IT・システム判例メモ

弁護士 伊藤雅浩が,システム開発,ソフトウェア,ネットなどのIT紛争に関する裁判例を紹介します。

私的録画補償金控訴審 知財高判平23.12.22(H23ネ10008号)

東芝vsSARVHで知られる私的録画補償金に関する訴訟の控訴審


事案の概要及び原審の判断に関しては原審に関するエントリ参照。
http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20110115/1327152225


要するに,原審では,(1)アナログチューナ非搭載のDVD録画機器であっても補償金支払対象機器には該当するが,(2)著作権法104条の5が定める製造業者の「協力義務」からは金銭支払いの直接の義務は生じないとして,補償金を上乗せ徴収しなかったとしても不法行為も構成しないとしている。


控訴審でも再び,(1)アナログチューナ非搭載のDVD録画機器の特定機器該当性と,(2)著作権法104条の5が定める協力義務の意義が争点となった。

裁判所の判断

まず,上記(2)について判断している。


104条の5の協力義務には,上乗せ・納付方式を想定したものではあるが,条文上は明確にされていないとした上で,

本件訴訟で請求されているのはこの「上乗せ・納付方式」に基づくものであるが,法104条の5の協力義務として,他に例えば,?特定機器の製品パッケージに当該機器の購入者は指定管理団体へ補償金を支払う義務があることや,その金額及び支払先等を表示する方法,?特定機器の売り場において,製造業者等が自ら又は製造業者等から委託を受けた販売業者が,特定機器を購入する者から補償金を徴収する方法などが想定されるのであるから,控訴人が上乗せ額を被控訴人に請求することができるとすべき根拠は,一義的にはないことになる。

として,協力義務の履行として補償金の額の支払を求めることはできないとしている。


しかし,立法の経緯などから,

法104条の5が製造業者等の協力義務を法定し,また,指定管理団体が認可を受ける際には製造業者の意見を聴かなければならないと法104条の6第3項で規定されている以上,上記のような実態の下で「上乗せ・納付方式」に協力しない事実関係があれば,その違反について損害賠償義務を負担すべき場合のあることは否定することができない。製造業者等が協力義務に違反したときに,指定管理団体(本件では控訴人)に対する直截の債務とはならないとしても,その違反に至った経緯や違反の態様によってはそれについて指定管理団体が被った損害を賠償しなければならない場合も想定され,法104条の5違反ないし争点3(被控訴人による不法行為の成否)における控訴人主張を前提とする請求が成り立つ可能性がある。

として,協力義務の違反に至った経緯,態様によっては不法行為もありうる,とした。この点は,原審の判断とは明確に異なる。


その上で,特定機器該当性(争点(1))について,特定機器の指定を政令にゆだねたのは,刻々変化する録音・録画機器や記録媒体の実態を踏まえて,その都度対応するという立法意思に出たものであるという理解のもとに,

将来商品化されるデジタル録音・録画機器のすべてを法30条2項の補償金支払の対象とするというのではなく,様々な状況を総合的に勘案しその都度必要に応じて,関係者の利害状況も踏まえながら対象機器を追加するという趣旨に出たものであることが,法30条2項の立法当初から念頭に置かれていたものということができる。

とする。問題となった政令2条1項,2項各号の「アナログデジタル変換された」の文言については,当時の経緯に照らして,

上記経緯にかんがみて総合的な見地から解釈するならば,放送波がアナログであることを前提にしてこれについてアナログデジタル変換を行うことが規定されていると解するものであり,これを超えての範囲を意味するものと解することはできない

として,「デジタルチューナーのみを搭載する録画機器にあっては,録画される対象が「アナログデジタル変換が行われた影像」であるとの施行令1条2項3号の要件を充足しないから,同号所定の特定機器に該当するものと認めることはできないとした。

若干のコメント

知財高裁は,特定機器該当性につき,政令の文言に忠実な解釈をするならば,東京地裁のような判断になるべきところ,具体的な機器の指定が政令にゆだねられたことの趣旨や,当時の経緯から,政令の文言を限定解釈した。もともと東芝は,アナログチューナ非搭載の録画機器は補償金の対象外だということを勝ちとりたかったと思われるので,知財高裁の判断は歓迎だろう。


他方,一審では,「協力」しなかったことにより不法行為責任を負うとはいえないとしたことから,この制度の脆弱性を強調する結果となったが,知財高裁では,「協力義務」との表現であるが,これに違反すれば場合によって不法行為責任を負う,と明確にしたことで,不安定ながらも,とりあえずこの制度が瓦解することは避けられたというべきだろう。


こうしてみれば,東京地裁知財高裁とで,各論点について別々の答えが出されたが,知財高裁のほうが全体バランスを考慮した判断を行ったものと見てとれる。しかし,結局のところ,この問題は,結局制度論や著作権の本質まで遡らないと,なかなか解決できないものだと感じる。