IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

【争点別】システム開発をめぐる紛争インデックス

システム開発紛争事例を,争点別にまとめました。非常に乱暴に要約しているので,詳細はリンク先または判決文をご確認ください。個別のエントリを追加したら随時インデックスも更新します。

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(仕掛中)【争点・分野別】(システム紛争以外の)インデックス(仕掛中)

システム開発・運用関連裁判例以外の当ブログ収録裁判例について,論点・分野別のインデックスをまとめておきます(同一の裁判例が複数個所に記載されていることもあります)。

非常に乱暴に要約しているので,詳細はリンク先または判決文の原文でご確認ください。

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瑕疵担保責任に基づく解除と損害賠償請求 東京高判令2.2.26(令元ネ2423)

本稼働させたシステムに性能上の障害があった場合において,瑕疵担保責任に基づく解除の可否と損害賠償の範囲が問題となった事例。

事案の概要

持ち帰り弁当店運営会社Yが,システム開発会社Xに対し,Web注文システムの開発を委託した。

XY間の契約は,要件定義に関する準委任契約(約340万円)と,Web開発に関する契約(運用テスト部分は準委任契約で,残りは請負契約。約2750万円)と,ネットワーク機器の売買契約等(合計で約1330万円)から構成されていた。

システムは平成25年7月1日に稼働したが,その日のうちに注文サイトが開かなくなるという障害が発生し,閉鎖した。翌日,再開したが,やはり動作が遅いという障害が発生した。

その後,第三者ベンダZが調査し,「宅配システム(Web)は,多くのユーザーがアクセスする可能性がある公開系のWebサービスにおいては期待する性能を実現することは不可能と思われる」との報告が出された。

Xは同月8日に,お詫びと今後の改修計画を記載した文書を提出し,再開に向けた準備を行ったが,検証方法等に意見の相違があり,平行線のまま同月25日にYはXに対し,請負契約の解除の意思表示をした。

Xは,Yに対し,前記準委任契約,請負契約,売買契約等に基づく代金,報酬の合計である約4400万円を請求したのに対し,Yは,Xが開発したシステムには重大な瑕疵があるとして主位的に解除を主張し,予備的に瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求等との相殺を主張した。

Yは,本件訴訟の弁論において,(1)要件定義に関する準委任契約について,Xが作業をし,Yが検収したこと,(2)仕事が完成したこと,(3)売買契約等の引渡しが完了したことを認めた。

一審(横浜地裁川崎支判平31.4.23(平26ワ488)―当ブログ未登載)の判決に対し,双方控訴したが,いずれの控訴も棄却されて原審の結論が維持されたため,ここでは,原審の判決を中心に紹介し,必要に応じて控訴審の判断を補足する。

ここで取り上げる争点

見積外の追加項目が,当初の契約に含まれているか否か,といった争点もあるが,ここでは,以下の争点を取り上げる。
(1) 契約をした目的を達成することができない重大な瑕疵があったか(635条)
(2) 瑕疵の有無と,瑕疵によって生じた損害について
(3) 過失相殺の可否及び割合
(4) 要件定義段階における善管注意義務違反とその過失相殺

なお,要件定義や,機器の売買に関する契約は,別個の契約であったことについては争いがないため,仮に(1)により請負契約の解除が認められたとしても,Xの請求のすべてを棄却できることにはならない。

裁判所の判断

争点(1)重大な瑕疵による解除の可否

裁判所は以下のように述べて,パフォーマンスの件は,重大な瑕疵には当たらず,民法635条に基づく解除は否定した。

(1)  Yの主張①(ピーク時に注文処理を同時に300件行うことができない)について
Yは,要件定義書に定義された,宅配システム(Web)の「ピーク時アクセス件数300件を想定」(乙1)の意味について,Web注文サイトのログイン画面から注文完了画面までのいずれかの画面を開いている(サイトアクセスしている)利用者が300人との意味であることについて,平成31年1月24日の第29回弁論準備手続期日において同意したところであるから(前提事実(4)),宅配システム(Web)が注文処理を同時に300件できないことが重大な瑕疵に当たるとは認められない。
(略)さらに,注文確定画面に時間を要するのは,クライゼル連携(引用者注:外部システムとの連携)が影響しているところ,XとYは,クライゼルに連携することで,レスポンスタイムが遅くなることがあることを平成31年1月24日の本件の第29回弁論準備手続期日において同意したところであるから,注文確定処理に時間を要するのは,Yの指示に基づくものであってやむを得ないといえるし,注文確定後にクライゼルとの連携をするように仕様を変更することも可能である(略)。
そうすると,ピーク時に注文処理を同時に300件行うことができないことが,重大な瑕疵に当たるとは認められない。
(2)  Yの主張②(ページごとのレスポンスタイムが3秒以内という要件を満たしていない)について
ページごとのレスポンスタイムが3秒以内という要件は,要件定義書の中に記載はなく(乙1,2),このようなシステムが通常備えるべき性能であるとは認められない。
なお,Zは,3秒以下のレスポンスタイムを要求しており(乙9),3秒以内に反応のあるシステムの方が利用者にとっても望ましいとはいえるが,要件定義書に記載のない性能を備えていないことをもって,重大な瑕疵に当たるということはできない

上記の判示部分はややわかりにくいが,要件定義書の記載中の「ピーク時アクセス件数300件」とは,サイトアクセス者が300人であるということであって,サブミットする処理を同時に300件行うという意味ではないことを確認した上で,後者を達成していないとしても重大な瑕疵ではないとしたものである。

争点(2)瑕疵の有無と損害

もっとも,契約の解除には至らない程度の瑕疵があることは認めている。

宅配システム(Web)のプログラムには,平成25年7月1日及び同月2日時点で,プログラムの共通部品設計の不備があり,待ち行列(他のユーザが同時接続できない状態)が発生して,わずか5人のユーザーが正常にサイトアクセスできない状態にあったことは当事者間に争いがないことから,瑕疵があったというべきである。
Xは,瑕疵であるとの評価を争っているが,わずか5人のユーザーが正常にサイトアクセスできない状態にあった以上,瑕疵があったことは明らかである。

瑕疵による損害については,次のものが認められた。

まず,積極損害としては掲載されている判決文に「別紙5「積極損害一覧表」の「当裁判所の判断」欄」が記載されていないため,詳細は不明だが,

XとYは,瑕疵を修補するために必要な期間を3.5か月と算定することに同意したことから,これを前提としつつ,詳細が不明なものや,瑕疵がなくてもいずれにせよ負担したであろう費用については積極損害として認めないこととした。

と述べられており,その結果,約1120万円が積極損害として認められた。

続いて,逸失利益については,瑕疵を修補するのに必要な期間に対応する利益相当額を(控えめに)算定した。

逸失利益の計算は,「平成26年8月から平成27年1月までのYのWebを利用した実際の宅配売上」から,原価,配送費用,物流コスト,利益を生み出すために生じたであろう費用等の「経費」を控除した数値を基礎とし,平成25年7月及び同年8月には想定されていた稼働店舗数が少なかったことによる修正を施し,少なくともこの程度は認められたという確実な額を算定するのが相当である。

その結果,XとYが合意した3.5か月間という期間に相当する逸失利益の額として約1250万円を認定し,積極損害と逸失利益の合計である約2370万円を瑕疵による損害だと認めた。

争点(3)過失相殺の可否及び割合

Yによる抗弁は(改正前)民法634条2項に基づく損害賠償請求であり,債務不履行に基づく損害賠償請求に対する過失相殺の規定(418条)の適用可否が争点となった。

請負人が瑕疵担保責任を負う場合において注文者に過失があったときには,民法636条の法意に照らし,民法418条の過失相殺の規定を類推適用することは公平の見地から認められるものというべきである

そのうえで,Yの過失というべき事情として,

  • 開発スケジュールはもともとかなり過密なスケジュールであり,本番環境での動作検証を行う時間的余裕がないような状態であったこと,
  • Yは,Xに対して,平成25年7月1日からサービスを開始するために,一般的な開発の流れを排除するよう求めているところ
  • 入稿されたデータに誤りや修正があるなどした結果,XはD(注:Yの委託先)から入稿されたモックサイトのみを見て作業を進めることができない状態となって,Xの担当者がモックサイトとソースの比較のために人員を取られてしまったこと,
  • Dによる入稿データの訂正は,本実施直前の同年6月28日まで行われていたこと

を挙げて,システムに瑕疵が生じた原因の一端はYにあるとした。

しかし,

もっとも,Xは,宅配システム(Web)の開発スケジュールが過密であることを十分に認識しながら契約したこと,DからのHTMLソースの納品が最終期限よりも遅れていたというものではないこと,直前まで修正があったことを考慮したとしても,そもそもテストを行わないまま本実施することはこのようなシステム開発契約において通常考え難いことからすれば,瑕疵が生じた主要な責任は請負人であるXにあることは明らかである。

として,過失相殺する割合は,2割5分にとどめ,過失相殺後の損害額は,約1780万円だとした。

この額については,請負契約に基づく請求との関係で相殺が認められた。

争点(4)要件定義段階における善管注意義務違反

そのほかにも,Yは相殺の主張として,要件定義段階においてXには善管注意義務違反があるとして,それによる損害賠償請求権による相殺を主張していた。具体的には,性能に関する要件の聞き取り段階における認識齟齬が生じたことについての情報提供義務違反が主張されていた。

この点について,

XとYが宅配システム(Web)へのアクセス数を打ち合わせるに当たっては,Xの担当者が,旧宅配サービスのシステム下におけるサイトへのアクセス数をYの担当者に示しながら打合せをし,店舗数が200件の状態での同時「注文数」が最大で10から20であることに言及していたことから,Yの担当者において,「ピーク時アクセス件数300件」について,「同時注文が300件可能」という意味であると誤解したことについてもやむを得ない面があったといえ,Yが適切な要件定義をするための情報提供に関して,Xに善管注意義務違反があったものと認められる。

と,あっさり義務違反自体は認めた。しかし,

宣伝等による顧客動向の変化等を予測して必要なアクセス数を予測することは,基本的にYの責任である

として,Yの過失の割合の方が大幅に大きく7割あるとした。

もっとも,この情報提供義務違反によって,前述の不具合が生じたものであるから,この情報提供義務違反による損害は,瑕疵担保責任に基づく損害と重なるものであって,さらなる相殺ができるものではないとした。

若干のコメント

本件は,パフォーマンス要件に関するベンダ・ユーザ間で認識の齟齬があり,稼働時に大きな障害をもたらしたという事案です。要件定義書に書かれた「ピーク時アクセス件数300件」が「同時注文300件可能」であると誤解されており,前者を念頭においてXは,アーキテクチャを設計したものの,実際には5人のユーザーの同時処理も行えないという不幸が重なりました。


判決文からだけではなかなか事情を読み取りきれなかったのですが,(2020年4月施行の改正民法施行前の)635条における「契約をした目的を達することができない」程度の瑕疵はないとされ,同条に基づく解除はできないとしつつ,旧634条2項に基づいて「修補に変わる損害賠償請求」については認めました。さらには,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求において,「636条の法意に照らし」(注文者の与えた指図によって生じた瑕疵については,権利行使できない),過失相殺の規定の適用があるとしました。


改正後民法では,契約不適合責任に統合され,旧635条に相当する条文はなく,契約不適合責任に基づいて解除する場合は,541条に基づいて行うことになります。もっとも,改正後541条但書では,軽微であるときは解除ができないとされており,「軽微」とは「契約をした目的を達することができない程度」と同じ趣旨を指すことから,この点についての実質的な変更はないとされています(筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答民法(債権関係)改正』239頁(注3))。


細かい点を挙げれば,本文中では紹介していませんが,ベンダから提示した謝罪文で約束したことが契約上の債務となるのか,とか,タイトなスケジュールとはいえ,それを承知で請け負ったベンダは,遅延したり障害が生じたことについて免責(減責)を主張できるのかといった実務的な論点が存在していた事案であり,興味深いところです。


本件におけるXは,結局のところシステムの完成は認められ,契約解除は回避できたものの,多額の瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求が認められたことにより,要件定義の準委任契約と,機器の売買等の争いのない部分以外の請求で認められた部分はごく僅かでした。


なお,訴訟進行という観点からは,一審(川崎支部)で,専門委員も交えて瑕疵の修補にかかる期間や,要件定義書中の記載の意味や,他システムと連携するとレスポンスが悪くなる場合があることについて合意したということが言及されており,事実上の争点についても争点整理が行われていたことが伺えます。もっとも,「第29回弁論準備手続期日において」といった記載をみると,この種の事案の審理には果てしない時間と労力を要することが多く,紛争解決システムとしてうまく機能させることは難しいなと感じます。

請負人からの連絡が途絶えたことによる終了 東京地判令2.2.26(平31ワ774)

クラウドソーシングサービスを介して委託されたシステムの開発業務において,頻繁にやり取りが行われていたにもかかわらず突如連絡が途絶えたという場合,請負人は誠実に回答すべき義務があり,注文者が中止を求めたこともやむを得ないとして仕事の完成を否定した事例。

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インスタグラム・ストーリー投稿のスクショ・転載 東京地判令2.9.24(令元ワ31972)

インスタグラム・ストーリーに投稿された動画のスクショが転載されたことについて肖像権侵害の成否が問題となった事例。

事案の概要

撮影者XAが被撮影者XBの動画(本件動画)を撮影し,XAが本件動画をインスタグラムのストーリーにアップした。

何者かが本件動画の一部のスクリーンショット(本件画像)を保存し,サイトAに本件画像を添付して投稿(本件投稿)をした。

XBが,本件投稿にかかるIPアドレスの開示を受けた。そこで,XらはXAの著作権及びXBの肖像権及び名誉権が侵害されたとして,Yに対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基づいて発信者情報の開示を求めた。

ここで取り上げる争点

本件投稿により本件動画の著作権が侵害されたことにはほぼ争いがないので,肖像権侵害(本件投稿によって原告Bの肖像権が侵害されたことが明らかといえるか。)を取り上げる。特にもともとインターネット上に投稿されていた動画であることから,肖像権侵害が成立し得るのかが問題になった。

裁判所の判断

裁判所は次のように述べて,肖像権の侵害を認めた。

人の肖像は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有する。そして,当該個人の社会的地位・活動内容,利用に係る肖像が撮影等されるに至った経緯,肖像の利用の目的,態様,必要性等を総合考慮して,当該個人の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合には,当該個人の肖像の利用は肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法となると解される。

これを本件についてみると,本件画像は,XBを被撮影者とするものである。本件画像が含まれる本件動画の撮影及びそれをインターネット上の投稿サイトに投稿したのはXAであり,XBは夫であるXAにこれらの行為を許諾していたと推認され,本件画像の撮影等に不相当な点はなく,氏名不詳者は上記投稿サイトから本件動画を入手したものではある。しかしながら,本件動画は24時間に限定して保存する態様により投稿されたもので,その後も継続して公開されることは想定されていなかったと認められる上,XBが,氏名不詳者に対し,自身の肖像の利用を許諾したことはない。XBは私人であり,本件画像はXBの夫であるXAがXらの私生活の一部を撮影した本件動画の一部である。そして,本件画像は,XAの著作権を侵害して複製され公衆送信されたものであって,本件投稿の態様は相当なものとはいえず,また,別紙投稿記事目録記載の投稿内容のとおりの内容に照らし,本件画像の利用について正当な目的や必要性も認め難い。これらの事情を総合考慮すると,本件画像の利用行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えるものであり,XBの権利を侵害するものであると認められる。

したがって,本件投稿によってXBの肖像権が侵害されたことが明らかであると認められる。

若干のコメント

本件は「肖像権」侵害を理由に発信者情報開示請求を行った事案です。判決文からは具体的な画像がわかりませんので,「受忍限度」を超えたものかどうかを判断することはできないのですが,本件では,もともと自分(の夫)がインスタグラムにアップした動画であるから他人が投稿したとしても受忍限度を超えるといえるかどうかが争点となっています。

この点について,裁判所は「ストーリー」という24時間限定での投稿であったことを要素として挙げ,他の事情を総合考慮して肖像権の侵害を認めました。

数日前に,日本でもツイッターで「フリート」機能が導入されました。これもインスタグラムやフェイスブックと同様に投稿から24時間後には消えるというものです。もともとツイッターでは,公式RT,引用RTのほかスクリーンショットをとって論評(多くは批判)を加えるということが行われていましたが,フリートの投稿をスクショして晒す行為は元の機能の性質からして受忍限度を超えるものであるという判断になりやすいといえるので注意が必要です(ツイッター利用規約では,ユーザーの投稿について,一定のライセンスを許諾することになっていますが,時間限定投稿についてスクショして拡散することまでもは含まれないだろうと思われます。)。

共同事業における収益金分配にかかわる争い 東京地判平31.2.15(平29ワ10909)

ポータルサイトを共同で運営していた事業者間で分配金の支払いに争いが生じて契約が解除され,逸失利益等が請求された事例。

事案の概要

Xはプログラムの開発と運用を,Yは企画や顧客対応を担って,共同でポータルサイトを運営していた(本件事業)。本件事業の収益は広告収入であり,収入から経費を差し引いて両者で分配するというレベニューシェアモデルで運営してきた。


平成18年に本件事業が開始し,平成21年にXY間で従前の合意内容を明確化する趣旨で契約書(本件契約)が作成された。ところが平成27年5月ころからXYの関係が悪化し,Yは収益分配金の明細を明らかにしなくなった(分配金の送金自体は行っていた。)。


XはYに対し,平成28年5月から9月分の未払収益金の支払を催告するとともに停止期限付き契約解除通知がなされたが,Yは期限までに支払わなかった。そのため,Xは本件事業で用いるプログラムを消去したが,Yはバックアップから復旧して23日間にわたって再稼働させた。


XはYに対し,未払収益金約1180万円,逸失利益4000万円,プログラムの著作権侵害に基づく損害賠償約100万円等の支払いを求めたのに対し(本訴),YはXがプログラムを消去したことが不法行為にあたるとして損害賠償請求した(反訴)。

ここで取り上げる争点

(1)未払収益金の有無と額
(2)逸失利益の額
(3)プログラム著作権侵害による損害の額

裁判所の判断

争点(1)未払収益金の有無と額について

裁判所は,本件契約で「収益から経費を引いた利益を二分配する」(第8項),「事務経費,契約上の問題が生じた場合,協議の上決定する」(第9項)旨の定めが置かれていることなどから,いかなる費用を収益から控除するのかといったことをXY間で協議のうえ合意されてきたのであって,疑義があるものについては協議により相手方の同意を得なければならないと認めた。


そのうえで,「役員報酬」「業務委託費」「車両減価償却費」「企業保険」「地代家賃」等の費目については,本件事業の経費としての性質を有さないとして,収益から控除することを否定した。


その結果,未払収益金に関する請求は,Xの請求額に近い額(約1150万円)を認めた。

争点(2)逸失利益の額

上記のとおり,Yは収益金を支払わなかったことから,Xによる契約解除は有効だとされた。そして,Xは,解除に伴う損害賠償として5年分の逸失利益を主張していたが,裁判所は,以下のように述べて2年分が相当であるとした。

債務不履行解除に伴う逸失利益について,Xは,平成28年4月分から平成29年3月分までの収益分配金を基礎として5年間は同程度の収益を上げることができたと主張する。

この点について,逸失利益の算定の基礎については,Xの主張するとおり,本件解除の直前である平成28年4月から平成29年3月までの収益分配金に基づいて算定することが相当である。他方,逸失利益を認める期間については,本件事業の売上げが平成27年頃に比べると減少していること,本件事業のようなポータルサイトは同様のサービスを提供する事業者が出現するなどして比較的短期間で事業環境が変化する可能性があることなども考慮し,2年間と認めることが相当である。

その結果,約3000万円の逸失利益を認めた。

争点(3)プログラムの著作権侵害による損害の額

Yは,Xが契約解除後にプログラムを使用できなくしたことから,バックアップから戻して23日間にわたって使用した。この点について,プログラムの著作権(複製権)侵害が認められたが,損害の額は次のように計算された。

前記判示のとおり,Yは,本件プログラムを違法に複製し,それを平成29年4月1日から同月23日まで使用したということができる。Xは,プログラム著作権の複製権侵害に対する使用料相当損害金として,Xへの収益分配額を基礎とすべきであると主張するが,年間の使用料相当損害金としては,本件事業から生じる年間の収益金4024万1514円を基礎にして,その1%であると認めることが相当である。

そうすると,Yのプログラム著作権侵害に対する使用料相当損害金は,上記年間使用料相当額のうち23日分に相当する2万5357円(小数点一位は切下げ)となる。
 (計算式)4024万1514円(別紙2の①の合計額)×1%×23日/365日=2万5357円

その結果,XのYに対する請求は約4190万円認容され,反訴請求はすべて退けられた。

若干のコメント

本件は,共同での事業運営を行ってきた当事者間の争いであり,その収益金分配の方法で揉めるというありがちなケースではありますが,どのような経費が売上から控除されるべきかといった議論は,個別性が強いので,本件の判断に基づいて何か一般論を導けるというものではないでしょう。


しかし,注目は,一方当事者が収益金を支払わなかったことを理由に契約を解除した場合において,逸失利益相当の損害賠償金として,2年分の収益分配金相当額を認めたことです。逸失利益は,その発生の蓋然性が高くない限りなかなか認められにくいのですが, Xの主張が5年分だったとはいえ,2年分も認めたのはやや意外でした。


また,プログラムの複製権侵害に関しては,年間収益の1%をライセンス相当額を損害の額として,その23日分(結果として約2.5万円)について認めました。この部分も,特に定式があるわけではない中で,裁判所が認めたわけですが,本件事業が,ポータルサイトの運営事業であって,そのプログラムは事業運営に不可欠なものであったことからすると,収益の1%というのは逆に少なすぎる印象を受けます。