IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ダウンロード先URLの教示と公衆送信権侵害 東京地判平30.1.30平29ワ31837

ヤフオクにて,落札者にダウンロード先URLを教示する行為が著作権公衆送信権)侵害となるか否かが争われた事例。

事案の概要

Xは,CADソフトウェア(本件ソフトウェア)の著作権者である(ちなみに,知財高判平27.6.18の原告と同一)。定価は20万円である。本件ソフトウェアの起動・実行には,シリアルナンバーを入力しなければならない仕様(アクティベーション機能)となっていた。


Yは,オークションサイトにて,本件ソフトウェアをダウンロード販売すると表示し,落札者に対して本件ソフトウェアと,アクティベーション機能を回避するモジュールが置かれたオンラインストレージサイトのURLを教示するとともに,実行方法等を示す書面を提供した。


Xは,Yによる販売行為が,著作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権の侵害に当たるとして,損害賠償請求した。なお,本件に関連し,Yは商標法違反で起訴され有罪判決を受けている。

ここで取り上げる争点

Yによる著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無


アクティベーション回避行為について,不正競争防止法2項1項旧11号(技術的制限手段)の点も争われているが,ここでは省略する)


Yは,

Yは,ソフトウェアのダウンロード販売をしたものではなく,ソフトウェアがもともと違法にアップロードされている場所(ダウンロードアドレス)を教えて,そのインストール方法をマニュアル化して販売したにすぎない。

と,主張しており,いわばリンクを示しただけであるから,著作権侵害行為はしていないと反論していた。

裁判所の判断

裁判所は,著作権及び著作者人格権侵害の侵害を認めた(しかも,譲渡権侵害の主張を公衆送信権侵害であると善解している*1。)。


(改行位置等は適宜修正した)

[1]Yは,ヤフオクにおいて,あくまで「DRA-CAD11」建築設計・製図CAD自体をオークションの対象物と表示して出品しており,「商品説明」欄には「DRA-CAD11」,「注意事項」欄には「ダウンロード品同等」「インストール完了までフルサポートさせて頂きます」,「発送詳細」欄には「ダウロード販売」と記載されていたこと,
[2]かかる表示を見てオークションに入札した顧客も,当然,本件ソフトウェアを安価に入手する意図で入札を行ったと推認できること,
[3]Yは,顧客に対し,本件ソフトウェア及びそのアクティべーション機能を担うプログラムのクラック版(いずれもXの無許諾)のダウンロード先をあえて教示し,かつこれらの起動・実行方法を教示するマニュアル書面を提供し,その結果,顧客が,本件ソフトウェア(無許諾品)を入手した上,本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを回避してこれを実行することができるという結果をもたらしており,Yの上記行為は,かかる結果を発生させるのに不可欠なものであったこと,
[4]Yは,営利目的でかかる行為を行い,後記3認定のとおり多額の利益を得ていること,
以上の事実が認められる。

これらの事情を総合すれば,上記(1)の一連の経過により,Yは,本件ソフトウェアの一部にXの許諾なく改変(アクティベーション機能の回避)を加え(本件ソフトウェアの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,変更等を加えて新たな創作的表現を付加し),同改変後のものをダウンロード販売したものと評価できるから,Yは,Xの著作権(翻案権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものと評価すべきであり,これに反するYの主張は採用できない。なお,Xは,譲渡権侵害を主張しているが,有体物の譲渡ではなくソフトウェアのダウンロードが行われたものとして,公衆送信権が侵害されたものと解すべきである。


なお,Xは,ダウンロードサイトにアップロードしたのもYであると主張していたが,裁判所は,それを認めるに足りる証拠はないとして,その点は退けている。

若干のコメント

権利者の承諾なく著作物をアップロードする行為が著作権侵害に該当することは論を俟たないのですが,本件のように,アップロードしておらず,そのURLを教示しただけの行為が著作権侵害となるかどうかについては,従来,否定的に考えられていたように思います。


そのため,いわゆるリーチサイトに対しては,著作権侵害行為主体ではないということで,野放しになりかねないことから,近時,新たな規制が必要ではないかという議論がなされてきました。


本判決は,(物理的にみた)直接侵害の主体ではないはずのYに対して,著作権侵害を認めています。当事者の主張や,判決文からは,著作権侵害の幇助者としての責任を問うていることも読み取れないため,裁判所は,規範的にみてYが侵害の主体であると判断したと思われますが,その理由付け,構成については,簡単な判示部分からは読み取れません。


なお,本判例については,福岡大学の谷川和幸先生による論文「権利者の許諾を得ずにアップロードされているソフトウェアのダウンロード先 URL を教示する行為が公衆送信権の侵害に当たるとされた事例」 に詳しく紹介されており,本エントリでも参考にさせて頂きました。

*1:この点は,後掲・谷川論考においても処分権主義に反しないのであろうかと問題提起されている。