転売禁止条項に反して商品を転売したユーザに対し、違約金条項に基づく違約金を請求したところ、当該条項が民法548条の2第2項に該当し、合意内容にならないか否かが問題となった事例。
事案の概要
Y(個人)は、リアル・ネット双方で商品を販売する事業者であるXが運営するECサイト(本件ショップ)において、陶器製の人形(本件商品)を購入した。本件商品のページには、「この商品は『転売禁止商品』となります。」と書かれており、本件ショップにおける規約(本件規約)には、以下のような条項があった(本件転売禁止特約)。
第8条 転売禁止商品の購入時・転売発覚時の措置
1 「転売禁止商品」とは、オンラインショップページ内の「転売禁止に関する規約事項」の指定記述があるものと定義する。
2 転売とは、当社より購入した商品について、第三者に有償で譲渡する一切の行為をいう。
3 転売禁止商品と指定する商品については、転売禁止を条件として販売するもので、転売目的による購入者への販売は一切行わない。当社と購入者との契約は、転売禁止条件付き売買契約となる。
4 転売目的を秘して「転売禁止条件付き売買契約」により転売禁止商品を購入することは、購入者が商品を購入した時点で、詐欺罪(刑法264条1項)が成立することになる。
5 転売禁止に関する規約事項に同意し購入したにもかかわらず転売行為を行った場合、当社は以下対応を行うことができ、購入者はこれに応じなければならない。
(抄)転売者は違約金として、転売により得られた売上相当額又は20万円のうちいずれか大きい方の額を支払うものとする(本件違約金条項)。
また、転売禁止商品の購入にあたっては、購入ボタンを押すとモーダルウィンドウ*1が立ち上がって、転売禁止商品の説明とともに「やめる」「同意する」のボタンが表示され、「同意する」を押すと、規約事項が表示され、チェックボックスの入力とともに「承諾する」ボタンを押す必要があった。また、購入後、本人確認のためにマイナンバーカード等の身分証画像を送付する必要があった。
Yは、2022年1月14日に本件商品を12,100円で購入し(本件売買)、同月31日には、メルカリにて48,400円で出品した。Xは、本件商品が出品されているのを発見し、これを落札した。
Xは、違約金支払条項付き本件転売禁止特約に反したとして、違約金20万円のほか、詐欺に当たるとして、101万円の損害賠償を請求した。
ここで取り上げる争点
本件違約金条項は、民法548条の2第2項に該当し無効となるか。
Yは、賠償額が過大であって、「相手方の義務を加重する条項」であって、不意打ち的な不当な条項であるから、民法548条の2第2項に該当し、無効になると主張していた(条文上は「合意しなかったものとみなす。」)。
裁判所の判断
裁判所は、本件商品の購入までの過程で、本件転売禁止特約を含め本件規約事項を表示し、チェックボックスにチェックを入れることを要求されていることなどを踏まえ、本件転売禁止特約は、定型取引の内容となり、本件売買契約の内容となるとした。
また、Yが本件売買契約当時17歳であったことから、未成年者を理由とする取消も主張されたが、代金額も高額とはいえないことなどから、処分を許された財産の範囲内の取引であるから、Yは民法5条2項に基づく取消権を行使できないとした。
問題の本件違約金条項について、裁判所は次のように述べた。
本件売買は、民法548条の2にいう定型取引に該当するところ、本件転売禁止特約は、本来自由な処分権の行使に制約を設けるものといえ、さらに、これに違反して転売した場合、本件違約金条項により相手方に違約金の支払義務を負わせるものであるから、本件違約金条項は、民法548条の2第2項にいう「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する」ものといえる。このような条項で、相手方が合理的に予測することができない条項は、相手方に不意打ち的なものとなるから信義誠実の原則に反し、合意内容とならないと解される。
そして、本件売買のようなインターネットを介した取引形態においては、未成年者から高齢者まで、幅広い年代層で理解度も様々な者が関与することが容易に想定されるものである。そうであれば、取引の安全の観点から、契約締結までの間に、相手方に定型約款を利用した取引であることが個別具体的にウェブ画面上で認識可能な状態にしておくことが必要と解される。特に、定型約款によって義務を加重する場合には、通常、予測が困難であるといえるから、どのような場合にどのような義務を加重するのかを、取引の当初から個別に表示するなど、その内容を容易に知り得る状況にすることが必要であり、相手方が合理的に予測できない義務内容であって容易には知りえない状況のものについては、信義誠実の原則に反し、合意内容とはならないというべきである。
この点、前提事実及び認定事実のとおり、本件では、本件商品について違約金に関する記載は本件違約金条項のみであるところ、本件商品の商品ページに記載はなく、本件違約金条項が画面上表示されるのは、本件商品の商品ページより後の別の画面である、購入に関する規約事項の画面である。また、同画面には、まず、購入方法等の4つの規約事項の記載があり、これらの規約事項の後に本件転売禁止特約として表示され、本件違約金条項は、本件転売禁止特約の5項目のうちの、最後の5項目の中のさらに4つ目の項目に一文として表示されているにすぎない。また、転売禁止内容と異なり、文字色や大きさを変えるなどの注意喚起を促すような文字形態にもなっていない。このように、本件違約金条項は、契約までの間に表示されるとはいえ、終盤の段階に至って初めて表示され、かつ、画面上、容易に認識できる状況にはない。そして、一般的に、転売禁止であるからといって、違反した場合に当然に違約金が課されるとは限らないことからすれば、転売禁止商品であることを表示したとしても、通常、違約金が課されることを予測できるとまではいえない。加えて、本件の違約金額は20万円と購入価額を大きく上回る金額であって、このような高額の違約金の支払義務を負うことを予想することは通常困難である。
これらを踏まえると、本件違約金条項は、相手方に一方的に義務を負わせるだけではなく、合理的に予測することが困難な不意打ち的な内容といわざるを得ない。
よって、Xの主張を踏まえても、本件違約金条項は、民法548条の2第2項に該当し、合意内容とはならない。
その他、消費者契約法10条による無効の主張もなされていたが、その点を判断するまでもなく、請求は棄却された。
若干のコメント
定型約款に関する民法の規定は、2020年4月から施行されたばかりなので、まだ定型約款の契約への組入れ(民法548条の2第1項)、不当条項の排除(同条2項)や、変更の有効性(548条の4)については、あまり裁判例が見当たりません。
本件は、548条の2第2項のいわゆる不当条項及び不意打ち条項排除の規定に関する判断がなされた事案です。ECサイトでの商品販売において、転売禁止特約については、契約内容になるとしつつも、違反した際の違約金条項(転売の売上または20万円の大きい方)について、不意打ち条項にあたるとして、無効だとしました。
なお、本文中にも記載しましたが、548条の2第2項では「合意しなかったものとみなす」となっており、消費者契約法10条や民法90条のように無効とするものではありません。判断基準も「その提携取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして」行うものとされるため、条文の文言だけでなく、取引のフローなども考慮されます。
本件でも、単に違約金の額が高いから不意打ちだとしたわけではなく、転売禁止に関する注意喚起は何度もされている一方で、違約金条項は、特段注意を引くような装飾もなく、容易に認識できるものではない上に、利用者にとって予測できる内容ではないとされました。
商品ページから、購入に至るまでのプロセスで、説明・注意喚起・規約の表示などが丁寧に認定されており、ウェブサービスの運営者にとって非常に参考になる事例であると思われます。
ちなみに、本件と同じ当事者だと思われる売主は、別の事件(東京地判令3.5.19・令2ワ19407)においても、同じ転売禁止条項・違約金条項に基づいて違約金を請求しており(当時の違約金の額は、規定では50万円。取引日は2020年)、同じく民法548条の2第2項により合意しなかったものとされています。
さらに、当ブログ記載時点(2025年3月2日)において私が閲覧した限りでは、Xのサイトには転売禁止条項の中に本件違約金条項と同様の条項(額は20万円)がまだ残っています。
*1:指定された操作を終えるまでは他の操作ができない形式のウィンドウ