ゲームの企画及びシナリオの作成に関する委託契約の性質が問題となった事例。
ここで取り上げる争点
XY間の契約の法的性質。
Yは,XY間の契約は請負契約であって,審査・改訂の機会が与えられなかったから支払えないと主張していた。
裁判所の判断
裁判所は,準委任契約であるとした。
前記認定事実の経過に照らせば,XとYとの間では,本件プロジェクトの内容,方向性について上記の程度には合意されているものの,それ以上具体的な合意がされてはいないこと,Xにおいて,本件プロジェクトにおけるシナリオ作成についての具体的な内容に関する提案やYの意向の確認等はされており,Yからは抽象的な方向性等を示すことや要望を述べることはされているものの,具体的な内容に関する指示等はされていないことからすれば,シナリオの企画立案やその内容を固めていくことについて,Xに大幅に委ねられていたものであると認められる。したがって,Xは,本件契約上,上記で合意された本件プロジェクトの内容,方向性の範囲でシナリオを作成し,納品することが求められ,かつ,それで足りるものとされていたといえる。そうすると,本件契約の性質は,YがXに対し上記のようなシナリオ作成の事務を委託した準委任契約であると認められる(民法656条)。
そして,XがシナリオをYに提出していたこと自体には争いがなかったことから,報酬請求権を認めた。また,請負契約だとすると,Yの意に沿わない限り報酬が発生しないことになり,不合理だとした。
若干のコメント
数年前,たまたま本件と極めて類似する事件を原告側で受任したことがあり,本裁判例を読んで,「自分が担当した事件か?」と錯覚しそうになって目にとまったので取り上げました。
システム開発,ソフトウェア開発に限らず,役務提供契約全般において,発注者が結果に満足していないことから支払いを拒絶する例では,契約の性質論が争点になることが少なくありません(発注者側が請負契約であると主張し,受注者側が準委任契約であると主張するパターン。)。
結論を出すにあたっては,必ずしも,典型契約である請負・準委任のいずれかに分けなくてもよいはずなのですが,原告が請求原因で準委任契約に基づく請求をし,被告がそれを否認(否認する理由として請負契約の成立を主張)すれば,性質について判断せざるを得ないので,この種の判断は多く蓄積されています。
本件で,準委任であると判断した要素としては,契約締結時点における内容の具体性が乏しいことや,Xに裁量が大きいことなどが挙がっていることが参考になります。
もっとも,仮にこの契約が請負契約だったとしても,シナリオを提供した事実には争いがなく,仕事の完成・引渡しが認められていたのではないかと思われ,結論には影響しなかったかもしれません。