アマゾンの出店者から購入した製品によって火災事故が生じたという事例において、アマゾンの責任の有無が問題となった事例。
事案の概要
X(個人)*1は、Y(Amazon)が運営するECサイトにて、モバイルバッテリー(本件バッテリー)を購入した。このサイトでは、販売者はYではなく、別の事業者であるZと表記されていた。
本件バッテリーの購入から約1年半後、本件バッテリーが発火し、Xの自宅の一部が焼損するという事故が発生した。Xは、Zに連絡が取れないことから、Yに仲介を依頼したが、直接やり取りをするように求められるなど、苦労の結果、約2年後に中国法人との間で和解が成立した。
本件訴訟は、Xは、Yに対し、ECサイト利用に関する契約の債務不履行または不法行為等に基づき、30万円の損害賠償を求めた事案である。
ここで取り上げる争点
本件は、多数の販売事業者が出品する取引デジタルプラットフォーム運営事業者の責任(債務不履行責任または不法行為責任)の有無が争点となった。
具体的には、Xは、ECサイト利用契約に基づいて、Yは、(1)出店・出品審査義務がある、(2)保険・補償制度構築義務があるにもかかわらず、これを怠ったことや、不法行為責任として、特商法表示に関して、利用者が問い合わせ可能な表示・体制を維持する義務を怠ったことなどを主張していた。
裁判所の判断
まず、出店・出品審査義務があったとは認められないとした。
原告は、上記アの主張の根拠として、消費者委員会内に設けられたオンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会が作成した報告書(甲10。以下「本件報告書」という。)を挙げる。
しかし、本件報告書は、そもそも作成されたのが平成31年4月と本件売買契約から約2年10か月も後である上、その内容も、プラットフォーム事業者の出店・出品審査の関係では、利用者の安心、安全に向けた「提言」としてのものであり、直ちに上記アの主張の裏付けとなるものではない。
また、原告は、本件バッテリーを含むリチウムイオンバッテリーについて、本件売買契約当時、事故が年々増加していた一方、安全性を保証する認証等の制度が複数存在したことを上記アの主張の根拠として挙げる。
しかし、原告が指摘するリチウムイオンバッテリーに関する認証等の制度は、いずれも、平成28年の本件売買契約当時、同バッテリーを搭載する製品の製造・販売を行う業者について取得が法律上義務付けられていたものではない(乙4参照)。したがって、上記制度の存在をもって、上記当時、被告にリチウムイオンバッテリー搭載製品の出品につき原告が主張するような審査義務があったと認めることはできない。
また、保険・補償制度構築義務も否定した。
本件報告書中の保険・補償制度に係る提言は、インターネット取引に関するアンケート調査の結果、プラットフォーム事業者において行ってほしいサービスとして、詐欺に遭った場合の返金、消費者トラブルにあった場合の補償を求める回答が約1割程度見られたことを受けたものであるから(本件報告書62~63頁)、一定の場合に代金の一部又は全部を返金するという被告が採用済みの「マーケットプレイス保証制度」は、上記提言に沿ったものと認められるとともに、いずれにせよ、原告が主張するような保険・補償制度の構築をプラットフォーム事業者に義務付ける趣旨のものとは認められない。
さらには、不法行為責任についても否定した。
本件バッテリーについては、出品者への連絡先として電話番号が記載され、それとは別に、連絡用のフォームも用意されていて、現に、原告は、上記フォームを利用してオーキーらと連絡を取り、本件和解を成立させているのである。この過程で、本件バッテリーに係る本件特商法表示として記載された電話番号に電話を架けたが誰も出なかったとしても、そのことから当然に、本件バッテリーの出品者について本件特商法表示の不備があるということにはならず、まして、被告について、上記本件特商法表示に関する義務違反があると認めることはできない。また、原告は、オーキージャパンないしオーキーらへの連絡方法が限られ迅速な対応が受けられなかったとも指摘するが、そもそもオーキージャパン等といつどのように連絡を取ろうとしたか(電話を何回架けたかを含む。)について、具体的な主張立証をしていない上、中国法人であるオーキーらとの連絡方法として電話及び上記フォーム以外に何を想定しているのかも不明である。いずれにしろ、オーキージャパン等の対応の遅れがあったとして、その責任を被告に負わせるべき根拠は認め難い。
そのほかにも、商法14条または会社法9条(名板貸し責任)の類推適用も主張したが、退けられている。
若干のコメント
本件は、提訴段階から多くの報道がなされ、結果が注目されていました*2。
Amazon.co.jpで物を購入する場合、売主がアマゾンである場合と、出店契約をしている出品者である場合とがありますが、本件で問題となった取引は後者のケースです。この問題を一般化すると、いわゆるモールでの取引において、モール運営者(プラットフォーム事業者)が責任を負う場合があるか、負うとしたらどのような場合か、とすることができます*3。
この論点に関係する著名な事例には、ヤフーオークション事件(名古屋高裁平成20年11月11日判決)や、チュッパチャプス・楽天事件(知財高裁平成24年2月14日判決)などがありますが、原則として取引当事者ではないプラットフォーム事業者は責任を負わず、責任を負うとしても例外的なケースに限られるということがいえます。
前記ヤフーオークション事件では、場の提供者として欠陥のないシステムを構築する義務を認定していましたが、本件の場合は、取引自体は正常に行われていました。プラットフォーム事業者に出店者が適切な事業者であったかどうかをどこまで審査する責任があるか、事故が起きた際にどこまで補償する仕組みを整えるかが問題になりましたが、裁判所は、一般的にそのような義務までは認められないとしつつ、Amazon.co.jpも一定の制度をすでに導入していたということを評価していました。
2022年には、いわゆる取引DPF法が施行され、一定のプラットフォーム事業者には規制がかかるようになりました。今後、これらの義務(努力義務)を果たしていない場合、取引のトラブルがあった際には、債務不履行責任等が認められることはあり得るかもしれませんし、現在も控訴中ということで、控訴審の判断も注目されます。