IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ウェブサイトへの無断写真掲載 東京地判平27.4.15(平26ワ24391)

ウェブサイトに無断で写真を掲載したことが著作権侵害とされた事例。



事案の概要

法律事務所Yは,自己の運営するウェブサイトに,写真を掲載していた。ここでの写真6枚は,写真家X1,X2,X3,X4が撮影したものであるが,X1ないしX4は,コンテンツサービス会社X5に対して,著作権を譲渡あるいは独占的利用権の許諾をしていた。


そこで,X1からX5は,当該写真について,著作権侵害著作者人格権侵害,あるいは独占的利用権者の利益の侵害があったとして,損害賠償を求めた。

ここで取り上げる争点

(1)独占的利用者の権利侵害の有無
(2)過失の有無

裁判所の判断

著作権(複製権,公衆送信権)の侵害については,あっさり認められている。


独占的利用権者のX5に対する不法行為が成立するかという点も争点となった(争点(1))。

X5は,事実上,第三者との関係において本件写真3ないし6の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあると評価することができるところ,このような事実状態に基づき同原告が享受する利益は,法的保護に値するものというべきである。

として,不法行為の成立が認められている。


過失の有無についても争われた(争点(2))。


Yの従業員Eについて,

ホームページを作成する会社に勤務してホームページ作成技術を学んだ後,平成20年に独立してホームページの作成を業務として行うようになり,平成21年にコンピューターシステムの設計,開発及び販売のほか,インターネットのホームページの作成,企画,立案及び運営などを目的とする< >を設立して,平成24年まで同社の事業としてホームページの作成業務を行っていたところ,同年10月からは,弁護士法人であるYの従業員としてYウェブサイトの作成業務を担当していたことが認められるから,このようなEの経歴及び立場に照らせば,Eは,本件掲載行為によって著作権等の侵害を惹起する可能性があることを十分認識しながら,あえて本件各写真を複製し,これを送信可能化し,その際,著作者の氏名を表示しなかったものと推認するのが相当であって,本件各写真の著作権等の侵害につき,単なる過失にとどまらず,少なくとも未必の故意があったと認めるのが相当というべきである。


とされた。


損害の額は,著作権法114条3項により,正規の使用料金表にしたがって算定され,それぞれ1万円から17万6400円の間とされた(これに弁護士費用1000円から2万円が加わる。)。

若干のコメント。

知財判例としてそれほど重要な意味を持つというほどではないですが,当事者的に注目すべきところもあるので紹介したものです。警告が来た後は,すぐに消したものの,賠償金の支払いを拒絶したために訴訟になったようです。


著作権教育では,よく拝借した写真を勝手にウェブサイトに載せてはだめですよ,文句を言われたら消せばよいというわけにはいきませんよ,ということが言われます。6枚の写真を掲載した行為が訴訟にもなったという実例を示すことで,著作権教育のケースとしても好例ではないでしょうか。


なお,独占的利用権者による損害賠償請求権について,中山信弘著作権法』第2版642頁では「独占的利用権者は,著作権者との契約により認められる債権的な地位ではあるが,第三者の侵害行為があれば市場における独占性を害されて損害を被る立場にあるので,利用権者独自の損害賠償請求権を認めるべきであろう。」とされています。本判決も,この通説的立場に立ったものと考えられます。なお,通常の利用権者には損害賠償請求が認められないでしょう。