IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ブロッキング差止め 東京地判平31.3.14(平30ワ13295)

NTTグループが実施すると宣言したサイトブロッキングの実施について差止めを求めた事件。

事案の概要

大変有名な話なので,簡単に紹介する。


平成30年4月に,知的財産戦略本部が,インターネット上の悪質な海賊版サイトに関し,法整備が行われるまでの臨時的・緊急的な対応として,悪質なサイトへのブロッキングには緊急避難が成立することなどを発表し,ISP事業者に対して,自主的にサイトブロッキングを実施することが適当であるなどと発表した。


これを受けて,NTTグループは,悪質なサイトとして名指しされた3つのサイトに対して,ブロッキングを「準備が整い次第実施する」と発表した。


原告Xは,本件訴訟を提起し,NTTグループに属するYとの間の通信サービス契約に基づき,または,本件ブロッキングが通信の秘密を害するものである等と主張して,ブロッキングの差止めを求めた。

ここで取り上げる争点

Yが,本件訴訟の係属中にブロッキングをしない,と宣言したことにより,差止めの必要性がなくなったか。

裁判所の判断

同年7月には,名指しされたサイトのうち,アクセスできない状態に陥っており,Yは,同年8月に提出された準備書面で「本件ブロッキングを行う予定はない」旨を記載し,これを陳述した。


他方で,Yの親会社代表者は,記者会見では,現時点ではブロッキングはしないが,復活すれば,政府の考え方に沿って対処する,と述べていた。


以上を踏まえて,裁判所は,

(1)本件3サイトは,現時点において「漫画村」及び「Anitube」についてはアクセスできない状況にあり,「Miomio」についてはアクセス数が緊急対策決定前に比べて激減している状態にあること,
(2)Yは,本件訴訟において,上記(1)のような状況の下では,本件ブロッキングを行う予定はないと主張していること,
(3)Yの親会社の代表取締役も(略)本件ブロッキングを行わない旨を述べていること,
(4)Yは,現時点において,本件3サイトが上記(1)の状態であることから,本件ブロッキングを実施していないこと
が認められる。他方,
(5)現時点において,今後「漫画村」及び「Anitube」に対してアクセスできる状況になり,かつ,本件3サイトに対するアクセス数が増加することが見込まれることを認めるに足りる証拠はない。

と述べ(一部編集),現時点では,Yがブロッキングする蓋然性が高いとはいえず,ブロッキングの差止の必要性はないとして,その余の争点について判断することなく,請求を棄却した。

若干のコメント

Yグループは,将来,仮に海賊版サイトが復活した場合には,ブロッキングを実施すると宣言していたことから,ブロッキングによって通信の秘密が侵される危険がなくなったとは言えません。裁判所には,ブロッキングが通信の秘密を侵すことになるのか,あるいはISPの契約違反に当たるのか,何らかの判断を示してもらいたかったところです(現実には難しいだろうとは思いましたが。)。


本文中では取り上げていませんが,訴訟費用の負担についても争われていました。通常は,敗訴当事者が訴訟費用を負担するものですが,Xは,「権利の伸長若しくは防御に必要であった行為」(民訴62条)であって,訴訟費用はYが負担すべきであると主張していました。


裁判所は,

必ずしも,Xが主張するように,本件訴訟の提起がなければ,Yが本件ブロッキングを実施する予定を再考するような機会もなく,予定通り実施してた可能性が高いとはいえず

と述べて退けました。裁判所は,事実認定としては,このように述べざるを得ないだろうなと思いつつも,現実には,Xが差止め訴訟を提起したこともブロッキングしない宣言に繋がったであろうことを考えると,本件訴訟には十分な意義があったものと考えられます。