IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

サービス終了の通知と代替措置の案内 東京地判平26.6.10(平25レ385)

事業者が,利用者の同意を得ることなくサービスを終了したことが債務不履行となるかが争われた事例。

事案の概要

(争点に関連する限度で要約する。)Xは,Yとの間で携帯電話のデータ通信サービス(本件サービス)の利用に関する契約を締結していた。Yは,本件サービスの利用者が大幅に減少したことから,平成19年10月22日に本件サービスを平成20年5月31日を以って終了する旨のリリースをし,平成19年12月には,Yに対し,本件サービスの終了と,端末の無料交換を行う内容のDMを合計4回送付した。その後も,YはXに対し,電話で本件サービスが終了するなどの連絡をした。

Xは,YがXの同意を得ることなく本件サービスを終了したことは債務不履行に当たると主張し,100万円の損害賠償を請求した。原審(簡裁)がXの請求を棄却したことから,Yが控訴した。

ここで取り上げる争点

Yの債務不履行の有無

裁判所の判断

裁判所は次のように述べて債務不履行を否定した(改行その他形式は修正して引用)。

[1]Yによる本件サービスの終了は,契約者の著しい減少を理由とするものであり,Yにおいてその必要性は高かったし,全ての契約者から本件サービスの終了について個別の同意を得ることは著しく困難であった。
[2]そして,Yは,本件サービスの終了の約半年前から,本件サービスの契約者に対し本件サービスの終了を告知するとともに,本件サービスと同様のサービスである代替サービスを利用できる代替端末への無料交換サービスを実施し,ダイレクトメールや電話により,契約者に対し,代替端末への機種変更を行うよう促しており,相応の代償措置を執っていた。
[3]しかしXは,ダイレクトメールやオペレーターからの電話により本件サービスの終了及び代替端末への無料交換を認識していたが,無料交換期間内に機種変更を申し出なかったし,仮に申し出ていても,修理に出した際に借りた代用機(本件端末)を使用していたため,無料交換を申し出ても無料交換できない状態にあった。
これらの点に照らすと,(略)Yには債務不履行はないというべきであり,また,上記のような事情に照らすとYには帰責事由もないというべきである。

以上より,Xの請求をすべて棄却した原審の判断が維持された。

若干のコメント

本件サービスは,平成14年当時に約1085万人いたユーザが,平成19年には約10万人にまで減少したということですが,インターネット関連のサービスでは,このように技術やユーザの志向の変化から急激にユーザ数が減ってしまってサービスの維持が困難となることは珍しくありません(典型的にはオンラインゲームなどが当てはまります。)。

そのような状況で,事業者の都合でサービスを終了することが可能なのかということが問題となりますが,これを準委任契約だと解すれば,各当事者がいつでも解除可能です(656条,651条1項)。しかし,相手方に不利な時期に解除した場合には,「やむを得ない事由があった」場合を除いて損害賠償責任が生じます(651条2項)。

「不利な時期」「やむを得ない事由」という個別判断によるリスクを避けるため,多くのサービス利用規約では「●カ月前に通知することによってサービスを終了することができる」という定めが置かれています。本件では,そのような規約の定めについて判決文に言及されていませんでしたが,6カ月前にリリースし,その後も数度にわたってDMで個別に通知していたことや,機種交換の案内などの代替措置が取られていたことから,債務不履行や帰責性はないとされました。

どれくらいの予告期間を設ければよいのか,通知や案内はどの程度行えばよいのか,代替措置は必要か,といったことは,サービスの持続性に関するユーザの期待や,乗り換えの容易性や,サービス終了に至る事業者側の事情などから決まることとなるため,一概には言えないところです。本件サービスでもユーザ数が99%以上減ったとはいえ,なおも残る10万人のユーザに個別に案内したということで,サービスは産みの苦しみだけでなく,撤退戦も大変だと思わせる事案です。