事案の概要
放置系RPG*1と呼ばれるジャンルのA(Xゲーム*2)に係る著作権を共有するXが,同じジャンルのB(Yゲーム*3)を配信するYに対し,著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)を侵害するとして,著作権法114条2項に基づく損害賠償4800万円,弁護士費用960万円等と,同法112条1項及び2項に基づいて差止めと記憶媒体からの削除を求めた。
原審(東京地(47部)判令3.2.18(平30ワ28994号))では,著作権の帰属から争われていたが,XがXゲームの共有持分権を有することは認めつつも,YゲームはXゲームの構成,機能,画面配置等及びこれらの組合せを複製又は翻案したものであるとはいえず,Yゲームに係るソースコードはXゲームに係るソースコードを複製又は翻案したものであるともいえないとして,Xの請求をいずれも棄却した。
Xは,損害賠償請求にかかる部分のみを控訴しつつ*4,一般不法行為による損害賠償請求も選択的に追加した。
ここで取り上げる争点
著作権の帰属は控訴審でも争われたが,ここでは取り上げない。また,関連して損害賠償請求権の譲渡や信託法10条(訴訟信託の禁止)違反の点も争われたが,この点も取り上げない。
本ブログで取り上げるのは,著作権侵害の部分のみとする。
Xは,XゲームとYゲームについて,ゲームの構成,機能,画面配置等及びこれらの組合せが類似するほか,プログラムについても複製・翻案されたものであるなどと,多岐にわたる主張をしていた。
裁判所の判断
いわゆる改め方式の判決で,基本的に原審判決が引用されているため,以下では,原審判決部分を中心に引用する*5。
ゲームの複製・翻案該当性の判断基準
裁判所は,いわゆる江差追分最高裁判決(最判平13.6.28)を引用して,複製・翻案の規範を述べた後,携帯電話機等を用いたゲームにおける考え方について次のように述べた。
本件のような携帯電話機等を用いたゲームについては,通常の映画とは異なり,システムないしルールが決められ,プレイヤーはシステムないしルールに基づいてプレイするところ,このようなゲームのシステムないしルール自体はアイデアそのものであり,著作物ということはできず,システムないしルールに基づき具体的に表現されたものがある場合に,初めてその創作性の有無等が問題となるというべきである。
また,このようなゲームは,プレイヤーが参加して楽しむというインタラクティブ性を有しているため,プレイヤーが必要とする情報を表示し,又はプレイヤーの選択肢を表示するための画面(ユーザーインターフェース)(乙9~11)を表示する必要があり,また,ディスプレイ上に表示される画面は常に一定ではなく,プレイヤーが各画面に設置されたリンクを選択することによって異なる画面に遷移し,これを繰り返してゲームを進めるという仕組みになっているところ,一連のまとまった表現として把握される複数の画像が,プレイヤーの操作・選択により,又はあらかじめ設定されたプログラムに基づいて,連続的に展開することにより形成されている場合には,一連のまとまった表現を構成する各画像自体の創作性及び表現性のみならず,その組合せ・配列により表現される画像の変化も,著作権法による保護の対象となり得る。もっとも,このようなゲームにおける各画像及びその組合せ・配列については,プレイヤーによるリンクの発見や閲覧の容易性,操作等の利便性の観点から機能的な面に基づく制約を受けざるを得ないため,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は自ずと限定的なものとならざるを得ず,上記制約を考慮してもなおゲーム作成者の個性が表現されているものとして著作物性(創作性)を肯定し得るのは,他の同種ゲームとの比較の見地等からして,特に特徴的であり独自性があると認められるような限定的な場合とならざるを得ないものというべきである。
つまり,複数の画像の組み合わせについて著作物になる場合があるとしつつも,さまざまな制約がある中での表現になることから,同種のゲームと比較するなどして特徴的であって独自性がある場合に限って著作物性を肯定できるとした。
基本的構成について
XゲームとYゲームとの間では,以下の共通点があるとしつつも,これはアイデアに過ぎないとして複製又は翻案にはあたらないとした。
- 歴史をテーマにし,歴史上の武将を美少女化し,フルオート機能(プレイヤーが,実際にプレイすることなくアプリを閉じていても,ゲームが自動的に進行し,経験値を獲得してキャラクターを育成することができる機能)を備えた放置系RPGゲームである
- サーバー内のプレイヤー同士でグループを作り,ボス等に挑戦することができる「同盟」機能,キャラクターのステータスや装備を好みに合わせて強化育成できる「強化育成」機能,サーバー内のプレイヤー間や同盟を結んだプレイヤー間で情報交換をすることができる「チャット」機能を備えている
キャラクターの名称,構成,機能
同様に,以下の共通点を認めつつもアイデアに過ぎないとして複製又は翻案には当たらないとした。
- キャラクターが「主将」と「副将」から構成される点
- 「主将」の職業は,初めてゲームを開始する際に,「筋力」をメインの能力とするもの,「知力」をメインの能力とするもの,「敏捷」をメインの能力とするものの3つの中から選択する点
- 「副将」は,歴史上の人物が女性化して登場し,一定の条件を満たすと,当該副将が使用できるようになり,レベルが上がるにつれて副将の数を増やすことができ,副将を「出陣」させたり,「応援」させたりすることができる点
- 各キャラクターは,画面上で華麗にゆらゆらと動いており,キャラクターをタッチすると,キャラクターのボイスを聴くことができる点
各画面の名称,構成,機能
両ゲームの画面の名称,構成,機能にも多くの共通点*6があると認めたが,アイデアなど表現それ自体ではない部分であるか,具体的表現であるとしても,これに接する者がXゲームの本質的特徴を直接感得できるものではないとした。
利用規約
両ゲームの利用規約は,会社名以外が同一であった。この点についても著作権侵害が問題となったが,裁判所は次のように述べて否定した。
一般的に,ゲームの利用規約は,法令や慣行により,形式及び内容が定型的なものとなり,その創作性が認められるのは,それにもかかわらず作成者の個性が発揮されたといえるような極めて限定された場合に限られると考えられる。しかして,弁論の全趣旨によれば,Xゲームの利用規約は,LINEゲームの利用規約と相当程度に類似しているものであることが認められる。そして,XゲームとYゲームの利用規約に係る上記共通部分をみても,いずれも定型的なものの範囲にとどまっており,上記の限定された場合に当たるものとみられるものは存しない。そうすると,上記共通部分については,いずれも創作性が認められないものというほかなく,そのような点が共通するとしても,複製又は翻案に当たらない。
ゲーム全体について
裁判所は,Yゲーム全体の構成・機能・画面配置等の組合せ(画面の変遷並びに素材の選択及び配列)についても,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分においてXゲームのそれと同一性を有するにすぎないと述べて,複製又は翻案に当たらないとした。
この点について,Xは,「Yゲームは,Xゲームと合計84画面の構成・機能・画面配置等が全て共通しており,Xゲームをほぼデッドコピーして制作されたものである」として,ゲーム全体について複製又は翻案が成立すると主張していたが,裁判所は,
著作物の創作的表現は,様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから,XゲームとYゲームの共通部分が表現といえるか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益かつ必要なことであって,その上で,ゲーム全体又は侵害が主張されている部分全体について表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断することが,正当な判断手法ということができるところ,両ゲームの各画面等の共通部分は,アイデアや創作性のないものにとどまることは,前記説示のとおりである。そして,著作権法上,著作物として保護されるのは,画面の選択や配列に関するアイデア自体ではなく,具体的表現であるから,画面の選択や配列に選択の余地があったとしても,実際に作成された表現がありふれたものである限り,それが共通することを理由として,複製又は翻案が成立するということはできないし,具体的な表現が異なることにより,表現上の本質的な特徴が直接感得できなくなる場合があり得るところ,前記説示のとおり,本件において,Yゲームの画面の選択や配列から,Xゲームのそれの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないものである。
このように述べてXの主張するような全体観察的な手法を否定した。
これらの地裁の判断に対し,控訴審ではXは,次のように,個々のパーツの比較による方法は不適当であると主張した。
全体として一つのゲームを一画面一画面に分断し,分断した画面ごとに共通する部分(アイコン等の配置等)について,個別に創作性を判断し,その結果として,共通する部分全体の創作性を否定したものであり,一連の流れのあるゲームの著作権侵害を判断しているのではなく,画面の著作権侵害を判断しているにすぎないから,このような原判決の判断手法によると,他社のゲームをデッドコピーしても,キャラクターやアイコンのデザイン等を多少変更さえしてしまえば,著作権侵害を免れることになり,不合理である
この点について裁判所は,
Xゲーム全体とYゲーム全体の共通部分が創作的表現といえるか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて表現といえるか否か,表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益かつ必要なことであり,その上で,ゲーム全体又は侵害が主張されている部分全体について表現といえるか否か,表現上の創作性を有するか否かを判断することは,合理的な判断手法である
として同様に退けた。
不合理な一致点があることについて
XゲームとYゲームとの間には,
- 「サーバーデータ取得エラー26002」という共通のエラーメッセージがある
- Yゲーム内の通貨は「判金」なのに,イベント画面でXゲーム内の通貨である「元宝」という通貨名称が登場する
- Yゲーム内に該当する名称の機能が存在しないのにXゲーム内の機能等の名称である用語が使われている
- Yゲームのソースコード内に,Xゲームの開発担当者名が残されている
といった不合理な一致点,特徴があった。しかし,裁判所は,
上記の事実から,YゲームがXゲームを参考にして制作されたことが認められるとしても,その共通点はアイデアや創作性のないものにとどまり,また,具体的表現において相違し,デッドコピーであるとは評価できないのであるから,Yゲーム全体が,Xゲーム全体の複製又は翻案に当たるということはできない。
と述べて,あくまでも,共通部分はアイデアや創作性のないものにとどまるとして,この点をとらえて著作権侵害を認めなかった。
プログラムについて
XゲームとYゲームとの間では,あるプログラムにおいて,90%以上の共通部分があることが認められていた(具体的な共通部分の対比も行われたが,判例DBには登載されていない。)。しかし,この点についても裁判所は,
Xソースコードは,全体として,ゲーム画面内の上記5つのボタンが押された際の画面の切り替えに関する処理や表示内容の更新処理を行うものにすぎず,「メインミッション」,「デイリーミッション」,「功績」の内容とは直接関係しない,上記のような定型的な処理を機械的に実行するプログラムであるにすぎない。そして,個々のソースコードをみても,同表の「裁判所の認定」欄記載のとおり,いずれも単純な作業を行うfunction(ローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び出し等)が複数記述されたものにすぎないから,このように定型的なありふれたものについて作成者の個性が表れており創作性があるとは認められないし,そのような創作性の認められない個々のソースコードの記載の順序や組合せについても,あくまでゲームの機能に対応した表現にすぎないから,やはり創作性があるとは認め難いというべきである。
控訴審では対象を広げてプログラムの著作物侵害が争われたが,同様に具体的な記述はありふれたものであるとして,プログラムの著作物には該当しないとされた。
編集著作物について
控訴審では,素材である個々の画面の選択,画面遷移等の配列,アイコン,ボタン,キャラクター等の選択または配列に個性が発揮された編集著作物であるとの主張が加わった。しかし,この点についても裁判所は,
Xゲーム又はXソースコードにおける個々の素材の選択又は配列にいかなる創作的表現がされているのか,その創作的表現がYゲーム又はYソースコードにおいてどのように利用されているのかについて具体的に主張するものではないから,その主張自体理由がない。
として否定された。
一般不法行為の成否について
控訴審で追加された一般不法行為の主張については,Xの主張は,著作物の独占的な利用の利益とは異なる法的保護に値する利益には当たらないとして退けられた。
若干のコメント
携帯電話機,スマートフォンを使った同一カテゴリの類似ゲームに関する著作権侵害紛争では,グリーvsDeNAの釣りゲー事件(知財高判平24.8.8)や,プロ野球カードゲーム事件(知財高判平27.6.24)が有名です。他にも,訴訟は提起されたが判決に至っていないものや,訴訟に至る前に警告状が取り交わされたものなど,表に出ていないケースは多数あると思われます。
これらの事案や,本判決からは,一般の感覚から「似ている」「パクリ」と呼ばれるものであっても,著作権侵害とされるには超えなければならない相当のハードルがあることが読み取れます。
しかし,前述の釣りゲーや野球カードゲーム事件と,本件では大きな違いがあります。
釣りゲー事件等の先行事例では,ヒットする先行品の類似品を開発しようという意図はあったとしても,具体的な表現をコピーする行為はなかったと思われるのに対し,本件では,利用規約が全文一致していたり,不自然なバグやコードが共通しているなど,Yゲームの開発過程において,Xゲームのリソースがそのまま(少なくとも部分的には)コピーされたということはほぼ明らかであったという違いが挙げられます。こうした事情は,裁判所の印象もかなり悪くなると思われるのですが,純粋に表現の対比を行い,侵害を否定しています。
Xも主張していたように,個別のパーツに分けて対比すると,各単位が小さいものであるほど,どうしても創作性のある表現であることが認めにくくなっているようにも思います。この点については,前述の釣りゲー事件控訴審でも
著作物の創作的表現は,様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから,原告作品と被告作品の共通部分が表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて,表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益であり,かつ必要なことであって,その上で,作品全体又は侵害が主張されている部分全体について,表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断することは,正当な判断手法ということができる。
と述べており,ほぼ同じ考え方が踏襲されています。
野球カードゲームではごく一部(カードの図柄)について著作権侵害を認めましたが,こうした具体的表現において共通する場合を除き,ゲームの構成,機能などにおいていくら共通点があるとしても,著作権侵害が成立するのは難しいことを改めて感じさせられます。