当ブログで掲載する判例のリストです。
続きを読むデータベース著作権の侵害 東京地中間判平14.2.21(平12ワ9426)
マンション開発業者向けに開発された物件情報等が格納されたデータベースの著作物性と著作権侵害が問題となった事例。
続きを読む竜王戦棋譜再現動画配信事件(控訴審)東京高判令8.3.12令和7ネ3343
棋譜と著作権、不法行為の成否をめぐる最新の裁判例。
事案の概要
原審(東京地判令7.5.21)について書いた下記の事例に記載のとおりで、Youtuber(1審被告)が、読売新聞、将棋連盟(1審原告ら)に無断で、竜王戦七番勝負の棋譜を配信したことについて、不法行為責任が問われたという事案である。
原審では、1審被告の行為は自由競争の範囲を逸脱した行為であるとして不法行為の成立を認め、35期・36期*1の2期分の153本の動画について、765万円の損害と10%相当の弁護士費用の賠償を命じた*2。
これに対し、原告、被告双方から控訴されたのが本判決である。控訴審では、1審原告らは原審に加えて令和6年度(37期)*3の動画に関する損害も追加した。
ここで取り上げる争点
(1)不法行為の成否
(2)損害の額
裁判所の判断
(1)不法行為の成否について
著作権法による保護の対象とならない棋譜の利用が不法行為に該当するかという点が再び争われた。この点について裁判所は、原審同様に北朝鮮映画事件(最判平23.12.8)を挙げて、「特段の事情」がある場合に限って不法行為を構成するという規範を述べ、次のように判示した。
棋譜は著作物ではないため、著作権法による保護の対象となるものではないものの、棋士は、優れた棋譜を残し、対局に勝利するために、日夜研究に励んでおり、また、棋戦における対局により生まれた棋譜は、後世に引き継がれ、将棋の歴史を形作ることとなるため(甲51)*4、棋譜は、知的財産としての性質を有し、財産的保護に値するものであると認められる。
1審原告将棋連盟は、将棋の普及発展と技術向上を図り、我が国の文化の向上、伝承に資するとともに、将棋を通じて諸外国との交流親善を図り、もって伝統文化の向上発展に寄与することを目的とする公益社団法人であり(甲1)、各種棋戦を主催し、棋士に対し、対局料や賞金を支払うことなどにより、棋士のモチベーションを高めるとともに、未来の棋士にも将棋を職業として選択するインセンティブを与え、棋士は、対局料収入等により、経済的な不安から解放され、将棋に集中することができることとなる(甲59)。 そして、1審原告将棋連盟の収入の約50パーセントを占めるのが、棋戦を主催する新聞社等から得る棋戦の契約金であり(甲59)、1審原告将棋連盟は、会員(棋士)に対し、同連盟主催・共催の対局において、自己の対局を含め、棋譜の全部について、新聞、雑誌、インターネットその他公衆への伝達手段を通じた公開を禁じ(甲8)、新聞社等に対し、棋譜の独占的利用権を付与して契約金を得ることで、上記の対局料等を賄い、1審原告読売を含む新聞社等は、棋戦の主催や棋譜の独占的利用により、収益を得ている。
このように、1審原告らの上記利益を保護することは、棋士の保護や将棋の普及発展に寄与するものであり、1審原告らの営業上の利益を保護する必要性は高いといえるところ、1審原告らは、本件各竜王戦を開催するために、それぞれ多額の費用及び多大な労力をその営業活動に投下していること(原判決第3の2⑵)、本件各配信と1審原告らの棋譜を利用した営業活動とは、本件各竜王戦の棋譜を知りたい顧客を奪い合う競合関係にあり(同⑶)、本件各配信は、1審原告らの営業活動による収益モデルを成り立たなくするおそれのある行為であること(同⑷)、本件ガイドライン及び本件運用細則では、本件各竜王戦の対局当日に初手から終局までを通しての棋譜を利用することの許諾は与えていないところ(同1⑷ア)、 1審被告は、このことを認識しながら、1審原告らに無断で、1審原告らが投下した費用及び労力にフリーライドしてその棋譜を利用したものであり、本件各配信の態様は悪質であること(同2⑸)を考慮すると、本件各配信は、上記「特段の事情」があるものとして、不法行為を構成するというべきである。
(2)損害の額について
本判決において修正されている点としては、損害賠償の額が(37期についての請求を拡張したにもかかわらず)325万円へと大きく減額された点にある。
1審原告読売には、本件各配信により、第三者が本件ガイドラインに従って適切に棋譜の利用許諾料を支払うインセンティブが低下したことで、利用許諾料収入が減少した損害が発生したことが認められる(上記ア(イ))。もっとも、利用許諾を申請した事情及び翌年以降に利用許諾を申請しなかった事情は人それぞれであると考えられ、本件各配信によって利用許諾料収入がどの程度減少したかについては、損害の性質上立証することが極めて困難であると認められる。
また、1審原告読売には、本件各配信により、読売新聞オンラインの閲覧数の減少に伴う広告料収入減少の損害が発生したことが認められる(上記イ(イ))。もっとも、読売新聞オンラインの閲覧数の減少の原因が全て本件各配信にあるわけではなく、本件各配信が読売新聞オンラインの閲覧数の減少に与える影響は限定的であると考えられるところ(上15 記イ(ア))、本件各配信によって読売新聞オンラインの広告料収入がどの程度減少したかについては、損害の性質上立証することが極めて困難であると認められる。 そうであれば、1審原告読売の損害については、民訴法248条により、相当な損害額を認定すべきである。
このように、民事訴訟法248条*5の適用によって、損害額を認定すべきであるとした。
具体的な認定にあたっては、閲覧等制限によって判決文も一部マスキングされているが、「棋譜の利用権を問題とする以上、動画の本数ではなく、利用した棋譜の指し手数に基づいて算出するのが相当である。」としたうえで、指手数が短い対局は1局当たり15万円、通常の対局は20万円、長い対局は25万円として計算し、それぞれ計算した結果、合計16対局で325万円と算定された(弁護士費用は認められなかった。)。
若干のコメント
竜王戦の棋譜をリアルタイムで配信した行為については、原審同様に不法行為であると認められましたが、「棋譜は著作物ではない」「棋譜は、知的財産としての性質を有し、財産的保護に値する」ということを述べているところが目を引きます。棋譜は著作物に当たらないという見解は多くの法律家の支持を得ているところですが、「知的財産として・・保護に値する」と言い切った点は、少々意外でした。
「知的財産」は、法令上の定義(「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(略)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。」(知的財産基本法2条1項))があり、これに当たると述べています。知的財産に含まれるとしても、常にその利用が制限されるわけではありませんので、引き続き保護範囲の線引きは難しい状況が続きそうです*6。
侵害が認められた際の損害額の算定は、これもまた難しい問題で、本判決は、動画の本数を基準にするのではなく、配信された対局数、さらにはその対局の指し手の長短によって額を決めていました。これは、将棋連盟が許諾料を決める際の算定方式に近づけたのかもしれません。
本判決については、おなじみの松尾剛行先生のコラム*7が非常に参考になります。
*1:35期七番勝負は、広瀬八段の藤井竜王に対する挑戦を4勝2敗で退けた。36期七番勝負は、伊藤七段が藤井竜王に挑戦し、竜王が4勝0敗で挑戦を退けた。
*2:損害が認定されたのは読売新聞の営業上の損害についてのみであり、将棋連盟の損害賠償請求は認められていない。
*3:37期七番勝負は、佐々木八段が藤井竜王に挑戦し、竜王が4勝2敗で挑戦を退けた。
*4:この証拠は、記録を閲覧した松尾剛行先生によれば、佐藤康光九段(言うまでもないが、永世棋聖有資格者であるほか、日本将棋連盟の会長経験者である。)の陳述書だとのことである。
*5:「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」という規定。
*6:著作権法学会でも、壇上から会場に対して判決の適否について問われた際、賛否がそれなりに分かれていました。
*7:第376号 竜王戦の棋譜を対局の当日中に再現した動画の配信が不法行為として、主催者である新聞社に対する損害賠償が命じられ、控訴審でも不法行為との判断が維持された事案 - Westlaw Japan | 判例・法令検索・判例データベース | トムソン・ロイター
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