IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

共同事業における収益金分配にかかわる争い 東京地判平31.2.15(平29ワ10909)

ポータルサイトを共同で運営していた事業者間で分配金の支払いに争いが生じて契約が解除され,逸失利益等が請求された事例。

事案の概要

Xはプログラムの開発と運用を,Yは企画や顧客対応を担って,共同でポータルサイトを運営していた(本件事業)。本件事業の収益は広告収入であり,収入から経費を差し引いて両者で分配するというレベニューシェアモデルで運営してきた。


平成18年に本件事業が開始し,平成21年にXY間で従前の合意内容を明確化する趣旨で契約書(本件契約)が作成された。ところが平成27年5月ころからXYの関係が悪化し,Yは収益分配金の明細を明らかにしなくなった(分配金の送金自体は行っていた。)。


XはYに対し,平成28年5月から9月分の未払収益金の支払を催告するとともに停止期限付き契約解除通知がなされたが,Yは期限までに支払わなかった。そのため,Xは本件事業で用いるプログラムを消去したが,Yはバックアップから復旧して23日間にわたって再稼働させた。


XはYに対し,未払収益金約1180万円,逸失利益4000万円,プログラムの著作権侵害に基づく損害賠償約100万円等の支払いを求めたのに対し(本訴),YはXがプログラムを消去したことが不法行為にあたるとして損害賠償請求した(反訴)。

ここで取り上げる争点

(1)未払収益金の有無と額
(2)逸失利益の額
(3)プログラム著作権侵害による損害の額

裁判所の判断

争点(1)未払収益金の有無と額について

裁判所は,本件契約で「収益から経費を引いた利益を二分配する」(第8項),「事務経費,契約上の問題が生じた場合,協議の上決定する」(第9項)旨の定めが置かれていることなどから,いかなる費用を収益から控除するのかといったことをXY間で協議のうえ合意されてきたのであって,疑義があるものについては協議により相手方の同意を得なければならないと認めた。


そのうえで,「役員報酬」「業務委託費」「車両減価償却費」「企業保険」「地代家賃」等の費目については,本件事業の経費としての性質を有さないとして,収益から控除することを否定した。


その結果,未払収益金に関する請求は,Xの請求額に近い額(約1150万円)を認めた。

争点(2)逸失利益の額

上記のとおり,Yは収益金を支払わなかったことから,Xによる契約解除は有効だとされた。そして,Xは,解除に伴う損害賠償として5年分の逸失利益を主張していたが,裁判所は,以下のように述べて2年分が相当であるとした。

債務不履行解除に伴う逸失利益について,Xは,平成28年4月分から平成29年3月分までの収益分配金を基礎として5年間は同程度の収益を上げることができたと主張する。

この点について,逸失利益の算定の基礎については,Xの主張するとおり,本件解除の直前である平成28年4月から平成29年3月までの収益分配金に基づいて算定することが相当である。他方,逸失利益を認める期間については,本件事業の売上げが平成27年頃に比べると減少していること,本件事業のようなポータルサイトは同様のサービスを提供する事業者が出現するなどして比較的短期間で事業環境が変化する可能性があることなども考慮し,2年間と認めることが相当である。

その結果,約3000万円の逸失利益を認めた。

争点(3)プログラムの著作権侵害による損害の額

Yは,Xが契約解除後にプログラムを使用できなくしたことから,バックアップから戻して23日間にわたって使用した。この点について,プログラムの著作権(複製権)侵害が認められたが,損害の額は次のように計算された。

前記判示のとおり,Yは,本件プログラムを違法に複製し,それを平成29年4月1日から同月23日まで使用したということができる。Xは,プログラム著作権の複製権侵害に対する使用料相当損害金として,Xへの収益分配額を基礎とすべきであると主張するが,年間の使用料相当損害金としては,本件事業から生じる年間の収益金4024万1514円を基礎にして,その1%であると認めることが相当である。

そうすると,Yのプログラム著作権侵害に対する使用料相当損害金は,上記年間使用料相当額のうち23日分に相当する2万5357円(小数点一位は切下げ)となる。
 (計算式)4024万1514円(別紙2の①の合計額)×1%×23日/365日=2万5357円

その結果,XのYに対する請求は約4190万円認容され,反訴請求はすべて退けられた。

若干のコメント

本件は,共同での事業運営を行ってきた当事者間の争いであり,その収益金分配の方法で揉めるというありがちなケースではありますが,どのような経費が売上から控除されるべきかといった議論は,個別性が強いので,本件の判断に基づいて何か一般論を導けるというものではないでしょう。


しかし,注目は,一方当事者が収益金を支払わなかったことを理由に契約を解除した場合において,逸失利益相当の損害賠償金として,2年分の収益分配金相当額を認めたことです。逸失利益は,その発生の蓋然性が高くない限りなかなか認められにくいのですが, Xの主張が5年分だったとはいえ,2年分も認めたのはやや意外でした。


また,プログラムの複製権侵害に関しては,年間収益の1%をライセンス相当額を損害の額として,その23日分(結果として約2.5万円)について認めました。この部分も,特に定式があるわけではない中で,裁判所が認めたわけですが,本件事業が,ポータルサイトの運営事業であって,そのプログラムは事業運営に不可欠なものであったことからすると,収益の1%というのは逆に少なすぎる印象を受けます。