IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

検索結果表示からの表示中止請求 京都地判平26.8.7(平25ワ2893)

大手検索サービス提供事業者に対して,過去の逮捕歴に関する検索結果(表示及びリンク)の差止等を求めた事例。

事案の概要

Xは,平成24年12月に,盗撮の容疑(迷惑防止条例違反)で逮捕され,その後,同違反につき平成25年4月に執行猶予付き有罪判決を受けた。


Xは,Yが提供する検索サービスに,検索ワードとしてXの氏名を入力すると,Xの逮捕事実が記載されたウェブサイトへのリンク,スニペット*1,URLが複数含まれていた。


Xは,Yに対し,逮捕の事実が表示されることについて,Xの名誉棄損及びプライバシー侵害が行われているとして,損害賠償金1100万円を請求するとともに,人格権に基づいて,Yのサイトにおいて,Xが逮捕された旨の事実の表示及び同事実が記載されているウェブサイトへのリンクの表示の差止めを求めた。

ここで取り上げる争点

(1)検索結果の表示は,Xの名誉を毀損するものとしてYに不法行為が成立するか
(2)検索結果の表示は,Xのプライバシーを侵害するものとして,Yに不法行為が成立するか

裁判所の判断

争点(1)について。少々長めに引用する。

本件検索サービスの仕組みは,Yが構築したものであるから,これによる検索結果の表示は,Yの意思に基づくものというべきであるが,本件検索サービスの目的(略)や,表示される検索結果が,基本的には,Yが左右することのできない複数の条件(略)の組み合わせによって自動的かつ機械的に定まること等にかんがみれば,Yが検索結果の表示によって本件検索サービスの利用者に摘示する事実とは,検索ワードがその記載内容に含まれているウェブサイト(リンク先サイト)の存在及び所在(URL)並びにその記載内容の一部(スニペットとして表示される,当該サイトの記載内容のうち検索ワードを含む部分)という事実に止まるものと認めるのが相当であり,本件検索サービスの一般的な利用者の通常の認識にも合致するといえる。

(略)本件検索結果の表示は,Xの氏名を検索ワードとして本件検索サービスにより検索を行った結果の一部であり,ロボット型全文検索エンジンによって自動的かつ機械的に抽出された,Xの氏名の記載のある複数のウェブサイトへのリンク,スニペット(本件逮捕事実が記載されたもの)及びURLであるから,これによってYが摘示する事実は,「Xの氏名が記載されているウェブサイトとして,上記の複数のウェブサイト(リンク先サイト)が存在していること」及び「その所在(URL)」並びに「上記の複数のウェブサイト中のXの氏名を含む部分の記載内容」という事実であると認めるのが相当であり,本件検索サービスの一般的な利用者の通常の認識にも合致するといえる。

Xは,本件検索結果の表示は正に本件逮捕事実の摘示である旨主張する。
しかし,上記判示のとおり,本件検索結果の表示のうちリンク部分は,リンク先サイトの存在を示すものにすぎず,本件検索サービスの利用者がリンク部分をクリックすることでリンク先サイトを開くことができるからといって,Y自身がリンク先サイトに記載されている本件逮捕事実を摘示したものとみることはできない。また,スニペット部分に本件逮捕事実を認識できる記載があるとしても,スニペット部分は,利用者の検索の便宜を図るため,リンク先サイトの記載内容のうち検索ワードを含む部分を自動的かつ機械的に抜粋して表示するものであることからすれば,Yがスニペット部分の表示によって当該部分に記載されている事実自体の摘示を行っていると認めるのは相当ではなく,本件検索サービスの一般的な利用者の通常の認識とも合致しないというべきである。本件逮捕事実も,検索ワード(Xの氏名)を含んでいたことから検索ワード(Xの氏名)に付随して,無数のウェブサイトの情報の中から抽出され,スニペット部分に表示されたにすぎないのであるから,Yがスニペット部分の表示によって本件逮捕事実を自ら摘示したとみることはできないというべきである。

以上のとおり,Yが本件検索結果の表示によって摘示する事実は,検索ワードであるXの氏名が含まれている複数のウェブサイトの存在及び所在(URL)並びに当該サイトの記載内容の一部という事実であって,Yがスニペット部分の表示に含まれている本件逮捕事実自体を摘示しているとはいえないから,これによりYがXの名誉を毀損したとのXの主張は,採用することができない。

裁判所は,検索結果の表示はYの意思によるものではあるが,自動的かつ機械的に抜粋したスニペット部分によって,Y自身が逮捕事実を自ら摘示したものとはいえず,Yが名誉を毀損したとはいえないとした。


YはXの名誉を毀損していないとしつつも,裁判所は「仮に」名誉毀損が成立するという場合に違法性が阻却されるかということを検討した。刑法230条の2と同様に,民事上の不法行為たる名誉棄損においても,(1)公共の利害に関する事実で,(2)専ら公益目的で,(3)適示された事実が真実であると証明されたときは,違法性が阻却される(最判昭41.6.23)。

(1)について
本件逮捕事実は,Xが,サンダルに仕掛けた小型カメラで女性を盗撮したという特殊な行為態様の犯罪事実に係るものであり,社会的な関心が高い事柄であるといえること,Xの逮捕からいまだ1年半程度しか経過していないことに照らせば,本件逮捕事実の摘示はもちろんのこと,本件逮捕事実が記載されているリンク先サイトの存在及び所在(URL)並びに当該サイトの記載内容の一部という事実の摘示についても,公共の利害に関する事実に係る行為であると認められる。

(2)について
(略)本件検索結果の表示は,本件検索サービスの利用者が検索ワードとしてXの氏名を入力することにより,自動的かつ機械的に表示されるものであると認められるから,その表示自体にはYの目的というものを観念し難い。
しかしながら,Yが本件検索サービスを提供する目的には,一般公衆が,本件逮捕事実のような公共の利害に関する事実の情報にアクセスしやすくするという目的が含まれていると認められるから,公益を図る目的が含まれているといえる。本件検索結果の表示は,このような公益を図る目的を含む本件検索サービスの提供の結果であるから,公益を図る目的によるものといえる。

(3)について
(略)本件逮捕事実は真実である。(略)

したがって,仮に,Yが本件検索結果の表示をもって本件逮捕事実を摘示していると認められるとしても,又は,Yが本件検索結果の表示をもって,本件逮捕事実が記載されているリンク先サイトの存在及び所在(URL)並びにその記載内容の一部という事実を摘示したことによって,Xの社会的評価が低下すると認められるとしても,その名誉毀損については,違法性が阻却され,不法行為は成立しないというべきである。

と,ダメ押しした。


争点(2)について

Yが本件検索結果の表示によってXのプライバシーを侵害したかどうかは,本件検索結果の表示によってYが摘示した事実が何であったかにより異なり得るが,仮に本件検索結果の表示によるYの事実の摘示によってXのプライバシーが侵害されたとしても,(1)摘示されている事実が社会の正当な関心事であり,(2)その摘示内容・摘示方法が不当なものでない場合には,違法性が阻却されると解するのが相当である。

裁判所は上記のように述べて,プライバシー侵害の有無を問わず,(1)/(2)を満たせば,違法性阻却されるとして,(1)/(2)はいずれも満たされるから違法性が阻却されるとした。

若干のコメント

ちょうど先日(平成26年10月9日),東京地裁Googleに対して検索結果の削除を命じる仮処分決定が出たところですが,こちらの決定文は見ていません(いずれ比較検討してみたいと思います。)。


裁判所は,検索エンジンの検索結果表示については,自動的・機械的に行っているものであって,「スニペット部分の表示によって当該部分に記載されている事実自体の摘示を行っていると認めるのは相当ではなく,本件検索サービスの一般的な利用者の通常の認識とも合致しない」としました。このように判断すれば,検索エンジンは,結果について意図的な操作を加えていない限り,何を表示したとしても違法性の問題は生じないように思われますが,結論を導くのに不要であるはずの違法性阻却に関する言及をしているところは,親切心なのか,予防線を張ったのか疑問が残るところです。

*1:リンク先の記載内容を機械的に数十文字に抜粋したもの