書店向け業務ソフトの表示画面に関する著作権侵害の成否が争われた事案の控訴審判決。
事案の概要
本件は、当ブログでも紹介した東京地判令3.9.17の控訴審なので、事案の概要等はリンク先にて確認していただきたい。原審は、原告、被告のそれぞれの表示画面に共通部分を見出しつつも、その共通部分には本質的特徴を直接感得できるものではない、として、すべての画面について複製・翻案権侵害を否定した。
これに対し、Xが控訴し、著作権侵害、不正競争(2条1項1号)のほか、新たに顧客奪取行為が不法行為に該当するという主張も追加した(ただし、退けられているので、ここでは取り扱わない。)。
ここで取り上げる争点
ビジネスソフトウェアの画面における創作性の判断方法について。
Xは、控訴審にて、原審の判断手法が下記のように誤りであると主張していた。
ア ビジネスソフトウェアのディスプレイ(UI,UX)の創作性・表現の選択の幅について
(ア) 原判決は,控訴人製品及び被控訴人製品の各画面を個別に取り上げ,その共通部分を抽出して比較して創作性の判断を行っているところ,控訴人製品のような一覧困難な創作物における創作的表現の判断においては,①共通部分を分析的に切り出してその創作性を判断した上で,②それを踏まえて控訴人製品において問題とされる箇所全体をひとまとまりとして捉えて,創作性のある表現といえるかを検討すべきである。しかるに,原判決は,ビジネスソフトウェアにおける技術的思想の表現について,分析的に判断するあまり,断片的な評価に陥り,共通部分を分析的に切り出して判断をしたにとどまっており,控訴人製品と被控訴人製品とで特に問題とされる一致箇所(特に,書籍データの分析・表示・発注・管理画面の表示)をひとまとまりとして捉えて創作性を判断するというプロセスを経ない結果,控訴人製品がいかにその技術的思想が効果的に表現されたものであるかの判断を誤っている。
裁判所の判断
Xの主張は、個々のパーツ(ボタンや入力項目、その配置等)だけをみて創作性を判断するのではなく、全体を観察して判断すべきというものであったが、裁判所は、次のように述べて原判決の判断を変更しなかった。
控訴人表示画面と被控訴人表示画面の対比に係る判断は,同1(3)のとおりであって,控訴人表示画面と被控訴人表示画面の共通する部分をひとまとまりにして検討することによって,上記判断が左右されるものではない。ビジネスソフトウェアのディスプレイ(表示画面)における表現の創作性について丁寧な検討が必要であるという一般論の主張も,上記判断に影響しない。控訴人が②データ分析等画面に多数散りばめられていると主張する表現上の工夫のうち,発注操作を行う欄の配色については,創作者の思想又は感情が創作的に表現されているといえる程度の特徴を有するものとは認められず,同欄の位置や詳細情報を画面の下方に配置することは,書店業務を効率的に行うという観点から通常想定される範囲内のものである。控訴人の主張する②データ分析等画面における素材の選択及び配列における選択の幅についても,訂正して引用した原判決の第4の1(4)で判断したとおりである。
若干のコメント
ビジネスソフトウェアの表示画面の著作権侵害に関する過去の裁判例は、原審のエントリでもいくつか紹介していますが、知財高裁での判断はこれまでなかったように思いますので、結論や判断過程は原審と同様だとしても、今後の同種事件の判断において参考になると思われます。
画面などの個々のパーツの共通部分について創作性を判断するとどうしても「ありふれている」という評価になりやすいため、全体的に観察すべきであるとのXの主張は、よく理解できるところです(この種の主張は、ゲームの事件(知財高判令3.9.29)などでもよく主張されています。)。
本件では、ひとまとまりに検討するという手法をとる必要がないと述べたわけではなく、「共通する部分をひとまとまりにして検討することによって,上記判断が左右されるものではない」と述べているので、およそXの主張する判断手法自体が否定されたとは言えないものの、ひとまとまりで評価した結果について何も触れていないので、このような考え方に対してあまり前向きに検討された形跡はうかがえません。
画像意匠の登録が広く可能になったことを踏まえると、やはりUI/UXを保護するとなると、特許や意匠を検討すべきだろうと思います。