IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

検索結果からの削除請求 東京地判平22.2.18(平21ワ25234)

検索結果の表示による名誉棄損,不法行為の成否が争われた事例(平成21年当時)。

事案の概要

医師Xは,検索エンジンサービス提供事業者Yの検索サービスにおいて,「X 医師」などと入力して検索すると,電子掲示板Zにおいて「Xは性犯罪者!」などと書かれたページが結果に表示されるとして,(1)検索結果の表示自体が名誉棄損となる,(2)問題となるサイトへの到達を容易にしたことが名誉棄損となる,として,Yに対して,慰謝料200万円等の支払と,ページの削除を要求した。


なお,Xの代理人が,元Yのインハウス弁護士であったことから,Yは,弁護士法25条の「職務を行いえない事件」であり,本件訴えは無効であるという本案前の抗弁も主張していたが退けられている(ここでは取り上げない)。

ここで取り上げる争点

名誉棄損の成否

裁判所の判断

検索結果の表示行為の名誉棄損該当性

本件検索サービスの検索結果として一覧形式で表示されるもののなかに含まれる本件各ウェブページの表示は(甲1),被告自身の意思内容を表示したものではないし,標題はもちろん,本件各ウェブページの内容から抜粋されて表示される部分についても,それ自体が原告の人格権等を侵害するものであるとまで認めることはできない。なお,本件検索サービスの検索結果の表示として,本件ウェブページ2から抜粋された「Xは性犯罪者!消えろ死ね」という内容が表示されることもあるようであるが(甲1),その分量や,この表示を見た利用者の受け取り方等を忖度すると,上記の表示自体が原告に対する不法行為を構成するとまで認めることはできない。


ウェブページへの到達を容易にする行為の名誉棄損該当性

本件各ウェブページへの書き込みに原告の社会的評価を低下させるような事実の摘示が含まれていることは否定できないところ,インターネットが広く普及した現代社会において,検索サービスは,一般人が自らが必要とする情報に接するためにほぼ不可欠な手段となっており,特に被告が運営する本件検索サービスのように利用者数の極めて多い検索サービスは,一般人が検索結果として表示されるウェブページにおける表現に接する機会を拡大するという重要な機能を果たしていることにかんがみると,本件検索サービスの検索結果として本件各ウェブページが表示されることが,原告の社会的評価を低下させる可能性のある事実の摘示が含まれた本件各ウェブページに到達することを容易にするものであるという点は,原告の主張するとおりというべきである。

しかしながら,本件検索サービスの検索結果から特定のウェブページを削除することが可能であることや,被告が特定のウェブページの表示の削除などの一定の措置を講じた実績があることをもって,被告が当該ウェブページが検索結果として表示されること自体の違法性を認めたと評価することはできず,本件検索サービスの結果として違法なウェブページが表示される場合に,それによって権利を侵害される者による検索結果の削除請求権が当然に発生するものと認めることはできない。

としたうえで,

  • 検索サービスは,ウェブサイトへ到達するための手段に過ぎない
  • 違法なものがあれば,発信者情報開示請求という手段もある
  • ロボット型検索エンジンの場合には,運営者が内容の信ぴょう性を確認することはほぼ不可能
  • 児童ポルノ画像を掲載したサイトのURLを紹介する行為とは性質が異なる
  • 検索サービスからの情報削除は,表現の発信や接する機会を狭くしてしまう可能性がある

としたことを述べて,削除を求められるのは次のような場合に限るべきだとした。

違法な表現を含むウェブページが検索サービスの検索結果として表示される場合でも,検索サービスの運営者自体が,違法な表現を行っているわけでも,当該ウェブページを管理しているわけでもないこと,検索サービスの運営者は,検索サービスの性質上,原則として,検索結果として表示されるウェブページの内容や違法性の有無について判断すべき立場にはないこと,現代社会における検索サービスの役割からすると,検索サービスの検索結果から違法な表現を含む特定のウェブページを削除すると,当該ウェブページ上の違法ではない表現についてまで,社会に対する発信や接触の機会を事実上相当程度制限する結果になることなどからすると,ウェブページ上の違法な表現によって人格権等を侵害される者が,当該表現の表現者に対してその削除等を求めることなく,例外的に,法的な請求として,検索サービスの運営者に対して検索サービスの検索結果から当該ウェブページを削除することを求めることができるのは,当該ウェブページ自体からその違法性が明らかであり,かつ,ウェブページの全体か,少なくとも大部分が違法性を有しているという場合に,申し出等を受けることにより,検索サービスの運営者がその違法性を認識することができたにもかかわらず,これを放置しているような場合に限られるものと解するのが相当である。

すなわち,検索エンジン事業者が,違法性を認識しながら,敢えて放置しているような場合に限るとした。本件では,そのような事情はないとして,人格権に基づく削除請求権も損害賠償請求権も否定した。

若干のコメント

検索結果からの削除といえば,平成26年10月9日に東京地裁で出された決定(本日時点で判例DB集未登載)が有名です。本判決は,今から5年前に出されたもので,これからまた新たな事例が積み重ねられていくことで,ルールが形成されていくことと思います。


検索結果からの削除というのは,事実上,表現そのものを消してしまうことに近いといえるため,こうした削除を認めるとしても,その範囲は慎重に決定されるべきところです。