じるプロテクト機能の開発費用は損害として認めなかった。

若干のコメント

恐喝行為そのものの違法性は明らかですが,「弱み」としてソフトウェアの不正利用方法を見つけて現に不正利用した行為の違法性が問題となった事例です。なお,本件での不正行為には複製行為が含まれておらず,コピープロテクトやアクセス制限の解除等も含まれていないので,著作権侵害(複製権)や,不正競争防止法に基づく請求は困難だと思われます。ときめきメモリアル事件(最判平13.2.13民集55-1-87)のように同一性保持権侵害も著作物に対する改変がない以上,難しいと思われます。


しかしながら,本件のように本来想定,許諾されていない使用法を検知し,本来追加で購入すべきソフトウェアの購入を免れる行為は不法行為にあたるという判断がなされました。常識的な判断だと思われます。


本判決は10年以上前のものですが,現在では,ゲームの不正利用が問題になることがあります。ボットやチートツールを使用したり,ゲーム内のバグを悪用したりして課金を免れる行為などは本判決と同様に不法行為(あるいは明示的に利用規約等で禁止していれば債務不履行)になり得ると考えられます。