システムに瑕疵があることを理由に契約の解除ができるかどうかが争われた事件
事案の概要
ソフトウェアベンダXは,ユーザ企業Yとの間で,販売管理等の全社システムを開発する契約を締結し,Yは,内金として約1100万円を支払い,作業が進められた。作業は難航し,納期の変更などが繰り返されたが,なんとかシステムは納品され,検収後,本番稼動に至った。
ところが,稼働後も多数の不具合があることから,Yは不具合の修正を求めたが,Xからは残代金約1億1000万円を請求し,Yはこれを拒絶したため,Xから請負代金請求訴訟を提起した。Yは訴訟提起後に本請負契約を解除し,逆に,内金の返還請求と,損害賠償請求をXに対して行った。
ここで取り上げる争点
(1)システムは完成しているといえるか
(2)請負契約の解除は有効か。
裁判所の判断
(1) について。
まず,Yは,システムには不具合が多数存在するから,システムは完成していない,という旨の主張をしたが,裁判所は,請負契約における仕事の完成の判断基準について,
請負人が仕事を完成させたか否かについては、仕事が当初の請負契約で予定していた最後の工程まで終えているか否かを基準として判断すべきであり、注文者は、請負人が仕事の最後の工程まで終え目的物を引き渡したときには、単に、仕事の目的物に瑕疵があるというだけの理由で請負代金の支払を拒むことはできない
として,最終工程を終えて,稼働しているシステムについては,「本件システムを完成させたと認めるのが相当である」とした。
(2)について
まず,システムの特殊性について,
情報処理システムの開発に当たっては、作成したプログラムに不具合が生じることは不可避であり、プログラムに関する不具合は、納品及び検収等の過程における補修が当然に予定されているものというべきである。
このような情報処理システム開発の特殊性に照らすと、(中略)注文者から不具合が発生したとの指摘を受けた後、請負人が遅滞なく補修を終えるか、注文者と協議した上で相当な代替措置を講じたと認められるときは、システムの瑕疵には当たらない
として,要するにシステムにはバグはつきものだから,「遅滞なく補修」するか,「相当な代替措置」を講じる場合には,(法的な意味での)「瑕疵」には当たらない,という一般論を述べた。
その上で,Yが主張する不具合を個別に検討し,その多くについては「瑕疵」ではないとしたが,
- 在庫照会の検索処理に30分以上の時間を要する場合があり、その間、画面が止まったような状態になること
- 売上計上等の処理速度も遅く伝票を出力するまでの待ち時間も長いこと
- 1枚の仕入伝票を処理するのに約1時間かかること
- 仮締処理では30分程度であった月次処理時間が翌年の時点で約4時間に増加し、その後も増加を続けたこと
- システム内容を変更した場合、朝の電源投入処理に数十分の時間を要すること
- 月次処理の実行中は、端末自体が使用できなくなること
等の不具合が発生していたことを認定した上で,これら不具合については,
処理速度に関する不具合は、被告が本件システムを用いて通常業務を行う上で、看過することができない重大な不具合である
とした上で,「契約の目的を達成することのできない瑕疵である」と認めた。
そして,当該瑕疵の原因がXの設計にあることも認め,契約の解除は有効であるとして,逆にYからの既払いの内金返還及び損害賠償を認めた。
若干のコメント
システム開発における紛争パターンでもっとも多いのは,本件のようにシステム完成間近において「動かない」「支払わない」といったものである。
そういった中で,本判決では,「仕事の完成」については,乱暴に言えば,不具合があるからどうこうという問題ではなく,最終工程が終わっていれば完成している,と述べた点が注目される。また,ひとたび完成が認められると,瑕疵があるとして契約を解除しようとしても,本件のような「1枚の伝票入力に1時間かかる」といった唖然とするほどのレベルの不具合でもない限り,ユーザからみて解除は容易ではないことがわかる。
現場のユーザからすると,「バグがあるんだから,完成していない。直すまで金は払わない」などと言いたくなるものの,法的にみると,相当程度に重大な不具合であり,かつその原因がベンダにある場合でない限り,そのような主張は受け入れられないということになる。
ただ,このような判断を逆手に,品質の悪いシステムを納品して,代金請求をしてくる悪質なベンダが現れることも危惧される。そこで,ユーザとしては,事前対応として,検収基準,手順を明確に定めておき,仮に品質の悪いシステムが納品されれば,手順に沿った対応(具体的には不合格通知の送付等)を行い,代金請求権が発生しないようにしたい。いったん納品,検収の事実が認められると,上記のとおり解除のハードルは高い。