マーケットプレイス(アマゾン)の「相乗り出品」において、運営者が相乗り出品者の資格調査や、偽造品の削除をする義務を負うか否か等が争われた事例。
事案の概要
医療機器メーカーX2(原告X2)が製造するパルスオキシメータ―(本件商品)を独占的に販売する権利を有する医療機器販売会社X1(原告X1)は、本件商品を、アマゾン(被告Y)との間で契約(本件契約)を締結し、オンラインストアプラットフォーム(本件サイト)に出品していた。パルスオキシメータ―は、薬機法上、販売に際して許可を必要とし、許可を得るためには日本国内に営業所を有することなどが必要とされていた。
本件サイトでは、「相乗り出品方式」が採用されており、すでに出品されている商品と同一の商品が出品されると、商品ページが集約されて、複数の出品者の価格が比較して表示されるようになっていた*1。

本件サイトでは、価格設定の誤りを防止すること等を目的として、ある商品の出品価格が、同一商品の過去の販売価格の平均値から大きく乖離していることをシステムが検出した場合、自動的に当該商品の出品が停止される仕様となっていた。
X1が本件商品を出品した後に、別の出品者が、本件商品ではない商品を低廉な価格で相乗り出品するようになった(その結果、低価格で出品していたX1以外の出品者が上位に表示されるようになった。)。X1は、Yに対し、相乗りされた商品は正規品ではないなどとして、是正を求めていたが、上記の検出システムが作動し、逆にX1による出品を停止する措置が取られた。
他に、X1は、オンラインフォームを通じて商標権侵害の申告を行ったが、Yは、X1の出品分を含めて、商品詳細ページ全体を削除する措置をとった。
さらに、X1は、商品詳細ページに、本件商品は「X1が独占販売権を有するから他社からの購入はできない」旨の文章を掲載したことが、Yのポリシーに違反するとして、商品詳細ページが削除されるなどの措置も取られた。
なお、本件契約には免責条項(本件免責条項)があり、その内容は次のようなものであった。
- (前段) Yは、本件契約に関して出品者又は出品者の関連会社が行った投資の補償、回収又は賠償の費用、並びに本件契約に起因又は関連する利益、収入、事業もしくはデータの損失又は懲罰的もしくは間接的損害について、かかる費用又は損失の発生する可能性を被告が知らされていたか否かを問わず、また、それが契約、保証、不法行為(過失、製造物責任等)又はその他に基づくものであるか否かを問わず、出品者又はいかなる者に対しても責任を負わない。
- (後段)重大な過失又は故意による不法行為である場合を除き、本件契約又は本件契約に基づき想定される取引に起因又は関連する被告の責任の総額は、いかなる場合であっても、当該クレームの原因となった特定のサービスに関連して、過去6カ月の間に出品者がYに支払った総額を上限とする。
X1及びX2は、Yに対し、これらの措置によって損害を被ったとして、合計で約2.8億円の損害賠償を求めた。
ここで取り上げる争点
Yにおけるさまざまな義務の存否及びその違反の有無が問題となったが、ここでは以下の義務について取り上げる。
- 予防的措置をとる義務
- 義務0-1 相乗り出品者が相乗り出品する際に、商品詳細ページの商品の販売に特定の資格が必要である場合、相乗り出品者が当該商品を販売する資格があることを確認し、資格を有しない出品者の出品を排除する義務
- 義務0-2 相乗り出品者が相乗り出品する際に、相乗り出品者が相乗り出品しようとする商品が商品詳細ページの商品と同一のものであることを確認し、同一でない商品を排除する義務
- 問題を知った後の対処義務
- 義務1-1 相乗り出品者が当該商品を販売する資格を有していないことを知り又は知ったと認められる相当の理由がある場合、合理的期間内に相乗り出品者の資格を調査し、資格を有しない出品者の出品を削除する義務
- 義務1-2 相乗り出品者が相乗り出品した商品と商品詳細ページの商品とが同一でないことを知り又は知ったと認められる相当の理由があった場合、合理的期間内に当該偽造品を削除する義務
- 義務2 (X1の出品が削除されたことにつき)合理的な理由なく出品を削除しない義務
- 免責条項による免責の可否(民法548条の2第2項の適否)
裁判所の判断
それぞれの義務の存否・違反の判断に先立ち、裁判所は次のように述べた。
本件契約は、Yが、出品者に対し、本件サイトへの商品の出品を可能とするサービスを提供し、出品者がその対価として各種手数料等を支払うことを内容とする契約である。本件サイトは、(略)実店舗と比較すれば偽造品等の不正な出品が容易な構造となっているところ、Yは、このような構造下にあるオンラインストア・プラットフォームへの出品サービスを提供し、出品者からその対価を収受するのであるから、出品者の適正な販売機会を確保するために、これを阻害する不正な出品を監視し、取り締まるなど、不正行為への対応を行う義務を、本件契約上の義務として出品者に対して負うものと解される。
義務0-1
販売に資格を必要とする際に、その資格の有無を調査する義務を負うか、という点については次のように述べた。
薬機法39条1項は、医療機器等の利用者の安全性確保の観点から医療機器の販売者に対して規制を加えるものであって、Yのように、医療機器販売者に販売の場を提供する立場にあるプラットフォーム事業者に対し、一定の義務を認める根拠となるものではない。同規定は、医療機器を利用する利用者の安全性確保を目的とするものであって、同規定の目的に、医療機器販売者の適正な販売機会の確保を求める趣旨を含むものとは解されないから、同規定を参照しても、Yが、特定保守管理医療機器を出品させる際に、薬機法上の販売許可を得ているかについて確認する義務を、出品者に対して負うとはいえない。
義務0-2
相乗り出品時に商品の同一性を担保できるシステムを構築する義務を負うか、という点については次のように述べた。
Yが、出品者の適正な販売機会を確保するために、これを阻害する不正な出品を監視し、取り締まるなど、不正行為への対応を行う一般的な義務を負うとしても、相乗り出品方式に伴って生じる弊害に対してどのような措置をとるかは、事業者であるYの裁量に委ねられているのであって、必ずしも事前の予防策を取ることがYに義務付けられているとはいえない。
義務1-1
相乗り出品者が商品の販売に必要な資格を有していなかったことを知ったときに出品を削除する義務を負うか、という点については次のように述べた。
薬機法上の販売許可を有しない出品者が販売許可を有する出品者の出品に相乗り出品した場合、出品した商品が同一であれば、販売許可の有無の相違によって価格競争力に著しい差異が生じ得ることは実店舗においても生じる問題であって、相乗り出品の特性から生じる問題とはいえないところ、実店舗における販売の場を提供する事業者について、対購入者ではなく、販売資格を有する出品者に対して、販売許可のない商品を同一の売り場から排除する義務を負うものとは解されない。
義務1-2
相乗り出品された商品が、同一ではないことを知った場合、合理的期間内に当該偽造品を削除する義務を負うか、という点については次のように述べた。
(注:相乗り出品方式の特徴として、同一ページ内に競合して販売活動が行われることなどを挙げた上で)本件サイトが相乗り方式を採ることで、商品詳細ページに記載された商品とは異なる商品(以下、商品詳細ページ記載の商品とは異なる商品について単に「異なる商品」という。)が相乗り出品された場合には、異なる商品が同じ商品詳細ページに掲載され、異なる商品が同一商品であると誤認されることなどにより、商品詳細ページに記載された商品の購入が妨げられる弊害が生じることは容易に想定される。
他方で、商品詳細ページの商品情報の変更にはYの承認を要し、商品詳細ページの変更について一定の権限を有するブランド所有者であったとしても、異なる商品が出品されていることを購入者に注意喚起し、購入を控えるよう呼びかける文章を掲載するなどした場合、一出品者に固有の情報を記載したポリシー違反に該当するものとして、商品詳細ページが削除されることとなる。
そうであれば、出品者において、上記のとおり想定し得る弊害を回避する手段は著しく制約されているところ、このような弊害は、Yが採用する相乗り出品方式という販売手法に起因するものであるから、Yは、出品者の適正な販売機会を確保するために、これを阻害する不正な出品を監視し、取り締まるなど、不正行為への対応を行う義務の一内容として、上記弊害が生じないように対策を講じる義務を負うというべきである。
そして、Yの取るべき措置は、上記2(2)で述べたとおり、一般的には、事業者としての被告の裁量に委ねられているとしても、上記弊害が現実化して出品者の具体的な利益が害される事態が申告されている場合においては、その是正についてYに広い裁量があるものとは解されず、Yにおいて出品者に対して具体的な対応を取る義務を負うというべきである。
そして、裁判所は、Yには、X1から被害申告を受けて、異なる商品による相乗り出品がなされたことを知ったことを端緒として、この義務が生じたにも関わらず、申告の真偽を確認する事実調査を行わないままX1出品部分も含めて商品詳細ページ全部を削除したことなどから、義務に違反したことを認定した。
Yは、日々膨大な件数の問い合わせに対応する困難性などを主張していたが、この方式による弊害を想定しておくべきであって、調査を開始しない合理的な理由にもならないなどとした。
義務2
義務2の存否については、仕組み上当然のことであるとされている。
本件契約は、X1に対し、Yの運営する本件サイトにおいて本件商品を出品する機会を与え、その対価を受領するものであるから、本件商品の出品状態を維持することは本件契約上の被告の中核的義務であるといえ、Yは義務②を負うということができる。
出品価格の誤設定が検出されたことを以って、X1の出品が停止されたものであり、このこと自体は合理性があるとしても、
出品者から誤設定ではない旨の申告及びその理由が伝えられていた場合には、これを調査した上で、誤設定ではないことが判明すれば可及的速やかに停止措置を解除すべきであったといえる。
として、出品停止措置の解除が最長で73日間も要したことなどから、3商品分について義務違反があったとした。
権利侵害申告フォームを利用して申告したことについて、申告者であるX1の出品分も含めてすべて削除したことについては「合理的理由は見いだせない」などとして義務違反を認めた。
一方で、X1が中国からの出品者が出品していることに関して販売資格を有しないことなどを記述したことを理由に、商品詳細ページの削除を行ったことについては、X1が本件契約及びポリシーにて受け入れていることなどを理由に、Yの義務違反を否定した。
本件免責条項の適否
本件免責条項は、定型約款であり、民法548条の2第2項が定める不当条項に当たるかどうかが問題となった*2。
本件免責条項の前段は、「本契約に関して出品者又は出品者の関連会社が行った投資の補償、回収又は賠償の費用、ならびに本契約に起因又は関連する利益、収入、事業もしくはデータの損失又は懲罰的もしくは間接的損害」という広範囲かつ抽象的な損害について、その種類を問わず、損害発生の可能性についてのYの主観的態様を問わず、損害の法的根拠も問わず、Yが一切免責される規定であるから、出品者の権利を制限し、その利益を一方的に害する内容であるといわざるを得ない。本件契約が大規模なオンラインストア・プラットフォームにおける出品契約であって、取扱商品、サービスの対象も多種多様であることからすれば、Yの負担する損害賠償責任も甚大になりかねないリスクがあり、これを適切に制御して事業を継続するために、一定範囲の損害を免責対象とすることに合理性があることは否定できない。しかし、前段に記載された損害は広範囲かつ抽象的であり、これらの損害すべてについて、損害の性質によって合理的範囲に限定することなく、Yに故意又は重過失が認められる場合にまで一切免責されるとする点については、本件契約が大規模なオンラインストア・プラットフォームにおける不特定多数の出品者との間に適用される定型取引であり、画一的処理の要請が強いことを考慮しても、取引上の社会通念として許容される範囲を超えるものであって、上記改正前民法においても、信義則に照らし、その効力を否定されるべきものと解される。そうすると、民法548条2項の適用により、本件免責条項の前段につき、少なくともYに故意又は重過失のある場合については、合意しなかったものとみなされる。
前段のすべてを効力なしとするのではなく、「故意又は重過失がある場合」については合意なしとした(逆にいえば、軽過失にとどまるときは免責され得る。)。
その上で、義務1-2に関し、X1の申告に対して調査を行わなかった点については、過失を軽度ということは困難だとした。しかし、仮に調査を行ったとしても、X1の逸失利益との間に相当因果関係があるとは認められないとした。
次に、義務2に関し、最大で73日間にわたって出品停止措置が解除されなかったことについては、「合理的期間を著しく超過したともいえない」として重過失を否定した。
しかし、権利侵害申告フォームを通じて削除を求めたX1の商品をも削除したことについては、「故意又は少なくとも重過失がある」として、義務2違反のうち、権利侵害申告フォームからの申告を端緒に削除されたことについては、本件免責条項の対象外だとした。
具体的な逸失利益については、販売停止されていた期間について、1日あたりの平均利益をもとに計算しつつも、他の販路からの出品が可能であったことなどを考慮し、3500万円だと認定された。
若干のコメント
本件は、大手プラットフォーマーの義務が問題となった事例で、前掲注の日経新聞の記事によると、現在も控訴審にて継続中ですので、結論はどうなるかはまだ分かりません。
しかし、判決で認定された事実関係をみる限り、「相乗り出品」によって、中国の偽造品に押されて、逆に高い価格であるからとして出品が取り消されたり、商標権侵害があるとしてフォームから申告したら、相乗り出品だけでなく自分の商品も削除されたりするなど、プラットフォーム側の対応にかなり問題があったことは否定できません。
しかしながら、義務違反が認められたのは一部に限られ、さらに、免責条項の壁を破って認められたのは逸失利益のごく一部であり、チュッパチャプス事件(知財高判平24.2.14)が行ったプラットフォーマーの責任に関する規範*3に照らすと、出品者の救済が十分ではなかったような印象を受けます。
本件の特徴は、パルスオキシメータ―が薬機法上の規制がかかっていた商品であったということも挙げられますが、裁判所は、この点について、事前の販売資格の有無の確認義務(0-1)、その後に資格がないことを知った後に排除する義務(1-1)のいずれも否定しており、ここは再び控訴審で争われると思われます*4。
最後に、何でもかんでも免責、と定めた本件免責条項の前段について、民法548条の2第2項により「故意又は重過失があるときは合意しなかったものとみなす」とした点も注目です。しかし、このような広範な免責条項について、全部無効(合意しなかった)とせず、軽過失の範囲ではなお有効だとしておくと、結局、事業者はとりあえず広く定めておこうとするようにも思われるので、疑問が残ります。
*1:下の図は、本件訴訟に関する日経新聞サイトの記事より。図中の「エクセル社」は原告である。
*2:Yとの間で締結されたのは、改正民法の施行前であるが、同法改正附則33条1項により、施行前に締結された定型約款については、改正前の民法下において効力を有していたか否かが問題となっている。
*3:出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容を削除すべき義務があることを示唆しています。
*4:前掲日経新聞の記事では、植村幸也先生は「不正競争にあたるのではないか」とコメントしています。2条1項20号の品質誤認が言えると思われます。