IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

違法ソフトウェア販売における損害の額 東京地判平27.2.12(平26ワ33433)

ネットオークションで違法に複製されたソフトウェアがダウンロード販売された際の損害額が問題となった事例。

事案の概要

(本件はYが出頭しなかったため,著作権侵害には擬制自白が成立している。)


CADソフトを開発し,著作権を有するXは,Yがヤフーオークションで,Xのソフトウェアを一部改編したソフトウェアをダウンロード販売していた。Xは,プロ責法に基づく発信者情報開示請求を行い,ヤフーからYの情報を開示された。


Xのソフトウェアの標準小売価格は19万9500円(税込)である一方,Yが出品した価格は,1本4,980円であった。Yは,56回出品し,すべて落札された。


そのため,Xは,Yに対し,著作権法114条3項に基づいて,「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」として,19万9500円×56本=1117万2000円の損害賠償を請求した。

ここで取り上げる争点

標準小売価格の全額が,「受けるべき金銭の額に相当する額」といえるか。

裁判所の判断

次のように述べて,標準小売価格の50%が損害だとした。

著作権法114条3項は,著作権の侵害行為があった場合に,著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額である使用料相当額については,権利者に,最低限の損害額として損害賠償請求を認める趣旨の規定である。そして,本件のように,被告が本件ソフトウェアの違法複製版をダウンロード販売したという事案においては,本件ソフトウェアを複製した商品を販売する者から原告が受けるべき使用料相当額を算定すべきであるところ,本件においては,著作権者の標準小売価格を前提としてこれに相当な実施料率を乗じて使用料相当額を算定するのが相当であると解される。


Xは,標準小売価格の全額が,損害だと主張していたが,

少なくとも,被告の販売価格(インターネットオークションへの出品価格は4980円)ではなく著作権者の標準小売価格を前提として相当な実施料率を乗じて使用料相当額を算定することは,違法行為を助長し正義に反するということには何らならない。また,著作権法114条4項の規定は同条3項の規定する損害を超える損害の賠償を別途請求することを認める規定であり,原告の主張するような同条3項の解釈を支えるものではない。さらに,原告が挙げる裁判例は,被告が原告の著作物であるプログラムを末端ユーザーとして違法に使用したと認定された事案であって,本件ソフトウェアの違法複製版をダウンロード販売した本件とは事案が異なる。原告の主張は,いずれも採用することができない。

そのうえで,実施料率は,定番の「実施料率【第5版】」(発明協会)のソフトウェアが平均33.2%とされていることも踏まえつつ,Yの行為態様が悪質なものであったことも踏まえて「一切の事情を考慮」した結果,実施料率は50%だとした(認容額は,請求額の半額である558万6000円)。

若干のコメント

裁判所は,114条3項の実施料率が100%ではないとし,一切の事情を考慮して標準小売学の50%を損害として認めました。114条3項ではなく,1項を根拠にした場合には,損害の額=Xの利益の額×本数となるので(但書の事情もないと思われます。),Xのソフトウェアの原価・変動費は,50%にも満たず,より多くの損害が認定された可能性があるのではないかと思いました。


裁判所も「原告は,著作権法114条3項に基づく損害のみを主張し」という言い方をしていたことからすると,「他の方法があるんじゃないか?」と考えていたのかもしれません。


先日このブログで取り上げた大阪地判平15.10.23では,確かに標準小売価格全額が114条2項の「利益の額」とされましたが,これは,エンドユーザが本来正規に購入すべきライセンスを購入しなかったということによって得た利益の額が問題となったケースであり,事案が異なるといえます。


被告が出頭しなかったとしても,著作権侵害の事実,損害の発生までは自白が成立するものの,損害の額までは,訴状記載どおりには認定されないですね。