IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

ベンダのPM義務違反、ユーザの協力義務違反 東京高判令7.9.25(令6ネ1341)

システムが完成に至らず、その原因は、ベンダのPM義務違反とユーザの協力義務違反双方にあるとし、それぞれの損害賠償請求権が一部認容された事例。

事案の概要

原告(独立行政法人)は、ベンダ()に対し、基幹システム(本件システム)の開発を契約代金約2.7億円で委託(本件契約)したが、本件システムは本稼働には至らなかった。

本訴事件は、本件システムの稼働は、Yの履行遅滞によるものであるとして、Xが本件開発契約を解除し、既払金約2.56億円の返還のほか、損害賠償と併せて約7.06億円を請求したものであり、
反訴事件は、Yが、本来予定されていた業務を超える作業をさせられたことについて、協力義務違反による損害賠償請求、民法641条に基づく損害賠償又は商法512条に基づく報酬請求等として、約6.18億円を請求したほか、Yの従業員に対するハラスメントがあったとして3000万円の損害賠償を請求したものである。

主な事実経過は、

  • 2017年11月、Xは、新システム導入計画を立案し、入札公告を実施した。
  • 2018年1月、Yが落札し、本件開発契約を締結した(代金約2.7億円、稼働予定2019年3月)。
  • 2018年6月、Yが要件定義工程完了報告書を提出した。
  • 2018年8月、Yが基本設計工程完了報告書を提出した。
  • その後、詳細設計、製造工程、テスト工程が実施されたが、遅延が発生した。
  • 2019年3月、Yが稼働判定報告書を提出。その中では、品質面においてリスクが残存するため条件付き合格とし、体制を維持することでリスクを低減する旨などが記載されていた。
    同月、XY間で、本件契約の契約金額の一部減額、稼働支援期間(2019年7月まで)などを変更する合意が締結された。
  • 2019年5月、Xは、Yに対し、開発業務の報酬として約2.56億円を支払った*1
  • その後も、不具合の解消作業をしつつ、本件システムの稼働時期について数度に渡って延長する協議が進められたが、最終的に本稼働開始には至らなかった。
  • 2020年2月、Yは、Xの担当者によるハラスメント等を理由として、ハラスメントの対応が実施されるまでの間、担当者をプロジェクトから引き上げる旨を通知し、引き上げたところ、Xは、履行の催告とともに、本件契約の解除通知を送付した。
  • その後、作業の再開はなく、協議も物別れに終わり、本件訴訟の提起に至った。

原審(東京地判令6.2.5令2ワ14982)では、本件システムは完成しておらず、Yには債務不履行があるとしつつ、Xにも一定の協力義務違反があるとし、本訴について約3.36億円を認容し、反訴について約2.18億円を認容した。

ここで取り上げる争点

(1)Yの債務不履行の有無(仕事の完成の有無)

(2)Yの債務不履行責任・帰責性の有無

(3)Xの協力義務違反(債務不履行責任・不法行為責任)の有無

(4)Xによるハラスメント等による債務不履行又は不法行為の成否

(5)過失割合

(6)Xの損害

(7)Yの損害

裁判所の判断

争点(1)Yの債務不履行の有無(仕事の完成の有無)について

【完成の有無】

裁判所は「稼働させることが可能な状態に置くことを要する」と述べて完成を否定した。

本件契約は、本件業務仕様書に定める業務(本件システム開発)を委託の目的とし、本件業務仕様書は、要件定義工程、基本・詳細設計工程、テスト工程を経て、平成31年2月28日までに本件システムを構築し、同年3月4日に本件システムを稼働させた上、同日から同月31日まで稼働支援及び運用・保守を行うとしている。そうすると、本件システムの構築及び稼働と、その後の稼働支援及び運用・保守業務は一応区別することができるとしても、本件システム開発が完成したというには、少なくとも、本件システムの構築を終え、本件システムを稼働させることが可能な状態に置くことを要するというべきである。

しかるところ、Yは、同月28日までに一定の成果物を納品し、本番稼働開始可能と判断する旨記載した稼働判定報告書を提出したものの、実際には、本件システムの稼働開始には至らず、同年4月以降も本件契約に基づき本件システムの構築業務を継続し、本件システムの稼働日の延期を繰り返して、本件システム稼働までの具体的なスケジュールを立てることができないまま、本件契約が終了するに至ったのであるから、本件システム開発が完成したとは認められない。

この点について、Yは、成果物の納入を終え、稼働判定報告書が承認されたこと等を以って完成していたと主張したが、納品時に提出した文書には、「プログラム修正、設計書整備、データ修正及びマニュアル整備などといった本件システムの稼働日までに実施すべきもの」を対応する旨が記載されていたことなどから、「予定された最終工程まで終了したとは認められない。」とした*2

5月に代金が支払われていたことについても、その時点において稼働時期が7月とされていて作業が継続していたことなどは、便宜的なものにすぎず、完成を基礎づけることにならないとされた。

履行遅滞の有無】

当初の稼働時期が、2019年3月とされていたが、その後、同年7月、11月、2020年1月へと順次変更されていたことについては、「週次会議等において了承していたものであり、両者の合意により履行期限が変更されたと認められるから、同日まではYが履行を遅滞していたということはできない。」とされた。

しかし、2019年10月ころに、Yから2020年1月の稼働は困難であるから、同年11月に延期したい旨を申し入れたが、これにはXが了承しなかったことから、更なる履行期限の変更の合意はなく、履行遅滞の状態が認定された。

争点(2)Yの債務不履行責任・帰責性の有無について

【プロジェクトマネジメント義務違反の有無】

裁判所は、以下のような一般論を述べた。

システム開発は、発注者・受注者間の契約に基づき、受注者が、発注者の要求を把握し、分析・整理した上で、これに応じた仕様を構築して製造することを要するところ、対象業務については発注者が専門性を有し、他方、システムの構築・製造については受注者が専門性を有し、本件のように比較的規模の大きなシステム開発においては、その開発工程において、発注者、受注者ともに多数の者が関わり、共同の下に開発を進めていくことになるから、受注者は、履行期までにシステムを完成させることができるように、契約内容及びこれに基づく開発工程に則して、システム開発の進捗状況を適切に管理し、開発の阻害要因の把握及びその解消に努める義務(プロジェクトマネジメント義務)を負い、その一環として、発注者の行為が開発作業を阻害することがないよう発注者に働きかける義務を負い、他方、発注者は、契約内容及びこれに基づく開発工程に則して、内部の意見調整をした上で、システムの対象とする業務の範囲や内容を定め、要求する機能を適時に確定するなどして、システム開発に協力する義務(協力義務)を負うというべきである。

そして、Yが提出した提案書やキックオフ会議の内容などから、Yはプロジェクトマネジメント義務を負っていたことが認定された。

裁判所は、以下のような事情を挙げてプロジェクトマネジメント義務に違反したと認めた。

  • プロジェクトの開発計画から大幅に遅延したこと
  • 一定の成果物が納品されたが、品質面においてリスクが残存する状態だとする稼働判定報告書が提出されたこと
  • 2019年4月以降も作業が継続されたが、稼働時期が繰り返し延期されたこと
  • 開発体制の見直しが行われたが、不十分だったこと

【Yの帰責性】

Yは、開発遅延の原因は、Xの協力義務違反にあるから、Yには帰責性がないと主張していた。この点について、裁判所は次のように述べた。

(注:後述のとおり)Xにも協力義務違反があると認められるが、その内容及び本件契約終了に至るまでの本件システム開発の経緯に照らして、同義務違反のみが原因となって本件システム開発が遅延し履行遅滞が生じたとは認められない。また、(略)Yにはプロジェクトマネジメント義務違反があると認められ、その中にはXに開発作業を阻害することがないよう適切に働きかける義務の違反も含まれる。

そうすると、Xの協力義務違反を理由としてYに帰責性がないということはできず、Yは履行遅滞責任を免れない。

争点(3)Xの協力義務違反(債務不履行責任・不法行為責任)の有無について

【協力義務違反の有無】

裁判所は、Xは、b社*3に本件プロジェクト全体の工程管理業務を委託していたことなどを踏まえ、協力義務を負っているとした。

その上で、Yが協力義務違反に当たると主張していた事実について、次のように判断した(判決文では多数の主張が取り上げられているので、ここでは一部のみ取り上げる。)。

  • 要件定義工程において業務フロー漏れがあり、57件の修正を要したことについては、要件定義工程の遅延に影響したものの、想定の範囲内というべきであり、協力義務違反はないとされた。
  • 基本設計工程以降に業務フロー漏れが判明し、多数の修正を要したことについては、要件定義工程において反映されるべきものであり、協力義務違反に当たるとされた。ただし、Yは、要件定義工程において、Xの担当者からヒアリングをし、その要求を把握、分析、整理することが求められるから、すべてXに帰責すべきものではないとされた。
  • ヒアリングに協力的でなく、作業の遅延に影響したという事実は一定限度で認められたが、協力義務違反があるとまでは認められないとされた。
  • 要件定義・基本設計工程で取り上げられなかったが、詳細設計工程で検討するように要望した事項については、「開発工程に照らすと時機を失したものである」として、協力義務に違反するとされた。
  • 詳細設計工程で62帳票が追加されたことについては、Xが適切に要求を伝えていなかったから協力義務違反が認められるとした(Xのみに帰責できないとの留保については上記と同様)。
  • 基本設計工程で不要とされた機能が詳細設計工程にて追加されたものがあったが、これは予め想定されていたものであって、協力義務違反ではないとされた。
  • 多数の仕様変更が挙げられたことについて、詳細設計完了判定を行っていないから、Xが仕様の変更にあたる要求をしても協力義務に違反したとは言えないが、詳細設計工程完了報告書を提出した後に変更に当たる要求をした場合には協力義務違反にあたるとされた。
  • データ移行作業において、現行システムのデータに不整合があり、Yの作業負荷が高まったことについては、Yの提案書には不整合データがある場合には協議をするとなっており、現にYが調査・修正をしたことは、提案書に沿うものであったから、協力義務違反があったとはいえないとしたが、Xも不整合データの修正作業によって、作業遅延が生じることは認識していたから、「責任の程度を軽減する事情として斟酌することが相当である」とされた。

その他、ハラスメントに関する主張については項を改める。

争点(4)Xによるハラスメント等による債務不履行又は不法行為の成否について

Xは、XY間には使用従属関係があるから、XはYの担当者に関する安全配慮義務を負っていたと主張していたが、裁判所は、Yが指揮命令下にあったことはないから、安全配慮義務は負っていないとした。しかし、具体的なハラスメントの主張*4については、次のように述べた。

(協力義務違反を認めた事例に関する部分)

C(注:Xの担当者)は、平成30年4月6日にYのSらと打合せをした際、同人の発言に関して「うちの職員が能力ねえから、お前らダメだって言ってんでしょうが」などと威圧的な発言をし、令和元年12月26日にYのG取締役及びK取締役と費用負担等について協議し念書の作成を求めた際に「御社は能力が無いんですよ」、「御社の隠蔽体質とかね、虚偽報告体質とかね」、「御社ってもう協議する立場にないですよって話をしているんですよ」、「できます、できますとか言って、やるやる詐欺をまたやるってことですか」などと侮蔑的な発言をした。(略)このような言動は、実際に作業に従事するY担当者との協力関係に支障を生じさせ、作業の遅延に影響するおそれがあるものであり、協力義務違反に当たると認められる。

(協力義務違反を否定した部分)

他方、XのR課長が同年7月1日にYのB執行役員及びG取締役と協議し代表者の来訪を求めた際に「町工場以下ですよ」などと発言し、同代表者が同月5日にX事務所を訪れた際、稼働延期を繰り返していることについての受け止め方やその原因等を追及され謝罪をしたこと、Xが同年8月29日の週次会議の際にB執行役員の不正確な説明についてのお詫びに対し虚偽報告であると非難し、虚偽報告であったことを謝罪する旨を記載した原案を作成してYに提出を求めたこと、Xがb社紹介の外部有識者をマネジメント支援のため採用するようYに求め、B執行役員が同年10月2日頃断ったこと、Yが同月15日の週次会議の際に現状の問題点と改善策をまとめた書面を交付し協議を求めたが、Xの要求で撤回し、同書面の改訂版に基づく実質的協議にもXが応じなかったこと、同月25日にX事務局がYの社内ミーティングへの参加を求めた際にB執行役員土下座をして断ったことが認められ、上記各証拠の中には、その際にCらX担当者が不適切な言動をしたことを窺わせるものもあるが、既に本件システム開発が当初の予定から大幅に遅延している状況の下において、その原因や責任を追及し、改善策等について協議する過程でされた言動であったことを考慮すると、これらが協力義務違反に当たるとまでは認められない。

Yは、移行チームのリーダーであったUが平成30年8月29日の移行詳細設計に関する打合せの際に提示した作業計画について、Xから実現可能性について指摘され、同年9月頃、同リーダーをUからSに交代させたこと、平成31年4月以降、同年3月時点の統括責任者Q、実施責任者V及びPMO・Wを交代させたこと、同年8月29日の週次会議においてXのPM補佐Sの交代要求を受け入れたこと、同年11月頃、統括責任者であったB執行役員の補佐をしていた外部専門家のパワハラ被害申告を契機として統括責任者を交代させたこと、Xから正常性確認テストにおける不具合の報告が遅れたことについて追及され、同年12月頃、システム検証対応チームの体制を見直し同リーダーのIを交代させたことが認められる。

しかし、Yは、本件システム開発について、Xとの間で緊密に協議をし、開発体制及びX事務所において作業する担当者についてもXに報告し、その了承を得ながら進めていたところ、上記各担当者の交代の経緯に照らすと、Yは、Xの要請を受け又はその意向を酌んでしたものの、最終的にはYの判断により決定したことが認められるから、この点について、Xが協力義務に違反したとは認められない。

さらに、パワハラ加害者とされたCを外さない限りYは作業員を引き上げると述べて、実際に作業を停止したことについて、

CがY担当者らに対し威圧的、侮辱的な言動をし、仕様の変更に当たる要求を繰り返していたこと(略)からすると、YがCの交代を要求したことには相応の理由があるということができる。しかし、同要求を入れてCを交代させるか否かはXにおいて決定すべき事項であり、上記事情は、(略)上記要求を超えて受注業務の履行を停止することを正当化するものということはできない。

として、撤退することとの引き換えを求めたことについては正当化しなかった。

これにより、Yには履行遅滞及びプロジェクトマネジメント義務違反の債務不履行があったから、Xによる解除は有効だとされた一方で、Xにも協力義務があったとした(Yに債務不履行があったから、Yによる反訴請求のうち、民法641条に基づく損害賠償、商法512条に基づく報酬請求についても退けられた。)。

争点(5)過失相殺について

このように、お互いの帰責性があったことを踏まえ、過失割合は、ベンダYが6割、ユーザXが4割であると認定した。

そこで両者の過失割合について検討すると、Yは、受注者として本件システム開発を完成させる義務を負うところ、プロジェクトマネジメント義務に違反し、本件契約の変更後、期限の延期を繰り返してきたにもかかわらず、完成させることができないまま履行遅滞に陥り本件解除に至ったものであり、その一次的な責任はX*5にあるというべきである。他方で、Yは不完全ながら本件契約(変更前)の期限内に成果物を納入し、Xもこれを受領しているところ、本件契約変更後の経緯を見ると、その後、更に作業が遅延し、延期を繰り返しても完成に至らなかったのは、Xが製造・テスト工程以降の段階においても仕様の変更に当たる要求を繰り返したことと、Yがデータの移行作業に難航したことの影響が大きい。これらの点に関する責任の有無及び程度並びにその割合に影響する諸事情については前記5で説示したとおりであり、Xの責任も相応に大きいものといわざるを得ない。以上のような各当事者の過失の有無、内容、程度、責任割合に影響する諸事情のほか本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、両者の過失割合はYが6割、Xが4割と認めるのが相当である。

争点(6)Xの損害について

Xが主張する損害等について、裁判所は次のように判断した。

【既払報酬返還請求】

Xは、Yに対して支払った約2.57億円の全額が損害だと主張していたが、①要件定義書の提出を終え、完了の報告を得ていることから解除の効力は及ばず、②基本設計は完了判定が終わらないまま終了に至ったことから、この部分については「利益を受けた」*6ということにはならないとした。要件定義部分が占める工数の割合が3.7%であったことから、開発代金全額から3.7%を控除した残額約2.47億円が対象になるとした。

解除に伴う原状回復請求(民法545条1項)は、債務不履行に基づく損害賠償とは異なるため、過失相殺(同418条)は適用されないのが原則だが、Yは成果物を納品し、Xに協力義務違反が認められることに加え、Xは成果物を受領して代金を支払いながら、仕様変更要求を繰り返したという事情から、報酬返還請求は「信義則上、過失割合に応じて制限することが相当である」として、4割の減額を行った(約2.57億円×0.6 = 約1.48億円)。

【損害賠償請求権】

Xが主張していた損害のうち、以下の額の合計である、約1.06億円を損害であると認定し、過失相殺後の6割、約6300万円の損害賠償請求権を認定した。

  • 【△】b社への工程管理業務を含む外部専門家に支払った約6100万円から、要件定義工程相当分の3.7%を減額した額。
  • 【△】本件システムが完成に至らなかったために現行システムの稼働継続費用として支払われたサーバーリース料、サポートサービス料についてはYの債務不履行によって当然に発生するものとは認められないとして否定したが、2019年7月にYが差し入れた「補償書」において、一定の費用を負担することをYが約束していたとして、約1700万円について認定した。
  • 【×】現行システムのバージョンアップ対応費用(約8000万円)については、本件契約の終了から約2年5か月後に外部に委託されたものであるため、Yの債務不履行によって生じたものではないとした*7
  • 【×】業務効率化のために委託したコンサルタント費用(約1100万円)は、Yの債務不履行によって生じたものではないとした。
  • 【△】本件システムと他システムとの連携のために外部に委託した費用(約250万円)は、両システム双方の費用として支出されたものであるから、その半額について債務不履行によって生じた損害であると認定した。
  • 【×】Yの担当者をXの事務所に常駐させていたことによる賃料相当額が損害だと主張されたが、常駐箇所はXの事務所であり、損害は発生していないとされた。
  • 【〇】他方で、集中検討会議のために賃借した外部の会議室費用(約33万円)は債務不履行によって生じた損害だとされた。
  • 【△】Xの事務局としてシステム開発に関与した担当者の人件費は、「通常想定される範囲」については「これが無益に帰した以上、Yの債務不履行により生じた損害」であるとした。ただし、この損害の額は、Xが主張する費用の積算に基づくものではなく、「本件契約(変更後)代金から要件定義工程分を控除した残額の約1割相当の2500万円と認める」とした*8
  • 【〇】本件システム開発のため、Xが提供したコピー機のリース・コピー費用310万円は、Yの債務不履行によって生じた損害だとした。
  • 【×】本件システムが稼働しなかったことによる逸失利益(人件費削減効果が得られなかったもの)については、否定した。
  • 【×】本件システム開発中止後に新たなシステムを第三者に委託するための調達準備費用については、否定した。
  • 【×】本件システム開発のために締結したセールスフォースのライセンス費用を、本訴の証拠保全のために延長した部分については、否定した。
争点(7)Yの損害について

裁判所は、Yが本件システムの開発作業の一部として派遣企業に約1.8億円を支出したことは認定したが、本件契約の変更前の期間に行われた作業については、すでに報酬とその返還請求で考慮済みであり、Xの債務不履行によって生じた損害は、本件契約変更後の期間に発生した費用であるとした。もともと本件契約の契約金額(約2.57億円)が14カ月で実施することが予定されていたことから、変更後の期間10カ月の費用としては、その14分の10(1.83億円)を損害だと認定した。

他に、Yは、外部専門家への委託費用、現行システムの運用保守費用として、合計約6300万円を支出していたが、このうち、外部専門家への委託費用の半額(約830万円)を損害だと認定した。

その他に、セールスフォースのライセンス料も損害だと主張していたが、これは認められなかった。

争点(6)及び(7)の判断の結果、Xの原状回復としての報酬返還請求権及び損害賠償請求権と、Yの損害賠償請求権を相殺し、残額として、YがXに対し、約1.1億円を支払い義務があることを認めた。

若干のコメント

一審、控訴審ともに長大な判決文で、多くの争点があったため、本文も長くなりましたが、本件の特徴として、ユーザの協力義務違反として様々な事情が主張され、認定されたということが挙げられます。

ユーザの協力義務違反としての典型例は、仕様確定後も仕様変更要求が繰り返されたことによりプロジェクトの遅延をもたらしたというものですが、本件の場合、そういった典型事象のほか、データ移行作業の元データの不整合によりベンダの作業に負荷がかかったことや、侮辱的・威圧的な態度をとったことなどが協力義務違反として認定されました。

双方の義務違反が認められた結果、お互いの損害賠償請求が認められ、それぞれ過失相殺(ユーザ4:6ベンダ)を行った残額を相殺するという処理が行われました。

結果的には、ベンダが約1.1億円をユーザに対して支払うことになりますが、もともとベンダは契約金額のほぼ全額を受領していることから、双方当事者に問題があったと思われる事案の落ち着きどころとしてはバランスがとれたものではないかと思われます。

多くの争点があったので目立っていませんが、原状回復請求権(民法545条1項)に基づく既払い金の返還請求についても、「信義則」を理由に過失相殺を認めたというところも、類似の実務への影響、参考になりそうです。

なお、プロジェクトが遅延したり、品質不良が続発すると、ユーザはベンダに対して厳しい叱責をすることなど、社内で行われたらパワハラだと評価されるような言動がみられることがあります。ユーザの担当者も、社内でプロジェクト遅延や予算オーバーの責任を問われる立場にあるため、外部ベンダに対して叱咤激励を超えた言動に出やすくなりますが、それが却ってユーザの協力義務違反(本件では安全配慮義務自体が認められませんでしたが、債務不履行あるいは不法行為を惹き起こすことになりますので、十分注意する必要があります。ベンダもそういった言動が見られるときには、遅延や品質不良の問題があるとしても、毅然とした態度を取るべきでしょう。

*1:変更後の契約金額の全額ではないが、これはこの段階で、変更後の期間の業務が履行されていなかったためである。

*2:改正前民法下において「予定された最後の工程まで一応終了」したことを基準とするという裁判例が多数存在し、民法の改正後もその考え方は維持されている。

*3:判決文からはその社名や内容は明らかではないが、いわゆるPMO業務の委託先である。

*4:原審におけるYの主張からは、60項目にわたるハラスメントの主張がなされていた。

*5:Yの間違いではないかと思われる。

*6:民法634条は、「仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。」としている。

*7:原審では、この部分も損害として認定していた。

*8:ユーザの人件費相当額が損害として認められるケースは少ないが、仮に認めるとしても、契約金額の1割とすることの論拠が不明であり、この点は強い疑問がある。