IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

口コミサイトランキング操作と品質等誤認惹起行為 大阪地判平31.4.11(平29ワ7764)

口コミサイトで,ランキング1位と表示された事業者が,不正競争に該当するかが争われた事例。

事案の概要

X,Yはともに外壁塗装リフォーム業者であり,Yが運営する口コミサイト(本件サイト)では,Y自身が外壁塗装業者のランキングで1位と表示されていた。


Xは,Yの行為が,品質等誤認惹起行為(2019年4月時点で施行されている不正競争防止法2条1項14号)に該当するとして,損害金264万円を求めた。

ここで取り上げる争点

(1) 不正競争該当性

ステマと呼ばれる行為は,一般には景品表示法(優良誤認表示)との関係で問題になることがある。ただし,同法は,広告に関する公的規制であり,私人が,同法に違反することを理由に直ちに違反者に対して差止等を求められるものではない。


他方,不正競争防止法における不正競争の中には,品質等誤認惹起行為が定められている(2条1項14号*1)。

(略)役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信に(略)その役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又は(略)その表示をして役務を提供する行為


簡単のため役務に関する記述のみを抜き書きしたが,本号が適用される事例としては,「商品」に関するものが多く,産地が正しくない表示であるとか,客観的事実に基づかない作用効果をうたう広告などに関する事例で不正競争を認めています。

(2) 損害の額

この類型の不正競争の場合,競合同士が当事者となることが多いが,被告が不正競争に該当するとしても,被告が得た利益がただちに原告の損害といえるかどうかが問題となる。

裁判所の判断

争点(1)品質誤認等表示該当性

まず,本件サイトのランキング表示において,ランキング1位の業者は,常にYであると表示されていたことを認定した。


また,裁判所は,タイトルが「みんなのおすすめ,塗装屋さん」となっていて,このサイトに訪れるユーザは,「外壁塗装業者やリフォーム業者に工事を依頼しようと考えており,そのための業者をインターネットにより探そうとしている一般需要者である」としたうえで,ランキングが表示されていることや,投稿された口コミを基にしてランキングが作成されていることからすれば,

そのランキングにおいて1位にランク付けられている業者の提供するサービスの質,内容は,掲載業者の中で最も「おすすめ」,つまり最も「優良」であると評価されていると基本的には認識すると考えられる。

と認定した。その上で裁判所は,

上記のような本件サイトを閲覧する者の認識からすると,本件ランキング表示は,掲載業者の中での,投稿された口コミの件数及び内容に基づく評価との間にかい離がないのであれば,品質誤認表示に該当するとはいえない。
(略)
もっとも,そもそもYへの口コミが虚偽のものである場合,例えば,Yが自ら投稿したものであったり,形式的には施主又は元施主(以下「施主等」という。)からの投稿であったとしても,その意思を反映したものではなかったりなどする場合は,本件サイトの表示上の被告への口コミの件数及び内容をそのままのものとして受け取ることが許されなくなり,その結果,本件ランキング表示とのかい離があるということとなる。

と,ステマの場合にはかい離がある場合があると述べて,内容に踏み込んでいく。そのうえで,

本件サイト公開前の日付となっている5件の投稿は,Yの関与の下にZ(注:開発業者)において投稿作業をした架空の投稿であると認められる。

Yは,平成24年6月当時,コメントを書いた施主等にプレゼントを進呈していたと認められ,また,(略)Yは,平成29年9月頃,本件サイトに関する新聞社の取材に対し,「顧客の感想を社員が聞き取って(自社の口コミとして)投稿したことはあったが虚偽は書いていない」と回答したと認められ,このようにYが施主等から聞き取った内容を自ら口コミとして投稿したことがある

Yは施主等からの投稿日を変更しようとする作為的な態度を示していたことからすると,Yは,架空の投稿を相当数行うことによって,ランキング1位の表示を作出していたと推認する

などと述べて,Yがランキング1位であるという表示は,実際の口コミ件数や内容に基づくものとの間に乖離があり,Yの提供する「役務の質,内容について誤認させるような表示」にあることを認めた。

争点(2)損害の額

まず,Xの主張していた「無形損害」*2については,裁判所は,Yによる不正競争行為があったとしても,Xの営業上の信用が毀損されたとは認めなかった。


続いて,「有形損害」は,Xが弁護士に依頼して,本件サイトが蔵置されたサーバ管理会社に対して発信者情報開示請求訴訟(本件第1訴訟)を提起したこと,サーバ管理者Pに対して訴訟(本件第2訴訟)を提起したが,その過程で,本件サイトの運営者はPではなく,Yであることが明らかになり,Yを被告として本件訴訟を提起したという経過を明らかにしたうえで,本件第1訴訟に要した費用(着手金約20万円)ついては,品質誤認表示と一部について相当因果関係があるとして7万円の限度で認めた。


他方で,本件第2訴訟については,Pとの間で任意交渉を経ずに訴訟を提起した必要があったとは認めがたいと述べて,本件第2訴訟の提起に要した費用(着手金約20万円)は,相当因果関係にはないとした。


それに加えて,本件訴訟の弁護士費用の損害額は1万円とした。よって,損害賠償額として認容されたのは合計8万円であった。

若干のコメント

本件は多岐にわたる論点がありますが,本判決の意義は自己に都合の良い口コミを集めてランキング1位と表示させたことが,品質誤認等表示の不正競争に該当すると認められた点にあるでしょう。


また,原告は,そのサイトの運営者を突き止めるために様々な手続を駆使して被告に迫ったわけですが,その手続に要した費用の一部しか賠償金として認めませんでした。もともと,この不正競争類型は,ある会社の品質を誤認させる表示がなされたからといって,直接的に(競合会社に)何かの損害が生じるわけではないため,高額の賠償金が認容されにくいのですが,これでは苦労が報われず,不正競争行為の抑止に繋がらないのではないかという懸念があります。

*1:平成30年改正不正競争防止法の施行後(2020年4月1日以降)は,号数がずれて20号になる。

*2:損害のうち数理的に算定できないが金銭的評価が可能であるものをいい(最高裁昭和39年1月28日第一小法廷判決・民集18巻1号136頁参照),法人の場合は,その名誉・信用の毀損による損害がその典型的なもの