IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

宿泊予約仲介プラットフォームの責任 東京地判令元.9.5(平28ワ32620)

利用者が「静かな部屋」をリクエストして部屋を予約したが実態と異なっていたとして,利用者が予約仲介プラットフォーム事業者の責任を追及した事案。

事案の概要

Xは,Yが運営する宿泊施設予約サイト(本件サイト,Booking.com)を通じてマカオのaホテル(本件ホテル)を予約した。その際,「特別リクエスト」欄に「quiet room」と記載した。

Xが実際に本件ホテルに赴いたところ,仮囲いがあって工事中であり,Xは「静かな部屋」ではないとしてその場でキャンセルして宿泊しなかったが,当日キャンセルに当たるとして全額(816香港ドル)が決済された。その後,Xは,本件ホテルと直接交渉のために2度に渡って本件ホテルに赴いた。

Xは,Yに対し,特別リクエストを正確に伝達して仲介すべき債務の履行を怠ったことは債務不履行または不法行為にあたるなどとして,交渉のための航空運賃,支払うこととなった本件ホテルの宿泊費(キャンセル料)等の合計約20万円の損害賠償を求めた。なお,本人訴訟のようである。

ここで取り上げる争点

債務不履行または不法行為の成否

裁判所の判断

裁判所は本件ウェブサイトの位置づけについて次のように認定した。

本件ウェブサイトは,サイトを閲覧した顧客が,客室予約の手続を行うことのできるオンライン・プラットフォームであり,利用者は,無料で本件ウェブサイトを利用することができ,本件ウェブサイトを通じて予約が完了した時点以降,Yは,予約情報を宿泊施設に伝達し,利用者に予約確認書メールを宿泊施設に代わって送信し,利用者と宿泊施設との仲介のみを務めるものとされている

次のように述べてYの責任を否定した。

Xは,Yが本件ウェブサイトに,本件ホテルの周りには仮囲いがあって工事中であるとの情報を掲載しなかったことがXの利益を侵害し,不法行為に当たると主張する。しかし,上記ア(ア)の約定(注:上記認定)を見ても,Yにおいて,本件ホテルの場所や宿泊料といった一般的な情報を超えて,本件ホテルが,X固有の特別なリクエストにすぎない「静かな部屋」に対応することのできる状況にあるのか否かについてまで,本件ウェブサイトに情報を掲載して提供する法的義務が生じるとはいえず,他に,そのような法的義務が生じることを基礎付ける事情も認められない。よって,この点に関するXの主張は理由がない。
また,Xは,Yが予約内容を正確に仲介すべき債務を負っていたと主張する。この主張が,予約内容を正確に伝達すべき債務であるという趣旨であれば,Xが入力した他の予約情報が本件ホテルに伝達されていながら,特別リクエストのみ伝達されていないということは想定し難いのであるから,Yは予約内容を伝達する債務を履行したといえる。また,上記の主張が,Yにおいて,本件ホテルに対し,Xが静かな部屋を要望している旨を伝えて,本件ホテルに何らかの対処を求めるべき債務があるとの趣旨であるとしても,上記イのとおり,Yの債務は予約の伝達と予約確認書メールの送信に尽きるのであって,それ以上に,Yが,本件ホテルに対し,Xの特別リクエストに応じた対処を求めるべき債務が存在するものとはいえない。よって,この点に関するXの主張も理由がない

その他に,Xは消費者契約法10条,景表法違反なども主張していたが,いずれも退けられている。

若干のコメント

数ある消費者トラブルの一種であり,仲介プラットフォームの責任が問われた事例ではあるものの,結論は妥当なものといえるでしょう。

判決文には,本件ウェブサイトの利用規約が引用されていないのですが,2022年1月4日時点での利用規約を見ると,

お客様が旅行プロダクト予約を行った時点から、弊社の役割はお客様と当該旅行プロダクト提供会社の仲介を務めることのみとします。弊社は当該の旅行プロダクト予約に関する情報を当該旅行プロダクト提供会社に伝達し、当該旅行プロダクト提供会社のために、および代わりに、お客様に予約確認メールを送信します。(1条)

弊社は相応の技術と注意を持って旅行プロダクト関連サービスを提供しますが、すべての情報が正確、完全、適正であるかを確認および保証するものではなく、弊社は(誤植や明らかな間違いを含む)誤り、(プラットフォームなどのいかなる(一時的・部分的な)故障、修理、アップグレード、メンテナンスなどによる)いかなる中断、不正確で誤解を招く、真実ではない情報や情報の不伝達にも責任を負うものではありません。(1条)

Booking.comは旅行プロダクトの使用、正当性、品質、適合性、適切性、開示について責任を負わず、またあらゆる法的責任を拒否するものとし、黙示的または法定によるものか否かにかかわらず、いかなる商品性、権限、不侵害、特定の目的に対する適合性の黙示保証を含む、当該のいかなる条件付け、保証、表明をするものではありません。当該の旅行プロダクト提供会社は一切の責任を負い、(旅行プロダクト提供会社が行ったいかなる保証および表明を含む)旅行プロダクトに関するすべての責任および法的責任を負うことを承諾し、かつこれに同意するものとします。Booking.comは旅行プロダクトの(再)販売者ではありません。(9条)

などとなっています(規約は,英語版が正式なものであり,かつ,オランダ法準拠,アムステルダム管轄裁判所となっています。なお,民事訴訟法3条の7第5項。)。

これらの規定から,裁判所は,プラットフォームは情報掲載・伝達を行うところにとどまり,それを超えた責任はないと認定しています。こうした判断が,仲介型プラットフォーム全体に一般化されるものではありませんが,事業者としては,ビジネスモデルの設計段階で自らの責任範囲を明確にするとともに,規約の表現,利用者への説明において利用者の理解に努めていくことが求められるでしょう。