IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ツイートにおけるスクショの添付と引用 東京地判令3.12.10(令3ワ15819)

スクリーンショット形式でツイートを添付した行為について,引用の成否が問題となった事例。

事案の概要

Xは,Xの投稿がスクリーンショット画像として添付されている4つのツイートは,Xの著作権を侵害するものであるとして,プロバイダ責任制限法4条1項に基づいて,接続プロバイダであるYに対し,発信者情報(氏名,住所,電子メールアドレス,電話番号)の開示を求めた。

これに先立ち,Xは,ツイッターインク社に対し,IPアドレス及びタイムスタンプの開示を求める仮処分命令を申し立てており,IPアドレス及びタイムスタンプの開示を受けている。

ここで取り上げる争点

(1)Xのツイートの著作物性

(2)引用の成否

発信者情報開示が認められるためには,権利侵害の明白性が必要とされるところ,Xは,自己のツイートにかかる著作権侵害を主張していた。そのため,ツイート自体が著作物でなくてはならず,また,スクショの添付が引用(著作権法32条)の要件を満たさないことが条件となる。

裁判所の判断

争点(1)著作物性

裁判所は,4つのツイートすべてについて著作物性を認めている。その内容と判断部分を紹介する。

X投稿1の内容は次のようなものだったが,

こないだ発信者情報開示した維新信者8人のログインIPとタイムスタンプが開示された NTTドコモ 2人 KDDI 3人 ソフトバンク 2人 楽天モバイル 1人 こんな内訳だった。KDDIが3人で多数派なのがありがたい。ソフトバンクが2人いるのがウザい しかし楽天モバイルは初めてだな。どんな対応するか?

これについて裁判所は

X投稿1は,140文字以内という文字数制限の中,発信者情報の仮の開示を求める仮処分手続を経て,著作権侵害と思われる通信に係る経由プロバイダが明らかになった事実に基づき,当該事実についての感想を口語的な言葉で端的に表現するものであって,その構成には作者であるXの工夫が見られ,また,表現内容においても作者であるXの個性が現れているということができる。

として言語の著作物(10条1号)に当たるとした。

X投稿2の内容は次のようなものだったが,

@B  @C  @D >あたかものんきゃりあさんがそういった人たちと同じよう 「あたかも」じゃなくて、木村花さんを自殺に追いやったクソどもと「全く同じ」だって言ってるんだよ。 結局、匿名の陰に隠れて違法行為を繰り返している卑怯どものクソ野郎じゃねーか。お前も含めてな。

これについても次のように述べて著作物性を認めた。

X投稿2は,140文字以内という文字数制限の中,意見が合わない他のユーザーに対して,短い文の連続によりその意見を明確に修正した上,高圧的な表現で同人を罵倒するものであり,その構成には作者であるXの工夫が見られ,また,表現内容においても作者であるXの個性が現れているということができる。 

X投稿3の内容は次のようなものだったが,

去年の今頃,「@E 」とかいう高校3年生の維新信者に絡まれて勝手にブロックされ5 て「何したいんだ,このガキ?」って事が さっき,あのガキのツイートが目に入ったんだけど受験に失敗して浪人するわ都構想は否決されるわで散々な1年だった様だ 「ざまあ」以外の感想が浮かばない(笑)

これについても次のように述べて著作物性を認めた。

X投稿3は,140文字以内という文字数制限の中,かつてツイッター上で特定のユーザーとトラブルとなった経緯のほか,その後,当該ユーザーの政治的主張が採用されなかったこと,当該ユーザーが大学入試に失敗したことを端的に紹介した上で,当該ユーザーが不幸に見舞われたことを「ざまあ」の三文字で嘲笑するものであり,その構成には作者であるXの工夫が見られ,また,表現内容においても作者であるXの個性が現れているということができる。

そして最後のX投稿4(下記内容)についても,

@Cアナタって僕にもう訴訟を起こされてアウトなのに全く危機感無くて心の底からバカだと思いますけど,全く心配はしません。アナタの自業自得ですから。

次のように述べて著作物性を認めた。

X投稿4は,140文字という文字数制限の中,Xに訴訟を提起されたにもかかわらず危機感がないと思われる特定のユーザーの状況等につき,「アナタ」,「アウト」,「バカ」,「自業自得」 という簡潔な表現をリズム良く使用して嘲笑するものであり,その構成には作者であるXの工夫が見られ,また,表現内容においても作者であるXの個性が現れているということができる。

争点(2)引用の成否

発信者のツイートは,上記X投稿1~4のスクリーンショットを添付しつつ,「この方です・・・」「私に対してのリプ 何にもしていないのにぃ(ó﹏ò。)」「絡んだ時間順に並べてみました。暴言はいてます?」「はい!あなたは私に暴言をはきましたが,私はあなたに暴言をやめてとかしか言っていません。具体的に教えていただいてもいいですか?検索しても出てこないです!絡んだ順にスクショ置きますね!どの事でしょうか?」などの短いコメントをテキストで記載したものである。

この点につきプロバイダであるYは,Xの意見に対して批評を加える目的でなされたものであるから,引用(著作権法32条1項)に当たると主張していた。

裁判所は,次のように述べて引用の要件を充足しないと述べた。

ツイッターの規約は,ツイッター上のコンテンツの複製,修正,これに基づく二次的著作物の作成,配信等をする場合には,ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しなければならない旨規定し,ツイッターは,他人のコンテンツを引用する手順として,引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうすると,本件各投稿は,上記規約の規定にかかわらず,上記手順を使用することなく,スクリーンショットの方法でX各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため,本件各投稿は,上記規約に違反するものと認めるのが相当であり,本件各投稿においてX各投稿を引用して利用することが,公正な慣行に合致するものと認めることはできない。

また,前記認定事実によれば,本件各投稿と,これに占めるX各投稿のスクリーンショット画像を比較すると,スクリーンショット画像が量的にも質的にも,明らかに主たる部分を構成するといえるから,これを引用することが,引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない。

以上より,Yに対し,発信者情報の開示を認めた。

若干のコメント

ツイッター上で話題になっていたので,判決文を読んでみました。

本件は発信者情報開示請求事件ですので,被告であるプロバイダは,発信者本人ではないので,著作物性や引用の成否について直接の利害関係にはなく,裁判所もまた,最終的な権利侵害の成否は,当事者同士による損害賠償請求事件に委ねているようにも思います。

とはいえ,判示部分だけをみると,「ツイッター規約違反あり=公正な慣行に合致しない=引用不成立」という論理の流れになっているので,これが一般化されるのはいかがなものかと思います。あくまで規約違反であるということは「公正な慣行」の判断要素の一つに過ぎないと考えるべきではなかろうかと考えます。

また,途中で長々と判決文を引用しましたが,X各投稿(ツイッターバトル中の罵倒ツイート)それぞれについて,著作物性ありと認めたことも興味深いところです。著作物性のハードルの高さは,表現物の種類によって違う印象もありますが,ツイートは比較的容易に言語の著作物として認められています。