検収合格証を交付していたことから開発義務の債務不履行を否定し、課題管理台帳の内容も正常稼働を妨げる要因となるものはないとして稼働保証責任の不履行も否定した事例。
事案の概要
(複雑な経緯をたどっているため、大幅に簡略化している)
Xは、倉庫管理システム(aシステム)の販売を行うために、Yとの間で、プログラム等販売契約(本件販売契約)を締結した。本件販売契約では、Yが、aシステムのソースコード等をXに提供するとともに、YがXに対し、Xがこれを使用、複製、改変、販売等することを許諾することが含まれていた。
Yは、aシステムのソースコード(本件プログラム(Biz版))をXに交付し、Xは、検査合格証をYに交付した。Xは、本件販売契約に基づきYに対し、代金として合計で約4200万円を支払った。
その後、Xは、Yに対し、本件プログラム(Biz版)には多数の瑕疵があり、Yが修正をしないことを理由に、本件販売契約を解除する旨の意思表示をし、支払済みの代金のほか、損害賠償として逸失利益等を含め約1.3億円を請求した。
ここで取り扱う争点
(1)本件プログラム(Biz版)の開発義務の不履行の有無
(2)本件プログラム(Biz版)の稼働保証責任の不履行の有無
裁判所の判断
争点(1)本件プログラム(Biz版)の開発義務の不履行の有無
Yは,平成23年3月頃,本件プログラム(Biz版)を格納した媒体をXに交付したことが認められる。そして,確かに,その後,Xは,Y及びA社に対し,本件プログラム(Biz版)の障害管理台帳を作成してこれを示すとともに,不具合の修正がされるまで検収をすることができないとの意向も示していたことが認められるものの,証拠(甲24,73)によれば,Xの指摘した不具合の多くは,プログラムの稼働自体を妨げるものではなく,また,後に修正することができるものであったと認められる。さらに,Xが,同年9月30日に検収合格証を交付し,代金を支払っていることからすれば,完成した本件プログラム(Biz版)の納品はあったと認めるのが相当であり,本件プログラム(Biz版)にXの指摘する不具合があったことによって,稼働保証責任の問題が別途生じることはあっても,納品がなかったと解すべきではない。
上記のとおり、不具合はあれども、検収合格証を出して代金を支払っていることから、納品自体はあったと認定した。
争点(2)本件プログラム(Biz版)の稼働保証責任の不履行の有無
Yは,本件覚書5条1項において,本件プログラム(Biz版)が正常に稼働することを保証したものと認められる。本件覚書5条4項,本件販売契約9条3項によれば,稼働保証の内容は,本件プログラム(Biz版)が正常に稼働しない場合の交換又は修補を指すと解されるところ,上記4のとおり,Xは,平成24年3月14日頃の時点で,Y及びA社に対し,別紙課題管理台帳のうち,「不具合/エンハンス」欄の区分が「不具合」とされている各事象を,本件プログラム(Biz版)に生じている不具合として指摘していたことが認められる(同欄の区分が「エンハンス」とされているものは,本件プログラム(Biz版)の正常稼働を妨げるものではなく,改善のための要望事項であることが明らかである。)。
そして,確かに,上記認定のとおり,Xが,Yが本件プログラム(Biz版)を納品した平成23年3月から,Yが本件事業の検討を中止する意思を示した平成25年2月までの約2年間にわたり不具合の修正を求め,A社がその対処を行った部分があったにもかかわらず,結果的に本件プログラム(Biz版)の販売に至らなかったことは認められるものの,別紙課題管理台帳の不具合の「内容」欄及び「対策案」欄の記載自体からしても,Xが指摘する不具合は,販売のために改善を要望する事項にすぎないものがその大部分を占めているものというべきであり,上記不具合の中に正常な稼働を妨げる要因となるものが含まれていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
稼働保証責任があること、Xが不具合の指摘をしていたことは認定しつつも、指摘された不具合は、要望事項に過ぎないとして、稼働保証責任の不履行はなかったとした。
なお、ここでは取り上げていないが、Yにおいて、Java版の債務不履行があったことは認め、当該部分に相当する支払済の代金の一部について損害賠償責任を認めている(人件費、逸失利益等の損害は認めていない。)。
若干のコメント
本件は「検収合格証」が出されていたことを以って(それだけではないですが)プログラムの完成義務の履行が認められた事例です。原告Xは、検収合格証を出したことについて、
本件プログラム(Biz版)の販売先候補への販売準備を進めるためにその所有者をXにしておく必要があるなどとYから説明を受け,やむなくこれを交付したにすぎない。実際には,本件プログラム(Biz版)は,多数の不具合や動作不良により検収条件を満たしていなかった
と主張していましたが、不具合があることは、契約で定められた稼働保証責任(民法上では瑕疵担保責任/契約不適合責任に相当する)の問題であって、完成が否定されるものではないとしています。
「検収は形だけだから」との説明を受けて書類だけのつもりで交付していたとしても、後に完成を否定することは難しいでしょう(東京地判平15.5.8も「開発作業の商取引上の終了を確認する「検収」によって履行完了となる」と述べています。東京地判平26.10.1も「検収確認書」の交付によって仕事の完成を認めています。)。
なお、逆(検収合格書を出していなければ完成は認められない)が成り立つわけではありません。いわゆる「みなし合格」の規定が適用されるケースもありますし(東京地判平24.2.29)、検収に非協力的だったことによりユーザの協力義務違反が認められたケースもあります(東京高判平27.6.11)。