IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ウェブサイト構成要素の著作権侵害と権利譲渡の合意 知財高判令2.10.28(令元ネ10071)

ウェブサイトの制作者が,プログラム,データ,画像等の著作権に基づいて,差止請求等を行った事案。

事案の概要

本件は,下記事案の控訴審である。ウェブサイトの製作を委託されてXウェブサイトを開発したXが,Yに対し,著作権侵害に該当するなどとして,差止及び損害賠償を請求した。
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原審は,Xウェブサイトに係る著作物の著作権はすべてYに帰属し,仮に一部がXに帰属するとしても,権利濫用にあたる等として,Xの請求をすべて棄却した。


Xは控訴審において,プログラム等のデータ(プログラムデータ),ユーザーデータ,画像データに係る差止請求を追加した(一部の請求の追加については,「著しく訴訟手続を遅滞させることになるので,これを許さない」として認められなかった。)。

ここで取り上げる争点

原審同様,著作権移転の合意の存否も含め,以下の争点を取り上げる。

■著作物性に関し,

  • プログラムの著作物性
  • データベースの著作物性
  • ウェブサイトの表示の著作物性
  • 画像・写真の著作物性

著作権の帰属(Yへの移転の有無)

■差止めの必要性

■Xの権利濫用の有無

裁判所の判断

X制作のプログラムの著作物性

Xは,プログラムの創作性を主張したが,退けられている。その部分を引用する(改行個所等や証拠番号の表記は修正・削除している。)。

Xは,
①本件プログラム中の「style.css」及び「functions.php」の著作者氏名の記述,
②ファイルに付されたパスワードの記述,顧客のID,パスワード,メールアドレス,
③変数の命名方法,
④「style.css」の1行目に「utf-8」を記述し,Unicode による言語設定を行い,レスポンシブデザインとして,750ピクセル,970ピクセル及び1170ピクセルの3つの横幅設定をしたこと,
⑤「functions.php」の中で説明文をコメントで付したこと,
⑥「common.css」で全体のフォントとして「adobe Fonts」を指定したこと,
⑦「member-top.css」で会員専用ページを設定したこと,
⑧クラスの定義付け,
⑨モジュールの区分け,
⑩基礎CSSとして「Bootstrap」を採用したことは,
X独自の創作的表現であるから,本件プログラムは,プログラムの著作物に該当する旨主張する。

しかしながら,①,②及び⑤については,Xの氏名である「★ X ★」との記述は電子計算機に対する指令ではなく,また,ファイルに対するパスワードや顧客のID,メールアドレス,コメント等は指令の組合せではないから,プログラムの著作物としての創作性を認める余地はない。
③については,変数名は電子計算機に対する指令の組合せではなく,変数の命名方法は,電子計算機に対する指令についての創意工夫ではない。
④については,「utf-8」を記述したのはあらかじめプログラム言語に準備されている命令を記述したにすぎず,指令の組合せについての創意工夫ではなく,また,特定のピクセル値で3つの横幅設定をしたこと自体は,表現ではなく,プログラミングに関するアイデアにすぎない。
⑥ないし⑩については,フォントの指定,ページの設定,クラスの定義付け及びモジュールの区分け等自体や,どのようなプログラムを採用するかは,表現ではなく,プログラミングに関するアイデアにすぎず,また,「Bootstrap」はXが作成したプログラムではない,

X制作のウェブサイトのデータベースの著作物性

同様にデータベースの著作物性についても主張していたが退けられた。

Xは,
①「risekabu_db」の「rise_t_contact_history」テーブルに,既存の顧客の個人情報とは別にインターネット経由で新規の問合せや予約などをしてきたいわゆる見込み客に相当するユーザーの個人情報を蔵置していること,
②「risekabu_renew」の「wpstg1_better_user_search_meta_keys」テーブルにおける「birthday」,「class」,「first_name」,「last_name」及び「School_offices」をインデックス化することでこれら5つでも検索ができるようにしたこと,
③「risekabu_wp1」の「wp_users」テーブルにロックをかけ,テーブルに記録されている著作者であるXの氏名を第三者によって書き換えられないようにしたこと,
④「risekabu_xoops2」に,文字化けに対処するための「test」テーブルを加えるなどして文字化けの変換を行えるようにしたこと,
⑤第三正規化まで実施したことは,
Xの創意工夫によるものであるから,本件データベースは,データべースの著作物に該当する旨主張する。

しかしながら,①については,単に既存顧客と見込み客の情報を保存するテーブルを別にしたというだけではテーブル間構造としてはありふれたものにすぎず,体系的な構成に創作性を認めることはできない。
②については,Xの主張する5つの属性を非クラスタ化インデックスとしていることについての具体的な主張立証がされていない。
③及び④については,テーブルに記録されている情報を書き換えられないようにすることや文字化けに対処するような措置をとることは,情報の選択又は体系的構成における創意工夫とはいえない。
⑤については,正規化はプログラムにより機械的にも行い得るところ,Xは自らがどのような正規化を行ったかを具体的に明らかにしておらず,情報の選択又は体系的構成についてXがした創意工夫がどのようなものか不明である。
したがって,Xの上記主張は,採用することはできない。
他に本件データベースにおける情報の選択又は体系的構成にXの思想又は感情が創作的に表現され,Xの個性が表れていることを認めるに足りる証拠はない。

X制作のウェブサイトの表示等に関する著作物性について

Xはウェブサイト上の表示についても著作物性を主張していた。

Xは,Xウェブサイトのウェブページにおいて,
①ウェブページのタイトル,
②URL,
③メタ・ディスクリプション及びメタ・キーワード,
④「無料株式セミナー」のページの表示等は,
Xの思想又は感情を創作的に表現したものであるから,著作物に該当する旨主張する。

しかしながら,①については,ウェブページのタイトルは,当該ページに付せられた表題であり,ページの内容をごく短い短文で簡潔に記述するものであるから,表現の選択の幅はほとんどなく,Xが指摘するタイトルは,ありふれた表現である。
②については,URLは,当該ページのアドレスを表示するものであり,ページの性質に応じた語で簡潔に記述するものであるから,表現の選択の幅はほとんどなく,Xが指摘するURLは,ありふれた表現である。また,URLにパーマリンク設定をしたとしても,設定それ自体は表現行為ではなく,表示された結果は年月日等が表示されるだけのありふれた表現にすぎない。
③については,メタ・ディスクリプション及びメタ・キーワードは,ページ内の文章を適宜抜粋した短文であり,どの部分を抜粋するかはアイデアであり,表示された結果もページでされた表現に新たな思想又は感情を加えるものではない。また,Xは,メタ・ディスクリプション及びメタ・キーワードのどのような表現が創作性を有するのかについて具体的な主張立証をしていない。
④については,「無料株式セミナー」のページのどのような表現が創作性を有するのかについて,Xは具体的な主張立証をしていない。

画像(写真)の著作物性について

Xは,控訴審において,研修会の会場写真などが無断で使用されているとして,18枚の画像の著作物に関する主張を追加した。このうち,裁判所は,11枚の画像について著作物性を認めたので,その一部を紹介する。

(著作物性を認めた例)

(ア) 本件画像16は,研修会の会場で掲示されていた資料(グラフ)を撮影した写真の画像であるが,掲示されている資料に対し,左側のごく近接した位置から右側に向け,画面中央にのみ焦点を合わせるようして,資料に立体感と奥行きが与えられるよう撮影している点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当するものと認められる。
(イ) これに対しYらは,本件画像16は,手書きのチャート図をほぼ画面いっぱいに撮影したものであり,いわば被写体を忠実に写し撮ったものに過ぎず,カメラワークに特段の工夫も見て取れず,また,特筆すべき決定的瞬間を写したものでもないから,撮影者の個性が表れているとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件画像16は,撮影方向や焦点を調整して資料に立体感と奥行きが生じるよう撮影したものであり,単に図面を平面的に撮影したものではなく,撮影者の個性が表れているといえるから,Yらの上記主張は,採用することができない。

(著作物性を認めなかった例)

本件画像14は,Xが購入した女性の写真に,緑色線の吹き出しを加え,その中に,紺色の「\」「株式投資で失敗したくない方へ」「/」,「あなたの」の文字,緑色の太くやや大きい「疑問や不安」の文字,紺色の「を,これまでの」の文字,緑色の太くやや大きい「受講生の皆さまの声」の文字,紺色の「の中から,ご紹介します!」との文字をはめた画像である。
しかるところ,購入した写真はXの著作物ではない。また,上記文言は,受講生の体験等を紹介する文章の構成としてありふれたものであり,上記文字の字体や色彩にも特徴はないから,この文字部分に創作性はなく,受講生の体験等を紹介する文章の構成として受講生が発言する構成にとることもありふれている。
そうすると,本件画像14が元の写真に新たな創作性が付加されたものとはいえず,本件画像14に作成者の個性が表れていると認めることはできないから,本件画像14は著作物に該当すると認めることはできない。

本件各画像の著作権の移転または許諾の有無

原審は,明示の合意なく,著作権は制作者Xから注文者に移転すると判断していたが,控訴審では異なる判断となった。

Yは,(略)Xウェブサイトに係る著作物の一部として本件画像著作物の著作権は,XからYへ黙示に譲渡された旨主張する。
しかしながら,前記認定事実によれば,XとYは,平成28年1月6日付け本件保守契約書(甲146)をもって締結した本件保守業務委託契約に基づいて,(略)旧ウェブサイトを全面的にリニューアルしたウェブサイトの制作を代金324万円で発注する旨の本件制作業務委託契約を締結し,Xは,本件制作業務委託契約に基づき,Xウェブサイトを制作したものであるところ,本件保守契約書には,「本件成果物の著作権著作権法27条及び28条に規定する権利を含む)その他の権利は,制作者に帰属するものとする。」(14条3項)との規定があること,本件注文書の「備考」欄には,「全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利は,制作者のBに帰属するものとする。」との記載があることに照らすと,XとYは,Xが制作したXウェブサイトに係る著作物の著作権はXに帰属することを確認しており,Xにおいて上記著作権をYに譲渡する意思が有していたものとは到底認めることはできない。

以上より,ウェブサイトの構成要素のうち,著作物であると認められた画像について複製権及び公衆送信権の侵害,氏名表示権の侵害にあたると認めた。

差止めの必要性

本件では,Yが破産手続開始の申立てをしていること,ウェブサイトの管理権限がなく,管理者は第三者Aであることなどから,複製等の差止めや削除を求める必要性がないと主張していた。


裁判所は,Yウェブサイトは,Aが管理するサーバに記録されており,YからAに対してウェブサイトの閉鎖を求めたが拒否された事実などから,ウェブサイト閉鎖の要請を行った平成30年11月以降の公衆送信の主体はAであって,差止の必要性はないとした。

Xの権利濫用の有無

原審は,仮にXに権利が帰属しているとしても,その行使は権利濫用に当たるとしていた。控訴審では,

(Yがウェブサイト制作料の一部を支払っていなかったが,残代金を支払った後もウェブサイト再制作費用を要求してウェブサイトの復旧を拒んだことなどから)上記認定事実に鑑みると,Xの一連の行為は,本件保守業務委託契約に反するものであり,社会的相当性を逸脱する行為であるとの評価もあり得ないではない。

としつつも,ウェブサイトの稼働には,本件各画像は必須ではないことなどから,権利濫用とはいえないとされた。


以上より,画像に関し,1枚当たり1万円の損害賠償(合計15万円)のみを認める限度で原審の結論が変更されたが,差止請求,その他の請求は退けられた。

若干のコメント

原審では,注文書にわずかに記載された権利帰属に関する文言(制作者への留保)に反し,権利は注文者に帰属すると判断していましたが,控訴審では,その記載やその他の状況から,権利は制作者(X)に帰属すると判断しました。原審の判断は,「お金を出した者に移転する」という実務の感覚に近いものの,法律上の原則とは異なっており,少なからず混乱を与えかねないなと思っていましたので,知財高裁の判断のほうがしっくりきます。

本件の原告Xは,いわゆる本人訴訟だったようですが,プログラム,データベース,画像その他さまざまな構成要素についての著作物性を主張していました。結果的に著作物性を認めたのは画像(写真)の一部にとどまったのですが,プログラムなどと比べて,写真の場合には創作性が認められるハードルが低いのがいつも気になるところです。

つまり,プログラムについて,確かに変数名の付け方云々で創作性を認めがたいのはわかるものの,数百,数千行のコードを書くには,ありものの組み合わせだったとしても,どこかにプログラマの創意工夫があったはずです。しかしながら,本件のように,文法に沿った命令語を記載しただけ,といったような判断により,創作性の立証がうまくできないと,著作物性が否定されます。他方で,写真の場合には,デジタルカメラスマホで普通に撮影しただけであっても,著作物性を認められることは多いです。創作性のハードルというより,主張立証のハードルが違うように思います。

プログラムの創作性の主張・立証方法はいまだ確立したものがあるとはいえず,単に行数が長ければ創作性が認められるというものでもありません。非効率的なダサいコードであっても,それがありふれていなければ創作性が認められる余地があります。プログラムの創作性の立証にあたっては,特定の行ではなく,ある程度のまとまりについて,どのような考えのもとに必要な仕様から構造を考えて,コードに落とし込んでいったのか,プログラマの思考過程を丁寧に説明していくことが重要なのだろうと思われます。