IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

著作権法によるプログラムの保護 東京地判昭57.12.6(昭54ワ10867) スペースインベーダーパート2事件

プログラムが著作権法のもとで保護を受けるか否かが争われた事例。


事案の概要

Yは,X(タイトー)が販売・賃貸するテレビゲーム「スペース・インベーダー・パートII」(本件ゲーム)のプログラム(本件プログラム)をマシン語に置換えたオブジェクトプログラム(本件オブジェクトプログラム)をROMに収納し,本件ゲームと同様のゲームができるように基盤を改造した。


そのため,Xは,Yの行為は,複製権侵害行為にあたるとして,Yに対し,200万円の損害賠償を求めた。

ここで取り上げる争点

本件プログラムの著作物性


この当時の著作権法10条1項には著作物としてプログラムが列挙されていなかった。そのため,コンピュータプログラムが著作物としての保護を受けられるか否かが問題となった。Yは,「本件プログラムに使用されている記号語は人間に理解し得るものではなく,それ自体客観的に思想を表現するものと解することはできない」として著作物性を否認していた。

裁判所の判断

著作物性について

本件プログラムは、本件ゲームの内容を本件機械の受像機面上に映し出すことを目的とし、その目的達成のために必要な種々の問題を細分化して分析し、そのそれぞれについて解法を発見した上で、その発見された解法に従つて作成されたフローチャートに基づき、専門的知識を有する第三者に伝達可能な記号語(アッセンブリ言語)によつて、種々の命令及びその他の情報の組合せとして表現されたものであり、当然のことながら右の解法の発見及び命令の組合せの方法においてプログラム作成者の論理的思考が必要とされ、また最終的に完成されたプログラムはその作成者によつて個性的な相違が生じるものであることは明らかであるから、本件プログラムは、その作成者の独自の学術的思想の創作的表現であり、著作権法上保護される著作物に当たると認められる。


また,Yが複製したのはオブジェクトコードであるが,ソースプログラムの複製物にあたるものであって,本件オブジェクトプログラムを基盤に追加する行為は,複製であると評価した。


そして,複製による利益は1台2万円であるとして27台分の合計54万円の損害賠償を認めた。

若干のコメント

当ブログで初めて「昭和」の裁判例を取り上げました。


ソフトウェアのプログラムを著作権法によって保護するというのは,現在では当然のように考えられていますが,昭和の終わりころに文化庁通産省での綱引きや外圧を含め,様々な議論が対立していました。その詳細は,中山信弘『ソフトウェアの法的保護(新版)』等に述べられていますが,同書15頁では,本判決が「プログラムそれ自体を著作物と認める画期的な判決」として紹介されています*1


このころ,プログラムの不正コピーが問題になっていたのは,スペースインベーダーのような喫茶店に設置してあるテーブルを筐体とするアーケードゲーム*2の事例が多いようです。


これに先立つ事例としては,ビデオゲームの映像が商品等表示にあたるとして不正競争防止法を適用して保護した例もありますが(東京地判昭57.9.27等),今となっては先例的価値があるか疑問もあります。


その後,昭和60年著作権法改正により,10条1項9号に著作物の例示として「プログラム」が追加され,関連する定義規定なども整備され,30年以上が経っていますが,いまだ,プログラム著作物に関する裁判例はそれほど蓄積されておらず,著作権法の基本的な概念である「創作性の有無」や「複製・翻案の成否」について判断基準があるとは言い難い状況だと感じます。


なお,本件ではオブジェクトコードが問題となっているので,その記号列から創作性を判断したのではなく,

本件プログラムは、まず、受像機面上に表現されるインベーダー等種々の影像並びにその数、大きさ、配列、順序、ミサイルの飛行速度、ビーム砲基地の大きさ、間隔、ビーム砲の大きさ、運動経路等の決定(仕事の分析)、次いで、右に決定された各種の影像を受像機面上に影像として映し出す情報としてROMへ収納するデータ情報の構成及びそのアドレスの決定、本件機械にコインが投入される前におけるデモプレイ時、コインが投入されゲームが開始された場合、並びにゲーム終了という一連の過程における影像の変化の基本的構成に関する解法の発見、すべての影像について、そのそれぞれを構成するための解法の発見、インベーダー、UFO、ミサイルその他受像機面上において変化運動する影像について、その進行方向、速度等についてそれぞれの解法の発見、これら相互間の処理の順序に関する解法の発見(仕事の設計)、右により発見された解法に従つた簡略なフローチャートの作成、フローチャートに基づき記号語によるプログラムの作成(プログラミング)という一連の過程を経て完成したものであること、

など,アイデア,技術的思想,制作過程などを掲げた上で「創作的表現」という結論を導いており,苦心の跡がうかがえます。

*1:裁判官は,現ユアサハラの牧野利秋先生と,元知財高裁所長・現創英特許事務所の設樂隆一先生という組み合わせですね。

*2:私の世代が喫茶店にゲーム機が置いてあるのを覚えているギリギリの世代だろう。小学校就学前のころは自分のお小遣いでやることもできなかった。その後,小学3年ころにゲームウォッチが売られ,小学6年ころにファミコンが発売された。