ライセンス契約,サポート契約における自動更新条項の解釈が争いとなった事例。
事案の概要
XとYは,平成18年,Xのプログラム(本プログラム)とYの技術を組み合わせてXが開発する製品(本製品)について,契約期間5年(平成19年4月1日から平成24年3月31日まで。自動延長あり。),XからYに対して販売する際における本件プログラムの使用許諾契約を締結した。同日,本製品についてのサポート契約(両者合わせて本件契約)も締結された。
下記は,ライセンス契約の契約期間条項(太字装飾は著者)。サポート契約についても同旨。
第13条(契約期間)
契約の期間は,2006年12月28日から2011年12月27日までの5年間とする。また,契約終了の3か月以前に被告・技研・原告のいずれからも相手方に対して書面にて解約の申入れを行い協議の上合意した場合を除き,この契約は更に1年間自動延長し,その後も同様とする。(以下略)
上記のとおり,自動更新条項といっても,更新拒絶通知がない限り自動更新されるというものではなく,双方の「合意」があった場合を除いて延長されるという定めになっていた。
Yは,本件契約に基づいて,初期費用,年間サポート費用を支払ってきた。しかし,当初期間が満了した後の,平成24年4月1日以降のライセンス料,サポート費用が支払われなかったことから,Xは,Yに対し,合計で1344万円の支払いを求めた。Yは,契約の終了を主張していた。
ここで取り上げる争点
本件契約が期間満了によって終了したか。
裁判所の判断
まず,裁判所は自動更新条項について次のように述べた。
本件契約においては,契約書上,契約終了の3か月以前に,X,Y及びZのいずれからも相手方に対して書面にて解約の申入れを行い協議の上合意した場合を除き,更に1年間自動延長するとの条項(本件更新条項)が設けられている。この条項を文言どおり解するならば,当事者間の合意がない限り,本件契約は永続的に自動更新され,各当事者は契約上の義務を負い続けることになる。
しかしながら,ソフトウェア製品の開発,保守,ライセンス契約を締結する事業者が,このような事態を想定するとは通常は考え難いことである。
そして,5年の当初契約期間については,両当事者の契約前交渉において,投下資本回収等の事情を考慮して決められたものであるという事情を認めたうえで,
これらの点を勘案すれば,5年という契約期間については,約定の期間が満了するまで契約を継続させるという強い拘束力を有するものとして定めたと認めるのが相当であるが,その後の1年間ごとの更新を定める本件更新条項については,特段の交渉対象とされなかったことからしても,そのような強い拘束力を有するものとして定められたと認めるのは相当でないというべきである。
そして,本件サポート契約は,XがYのために開発した本製品について,維持改良を行うことを内容とするものであるから,委任契約に類似した継続的契約の性質を有するものと解するべきところ,やむを得ない事由があるときに当事者は契約を解除することができるとする民法651条の趣旨を考慮すると,少なくとも,更新を妨げるやむを得ない事由がある場合には更新を拒絶することができると解するのが相当である。
と述べて,文言どおり解約合意がない限り解約できない,という解釈はとらないとした。
そのうえで,XY間の事情においては,「契約の実質的目的を達成し得ない状況となり,これ以上本件サポート契約を継続する商業上の意味を失った」として,「Yが契約更新を拒絶するのにやむを得ない事由があると認めるのが相当」だとして,期間満了により終了したから,Xの請求は退けられた。
若干のコメント
一般的な自動更新条項は,「期間満了の●日前までに,いずれの当事者からも,更新を拒絶する旨の書面による通知が到達しなかったときは」などと,事前通知の有無が更新の条件となっていますが,本件では,通知,協議,合意がない限り更新されるという「固い」自動更新条項になっていました。
契約期間や更新条件については,契約締結前に交渉事項となっていたようで,最初にこのような自動更新条項を提示したのはYだったものの,このような文言を文言どおりには解釈せず,裁判所は「合理的意思解釈」によって,やむを得ない事由があれば更新拒絶できるとしました。
裁判所は,杓子定規な文言解釈だけでなく,不合理な条件にならないよう,柔軟に解釈してくれることが多いですが,少なくともこのような事態に発展することを避けるため,契約書の文言には十分気を付けたいものです。