IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

インスタグラム・ストーリー投稿のスクショ・転載 東京地判令2.9.24(令元ワ31972)

インスタグラム・ストーリーに投稿された動画のスクショが転載されたことについて肖像権侵害の成否が問題となった事例。

事案の概要

撮影者XAが被撮影者XBの動画(本件動画)を撮影し,XAが本件動画をインスタグラムのストーリーにアップした。

何者かが本件動画の一部のスクリーンショット(本件画像)を保存し,サイトAに本件画像を添付して投稿(本件投稿)をした。

XBが,本件投稿にかかるIPアドレスの開示を受けた。そこで,XらはXAの著作権及びXBの肖像権及び名誉権が侵害されたとして,Yに対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基づいて発信者情報の開示を求めた。

ここで取り上げる争点

本件投稿により本件動画の著作権が侵害されたことにはほぼ争いがないので,肖像権侵害(本件投稿によって原告Bの肖像権が侵害されたことが明らかといえるか。)を取り上げる。特にもともとインターネット上に投稿されていた動画であることから,肖像権侵害が成立し得るのかが問題になった。

裁判所の判断

裁判所は次のように述べて,肖像権の侵害を認めた。

人の肖像は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有する。そして,当該個人の社会的地位・活動内容,利用に係る肖像が撮影等されるに至った経緯,肖像の利用の目的,態様,必要性等を総合考慮して,当該個人の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合には,当該個人の肖像の利用は肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法となると解される。

これを本件についてみると,本件画像は,XBを被撮影者とするものである。本件画像が含まれる本件動画の撮影及びそれをインターネット上の投稿サイトに投稿したのはXAであり,XBは夫であるXAにこれらの行為を許諾していたと推認され,本件画像の撮影等に不相当な点はなく,氏名不詳者は上記投稿サイトから本件動画を入手したものではある。しかしながら,本件動画は24時間に限定して保存する態様により投稿されたもので,その後も継続して公開されることは想定されていなかったと認められる上,XBが,氏名不詳者に対し,自身の肖像の利用を許諾したことはない。XBは私人であり,本件画像はXBの夫であるXAがXらの私生活の一部を撮影した本件動画の一部である。そして,本件画像は,XAの著作権を侵害して複製され公衆送信されたものであって,本件投稿の態様は相当なものとはいえず,また,別紙投稿記事目録記載の投稿内容のとおりの内容に照らし,本件画像の利用について正当な目的や必要性も認め難い。これらの事情を総合考慮すると,本件画像の利用行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えるものであり,XBの権利を侵害するものであると認められる。

したがって,本件投稿によってXBの肖像権が侵害されたことが明らかであると認められる。

若干のコメント

本件は「肖像権」侵害を理由に発信者情報開示請求を行った事案です。判決文からは具体的な画像がわかりませんので,「受忍限度」を超えたものかどうかを判断することはできないのですが,本件では,もともと自分(の夫)がインスタグラムにアップした動画であるから他人が投稿したとしても受忍限度を超えるといえるかどうかが争点となっています。

この点について,裁判所は「ストーリー」という24時間限定での投稿であったことを要素として挙げ,他の事情を総合考慮して肖像権の侵害を認めました。

数日前に,日本でもツイッターで「フリート」機能が導入されました。これもインスタグラムやフェイスブックと同様に投稿から24時間後には消えるというものです。もともとツイッターでは,公式RT,引用RTのほかスクリーンショットをとって論評(多くは批判)を加えるということが行われていましたが,フリートの投稿をスクショして晒す行為は元の機能の性質からして受忍限度を超えるものであるという判断になりやすいといえるので注意が必要です(ツイッター利用規約では,ユーザーの投稿について,一定のライセンスを許諾することになっていますが,時間限定投稿についてスクショして拡散することまでもは含まれないだろうと思われます。)。