IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

請負か準委任か/未完成の責任 東京地判平27.11.24(平25ワ15414)

開発に関連する2つの契約について、法的性質(請負/準委任)が争われたほか、請負とされた契約が未完成に終わった場合において、全体のPMを担当していた発注者の責任だとされて報酬請求が認容された事例。

事案の概要

開発会社(ベンダ)Xが、Yより、本件第1ゲーム及び本件第2ゲーム(いずれもソーシャルゲーム)の開発を受託した(それぞれの契約を「本件第1契約」「本件第2契約」という。)。

これらの契約に基づく報酬が支払われていなかったことから、Xは、Yに対し、合計462万円の支払いを求めた。

ここで取り上げる争点

■本件第1契約及び本件第2契約の契約の性質(請負か準委任か)

Xは、準委任であるから完成の有無は問わないと主張し、仮に請負だとしても完成していると主張しているのに対し、Yは、請負契約であり、未完成であると主張していた。

裁判所の判断

本件第1契約について

以下の事実を認定した(改行位置等を適宜修正している。)。

①本件第1契約の報酬額は,追加分を含めて,いずれも,プログラマー(X側の技術者)ごとの1か月当たりの単価をその稼働期間に乗じて算定するという方法により,決定されていること

②本件第1ゲームの開発に必要な業務がXを含む複数の事業者によって分担されていた上,本件第1契約の締結の後である平成24年6月13日においてもXの担当するゲームロジックや仕様詳細等の資料が明らかになっておらず,同年7月4日にようやくXの直近1週間の作業内容が確定し,同月6日にCがゲームロジックの実装に取り掛かるための資料がYから提供されるに至るなど,Xの技術者が行うべき業務の内容が本件第1契約締結後のYの指示を踏まえて確定していくものであったこと

を認めることができる。このような本件第1契約に係る報酬額の決定の方法やXの業務の遂行の方法に照らすと,本件第1契約においては,Xの技術者がYの指示を受けて稼働し,その稼働期間を基準として被告が対価を支払うことが予定されていた

他方で、Yが、(ア)見積書や注文書に「納期」「納品物」「納品場所」等の記載があること、(イ)議事録に「座組」として記載された中に「ゲームプログラム:Cさん(Xのプログラマ)」とあること等に基づいて、請負契約であると主張していたことについて、

〈ア〉の見積書及び注文書の各記載が直ちに本件第1契約の法的性質を導くものではないし,また,上記認定の〈イ〉の議事録の記載も,それによって,Cが「ゲームプログラム」の全般を開発する業務を担当することが決まったことを示すとは解し難いものである。

として退けた上で、

本件第1契約の法的性質は,Xが技術者を提供することにより,本件第1ゲームの開発を支援し,これに対してYが当該技術者の稼働期間に応じた報酬を支払うという内容の準委任契約であったと考えるのが相当である。

と認め、Xの技術者の稼働分の報酬請求を認めた。

本件第2契約について

これに対し、本件第2契約の法的性質は請負契約であるとした。その理由は以下の通りである。

  • X代表者自身,その尋問において,本件第2契約がエンジニアの提供ではなく,本件第2ゲームを開発して納品するという内容のものであったことを自認する旨の陳述をしていること
  • 本件第1契約とは異なり,本件第2契約においては,その締結時点に企画概要書,開発資料,画面遷移図,画面リスト等がYからXに提供されたこと
  • その報酬額の決定に当たっても,総額を260万円とするという形で合意されていて,技術者ごとの単価をその稼働期間に乗じて算定するという方法が明示的にX及びY間において共有されていなかったこと

続いて、請負契約を前提とし、仕事の完成を否定したものの、完成をしなかったことについて、次のとおり、発注者(Y)の責任であるとして、民法536条2項を適用し、Xは報酬を請求できるとした。

本件第2契約が締結された後の平成24年10月1日以降,X側からY側に対してYが準備すべきデータや仕様の提出を求め,さらに,ステイゴールド社の従業員と連絡が取れないことから,その調整等を依頼していたにもかかわらず,Y側からの的確な調整や指示が行われなかったため,X側の作業が遅れ,納期までに完成物を納品することができなかったことを認めることができる。このような経緯に加え,本件第2契約が本件第2ゲームのプログラムの開発を仕事の内容とする請負契約であるとしても,当該証拠及び弁論の全趣旨によれば,当該開発が複数の事業者が作業を分担して行うという形態を採っており,そのうちYが注文者として全体の進行管理の役割を分担していたことを認めることができることに照らすと,Xが完成物を納品することができなかったのは,Y側の責めに帰すべき事由によるものと解するほかない。

若干のコメント

実務上、ソフトウェアの開発に関する契約の性質が請負か準委任かが争われることは少なくありません。それを区別する実益は、仕事が完成に至らなかった場合の報酬請求の可否というところで現れてきます。

もっとも、準委任であっても、工数を提供すれば報酬が請求できる形式であるとは限りませんし、定められた事務の履行が途中で終わっていれば報酬が請求できないこともあります。逆に、請負であっても、部分的な報酬請求権が認められており(民法634条)*1、また、未完成となった原因がユーザにある場合には、本件のようにベンダは報酬請求権が失われないため(民法536条2項)*2、両者の違いは結論を常に大きく分けるというわけではありません。

本件では、本件第1契約において「納期」「納入物」という記載がありつつも、それが法的帰結を導くものではない、と、曖昧な理由付けでありながらも、1カ月当たりの単価と稼働時間によって報酬が決まっていたことや、契約段階で業務の内容が決まっていなかったことを挙げて準委任契約だと認定したことが特徴的です。確かに、一般に「検収」「保証(瑕疵担保)」「納期」「納入」などの用語は、請負契約と親和的であるため、準委任契約として締結したい場合には、使用しないほうが無難です。

また、もう一つの本件の特徴は、請負契約において仕事が完成しなかったことの責任が発注者(ユーザ)側にあるとした点です。具体的には、作業分担して行われる形態で、その全体のPMをユーザが担っていたことなどが理由として挙げられており、完成しなかったらベンダの責任になるとは言えない場合もあるということを留意しておく必要があります。

 

*1:改正民法施行前の事案であるが、割合的報酬請求を認めた事例として、東京地判平20.12.25など。

*2:民法536条2項に基づく報酬請求を認容した事例として、東京地判令4.3.29東京地判平24.12.25など。