スケジュール管理ソフト画面の著作権侵害が問題となった事例。
事案の概要
Xは,平成12年12月より,「Pim−face ver2.0」というスケジュール管理ソフト(Xソフト)を販売していた。Yは,「pimca ver1.0」等の名称のスケジュール管理ソフト(Yソフト)を販売していた。
Xは,Yに対し,Yの行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たる,著作権侵害(複製権・翻案権)に当たる,不法行為に当たるとして,Yソフトの販売差止や損害賠償を請求した。
ここで取り上げる争点
著作権侵害の成否
裁判所の判断
裁判所は,Xソフト,Yソフトの個別の画面の対比を行うに先立って,次のような一般論を述べている。
著作物の複製又は翻案が認められるためには、Xソフトの表現上の創作性を有する部分がYソフトと実質的に同一であるか又はYソフトからXソフトの表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができなければならないと解される。
弁論の全趣旨によると、Xソフトは、PIMソフトといわれるものの一種であり、その基本的な機能は、個人のスケジュール管理、アドレス帳及び日記の3つに集約されるものと認められる。しかし、個人のスケジュール管理、アドレス帳、日記といったものについては、それぞれその機能に由来する必然的な制約が存在するものであるし、また、コンピュータの利用が行われるようになる前から、紙製の手帳、アドレス帳、日記帳といったものが存在していたのであるから、このような紙製の手帳等に用いられている書式や構成は、Xソフトよりはるか前から既に知られていたものである。さらに、証拠(乙1)と弁論の全趣旨によると、他に多くのPIMソフトが存在するものと認められるから、これらのPIMソフトにおいて知られているありふれた書式や構成というものが存在すると考えられる。そうすると、Xソフトの表示画面については、各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方、各表示画面の選択・配列などの点において、作成者の知的活動が介在し、作成者の個性が創作的に表現される余地があるが、作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は、上記の理由により限定されているものというべきであるから、YソフトがXソフトの複製又は翻案であるかどうかを判断するに当たっては、以上のような点を十分考慮する必要があるものというべきである。
つまり,ソフトウェアの性質上,機能の制約によって必然的に類似する部分が出てくることから,著作権侵害の判定にあたってはその点を考慮する必要があると述べている。
いくつかの画面が対比して検討されているが,ここでは,週表示画面を取り上げる(上の図がXソフトの画面,下の図がYソフトの画面。画像が不鮮明だが,こちらは裁判所HPからの転載。)。
まず,両画面の共通点として次のような点を認定した。
〈1〉画面の左側半分全体に、週の7日間を順番に縦に表示していること
〈2〉1週間の表示においては、日付と曜日の右横に各日の大まかなスケジュールが表示される窓が配されていること
〈3〉1週間の表示における日付と曜日は、略正方形状のボックス内に表示されており、日付が大きく上に、曜日が英語の略語表記で下に小さく配され、このボックスには影が付され、ボックスが浮いて見えるようになっていること
〈4〉1週間の表示における大まかなスケジュールの表示部分が横長の長方形の形状とされていること
〈5〉1週間の表示の左側上下には、週を移行するための上向き、下向きのボタンがそれぞれ設けられていること
〈6〉画面の右側下部には、特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があり、その上にスケジュールとダイアリーの切替えを行うボタンが設けられていて、切り替えるようになっていること
〈7〉スケジュール/ダイアリー表示窓の右上にはインプットボタンがあり、スケジュール画面でこのボタンを押すと、スケジュール入力画面が別画面として表示され、そこで入力すると、1週間の表示の部分と特定日のスケジュールの部分の双方に表示されること
〈8〉画面の右上には、スケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日が、1週間の表示部分と同様なボックス内に表示されており、スケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日は、1週間の表示の日付をクリックすることによって変わること
〈9〉週移行ボタン、1週間表示の各日付ボタン、スケジュール又はダイアリーの切替えボタン、インプットボタンを押したときに効果音を発すること
の各点で共通する。
しかし,これらの点について次のように述べる。
1ページの左側半分全体に、週の7日間を順番に縦に表示し、その部分においては、日付と曜日の右横に各日のスケジュールを記載する横長の長方形の形状の枠が設けられており、1ページの右側に、更に詳細な予定等を記載する部分が設けられている手帳は、従来からよく知られていたものと認められる。そうすると、上記共通点のうち、〈1〉、〈2〉、〈3〉のうち1週間の表示における日付と曜日は、日付が大きく上に、曜日が英語の略語表記で下に小さく配されていること、〈4〉、〈6〉のうち画面の右側下部に特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があることは、従来からよく知られているありふれた書式であるということができるから、これらの共通点があるとしても、複製又は翻案が基礎づけられるものではない。
さらに,日付と曜日が記されたボックスの形状,ボタンを押した際の効果音など,細かな相違点を具体的に指摘した上で,「Yソフトの週表示画面は、Xソフトの週表示画面を複製又は翻案したものということはできない。」と結論付けた。
そのほか,アドレス帳画面,月表示画面,プロフィール画面等について,同様に著作権侵害を否定し,全体としても著作権侵害を認めなかった。
なお,不競法2条1項3号の点については,画面が同号にいう「商品の形態」に該当することを前提として,同一又は実質的に同一であるかどうか判断しているが,こちらも否定した。
若干のコメント
この種の画面デザインに関する著作権侵害事件では,いわゆる「サイボウズ事件」(東京地判平14.9.6―当ブログでは未紹介)が有名です。本件も同様に,ソフトウェアの機能の制約から必然的に決まってくるデザインであるとか,問題となるソフトウェアが登場する以前から存在していたデザイン(デジタル,アナログ問わない)について類似していたとしても,創作的表現が共通するとはいえず,著作権侵害を構成しない,と述べています。
この事案では,共通点を列挙した上で,相違点を列挙して「著作権侵害ではない」という判断がなされているので,理由付けとしては若干不十分な印象を受けます。
なお,上記サイボウズ事件が主にビジネスユースを対象として,より機能的なソフトウェアであったのに対し,本件は,パーソナルユースをターゲットにしたPIM(Personal Information Management)ソフトであって,上記画像からもわかるとおり,女性の画像が挿入されるなど,デザインの自由度が高いことから,創作性が認められる余地があります。
そのため,Xソフトの特徴的な部分(ロゴや女性を配置したこと等)まで含めて共通していた場合には著作権侵害の可能性はあったかもしれません。